「働き方改革」と聞いてどのようなことが思い浮かぶでしょうか?
社員の長時間是正の話かもしれませんし、ITを駆使して在宅で働くテレワークの推奨かもしれません。また、安倍首相が打ち出してる戦略のことかもしれません。
まさに、「働き方改革」と一言でいっても、あなたがおかれている立場によって、「働き方改革」が示すものの捉え方は、多様です。
しかし、「働き方改革」とは、ある一部の人だけに関係するコトではないのです。例えば、あなたが企業の経営者なら、社員に幸福に働いてもらいながら、できるだけコストを抑えて生産性の高いアウトプットを求めたいでしょうし、あなたが人事担当者なら、他社に負けない優秀な人材を獲得するために、社員にとって魅力的な人事制度を提示したいでしょう。
また、子育てや家族の介護という境遇の社員や外国人スタッフ等が増えているという企業であるなら、なおさら、様々な社員に応じた働き方を提示する必要性におかれているかもしれません。また、あなたが現場で活躍するビジネスパーソンであるなら、今の仕事をしながら更に実現していきたい夢もあるでしょう。
今回は、企業が働き方改革に取り組む際に、押さえておくべきポイントについてわかりやすくお伝えします。
ーー【目次】ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
1..働き方改革とは何か
1-1.時代の変化
1-2.政府-働き方改革実現会議
1-3.企業-好循環を生み出す仕組み
2.働き方改革の取り組みポイント
2-1. 管理職に求められる役割の変化
2-2. 手間を惜しまず、一人一人と向き合う
2-3. テレワーク制導入はコストか投資か
3.働き方改革でもたらされる効果
3-1. 企業全体の業績アップ
3-2. 社員が育つ組織風土
3-3. ホワイト企業という社会的信用
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1.働き方改革とは何か
1-1.時代の変化
「24時間、戦えますか?」というフレーズを聞いたことがあるでしょうか?高度成長期の1988年、つまりバブル時代に流れていた栄養ドリンクのTV CMの一コマです。当時は、男性を中心とした働き方で、長時間働くことに誰も疑問を抱かなかったのです。
しかしながら、昨今、女性活躍という言葉がでてくるように、今は、男性だけでなく、女性も職場の第一線で戦力として働くことがあたりまえの時代となってきました。
これは、単に男性・女性という変化ではありません。市場がグローバル化をするにあたり、外国人スタッフの雇用が進んだり、障害者であったり・・・と様々な背景を持った人たちが日本企業において働く時代です。
そして、数年前は、男性が育児休暇を取るといったら、「あの人は、キャリアの勝ち組路線から降りたんだね」と言われていたかもしれませんが、今は、誰もそのようなことを言う人はいません。
つまり、企業としては「企業にとって都合の良い、全社員一律の働き方」だけを社員に提示していては、優秀な労働力を得られない時代になってきたのです。
1-2.政府-働き方改革実現会議
次に政府の動きを見てみましょう。
「働き方改革実現会議」とは、2016年9月、安倍首相を議長にすえ、働き方改革の実現を目的とする実行計画の策定等を審議するための会です。
安倍首相は、成長戦略の目玉として一億総活躍社会の実現のため、働き方改革に取り組もうとしています。そこには「外国人材の受け入れの問題」「非正規雇用の処遇改善」「時間外労働の上限規制のあり方」など、9項目を掲げています。
(http://www.kantei.go.jp/jp/singi/hatarakikata/)
企業は少なからず、政府の決定に影響を受けざるを得ない点もあるでしょうが、先進的な企業では、政府の方針を待たずに、様々な取り組みを進めています。
1-3.企業-好循環を生み出す仕組み
かねてより、「ワークライフバランス」という言葉がありましたが、それにも増して、企業が「働き方改革」ということに、取り組みだした背景には、2015年の電通 新入社員の過労死自殺が少なからず影響しています。これまで、不夜城ということがカッコいいことのように言われていた企業ですら、長時間労働はブラック企業というレッテルが貼られるようになっています。
日本企業は、採用活動に非常に熱心ですが、ブラック企業という評判の企業は、今や多くの人が敬遠し、ひとたびその噂が立てば、優秀な人材獲得ができません。一方で、「あの会社は、働きやすい会社らしい」という評判は、どんどん、多様性に富んだ優秀な人材の応募を促進してくれます。
今や、どの会社でも生産性についても関心が高いのですが、多くの仕事は、マルチタスクで進める必要があります。そのような人材モデルとは、どのような人でしょうか?一例として挙げられる人材は、子育て経験のある女性です。日夜、同時並行で様々なことを効率的にこなすことを経験上、身につけているので、非常に生産性が高いのです。
また、多くの企業でイノベーションが求められています。単に効率的でオペレーションをこなすだけの人材はもはや最小限で良いのです。そのイノベーションを起こすのは、様々な経験・知識を持った多様な人材です。
イノベーションを起こすアウトプットには、様々な経験・インプットが必要ですが、長時間会社に拘束されている状況では、インプットをする時間が持てません。つまり、企業が長時間労働を解消し、社員が自由に使える時間を創り出すことