元P&G米国本社プレジデント兼アジア最高責任者桐山一憲氏に学ぶ グローバルで活躍する人材の育て方vol.3

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”海外駐在体験で得たマイノリティへの理解と配慮”

前回はP&Gにおいて、ストレッチアサイメントがどのように徹底されているか、桐山氏ご自身の体験も含めてお伺いしました。

今回は、桐山氏自身のストレッチ・アサインメントであった海外での経験が、後にアジア最高責任者として活躍される桐山氏に、どのような影響を与え、その経験がどのように現在に生きているのかについて、お話をお聴きしたいと思います。

英語を話せば伝わるわけではない

森田:前回、カナダへ初の海外赴任での強烈な体験についてお話いただきましたが、桐山さんのこのときの英語力はどれくらいだったのでしょうか。IMG_7511 (1)

桐山:はっきり言って、とてもビジネスで通用するようなレベルではありませんでしたね。TOEICの点数もひどいものでした。

森田:赴任先で、そのレベルはぐんと上がったのですね?

桐山:最初は大変でしたね。ビジネスの現場どころか、コーヒーショップで、コーヒーを注文した時に、何回も聞き返されて、なかなか注文できない、というところからスタートですから。ビジネス英語のレベルということで言えば、カナダでのアサイメントではなく、2度目の海外赴任先であった韓国で飛躍的に向上した、という感覚がありましたね。

森田:英語を自在にこなせるようになるまでのプロセスで、何かきっかけというか気づいたことなどはありましたか?

桐山:恥ずかしい事ですが、今でも英語を自在にこなせているとは正直言えません(笑)。カナダでは一部地域を除き英語が母国語なんですね。私は流暢に英語をぺらぺらと話している彼らのアクセントやリズムを必死で真似して話そうとしたのですが…これは大失敗でしたね。何も相手に通じないんです。流暢に英語を話さなければと意識をすればするほど、相手にはなかなか通じない、伝わらなければ、何の意味もありません。日本人である(しかも、英語のレベルがそれほどでもない)私たちが英語を母国語として長年使いこなしている彼らの見よう見まねをしても違和感があるだけなのです。

英語(特にビジネス英語)は意思を伝えるためのツールなので、彼らのスタイルを真似る必要はなくて、何を誰に伝えたいのか、その目的にフォーカスして、基本的な言葉(単語)を使って、伝えたいことをシンプルにしっかり組み立てること。ストレートに、力強い球を投げる、という事がとても大切なことなんだと実感しましたね。韓国で私のビジネス英語(伝える力)が飛躍的に向上したのはそこにヒントありました。これは、アジアプレジデントとして、多くの従業員にメッセージを発するときにも非常に大切なこと、意識することの一つでした。できるだけシンプルに、誰にでも伝わるように発信すること。

森田:日本人が海外で活躍するために、それは非常に重要なことだという気がしますね。欧米人のような振る舞いで、流暢に英語を話せるようになることがゴールのように思いがちですが、大切なのはその中身と、伝え方であると。ただ漫然と欧米のスタイルを真似るのではなく、どうしたら相手に伝わるかを、考え抜いて、シンプルな英語に落とし込んでいくというのが大切だということですね。

森田:海外赴任時に得たもので、今に生きていると思われることについて、是非お聞かせいただけますか?

ローカル社員の立場を考える 〜マジョリティであることを意識せよ

桐山:グローバルで多様化した組織を運営する上で、数が多い事だけがマジョリティではないと言う事を知っておく必要があると思います。どういうことかと言うと、それはローカル社員と、本社から派遣された駐在員との関係です。現地組織に於ける数ではローカル社員がマジョリティではあるけれど、実際にはその会社の本国で入社した人たちがマジョリティです。日本企業であれば、間違いなく日本人がどこに行ってもマジョリティです。そして、そのマジョリティの人たちのビジネスや組織に対する取組姿勢で現法組織の強さや弱さに大きな影響を及ぼすと言う事です。

例えば、私がカナダに居たときには、ローカルのカナダ人の社員と、アメリカ本社から派遣されて来た社員やマネジャーの間にはかなり大きな”隙間”がありました。私から見ると、見た目はどちらも欧米人で変わりませんが、課題に対する意識や物事の捉え方が随分違うし、アプローチの仕方も違っていました。お互いが相手を認める事をぜず、それぞれの主張を優先していた様に思えました。アメリカ本社からきていた社員やマネジャーとも、しっかりと対峙出来ていた優秀なローカルのカナダ人社員も当初は結構いましたが、気が付くと彼らの多くが会社を去って行きました。辞めた理由の多くは、考えの違いやアプローチの違いを本社側が理解しようとしない尊重されないでした。因みに私は1年で4人の違うカナダ人上司にレポートをしました。

私はそのどちらにも属していない社員でしたので、その構造や違いがある意味よく見えました。私は、ローカルのカナダ人社員もアメリカ本社から派遣された社員やマネジャーにも、両方に問題があったと思います。しかし、そこで学んだ事はマジョリティがマイノリティを理解することの方がより重要だと言うことです。答えはいたって簡単です。マジョリティのほうが背後(バック)に力を持っているからです。これは上司vs部下に関しても同じ事が言えると思います。

多分、今ここにいらっしゃる皆さんは、本社から派遣される側の立場に居る方が多いのではないかと思います。本社から派遣されて来た自分たちを、ローカルの人がどのように見ているのか、何を感じているのか、特に何に対して問題を感じているのかを明らかにするという事はかなり難しいことです。本社側の立場を背に「これが当然だ」というスタイルでローカル社員に仕事の指示を渡しがちですが、それは想像以上にローカル社員にとっては理解ができないケースが多々あり・また大きなプレッシャーになります。これは海外に限らないと思いますが、「マジョリティがマイノリティを理解する・受け入れる」ということはとても大切なことだと感じます。固定観念や過去の経験、またポジションパワーや背後の力を利用し、指示・主張をする上司は、それだけでマイノリティにとって権威的、暴力的な存在になりますね。

森田:それがまさにローカル社員がすぐに辞めてしまうという問題に発展したりするわけですね。後にアジア全体を統括するとき、この海外赴任体験から、桐山さんが現場でどんなことが起こりうるのかをイメージ出来る、というのは、かなり大きな財産だったのではないでしょうか。そのときに、ローカルの方と駐在員の間にある溝を埋めるためにはどうしたらいいでしょうか

unknown-5桐山:まずは意識ですね。マジョリティ側の駐在員やマネジャー・リーダーの方が、自分はマジョリティに属していて、普通にしているだけで、権威的にうつる可能性があるという意識を持つがことが大切です。マジョリティに属するリーダーの意識と姿勢が組織の風土やカルチャーを構築する上でとても重要な役割を果たします。その意識を持った上で、ローカルの人達がどの様な問題を抱えているのか、現場でなにが起こっているのかを全体で把握できるように、見える化・システム化を取り入れる事が重要だと思います。シンプルなワーク&デベロップメントプラン従業員サーベイを取り入れたり、ローカルの社員にも納得出来る様な透明性のある人事・給与制度に改革することなどは、いわゆるドメスティック企業から、多くのローカル社員を雇用するグローバル企業へとシフトチェンジする際に、必要不可欠なことだと感じます。

森田:我々beyond global社でも、ローカル社員の声を聴くような従業員エンゲージメントサーベイなどを行う事が多くあります。実際にその中にいると、どんな優秀な人間的な器が大きい方でも、何が今起こっているのかはよく見えないので、外部の力を取り入れて、見える化するというのは、非常に有効だと私も感じています。皆さん、サーベイの結果をご覧になると、決まってとても驚かれます。

それでは次回は、P&Gがグローバル企業となったわけと題し、25年前はアメリカのドメスティック企業だったP&Gがどのような経緯で、今のようなグローバル企業への発展を遂げたのか等についてお伺いしたいと思います。

人材輩出企業P&G流 人の育て方 vol.1 「 人を育てるカルチャーとは

人材輩出企業P&G流 人の育て方 vol.2 「ストレッチ・アサイメント(少し背伸びした仕事を任せること)が人を育てる

 

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森田 英一
大学院卒業後、外資系経営コンサルティング会社アクセンチュアにて、人・組織のコンサルティングに従事。2000年にシェイク社設立、代表取締役社長に就任。「自律型人材育成企業」をキーワードに、企業研修、人・組織関係のコンサルティングなどに従事。自身も講師として、毎年のべ5000人程に研修を実施。10年の社長を経て、beyond global社を日本とシンガポール、タイに設立し、President&CEOに就任。beyond global Japan(旧ドアーズ)社の「海外修羅場プログラム」が、全国6万人の人事キーパーソンが選ぶ「HRアワード2013」(主催:日本の人事部 後援:厚生労働省)の教育・研修部門で最優秀賞受賞。「ガイアの夜明け」「ワールドビジネスサテライト」等テレビ出演多数。主な著作に「誰も教えてくれない一流になれるリーダー術」(明日香出版)「「どうせ変わらない」と多くの社員があきらめている会社を変える組織開発」(php新書)等がある。

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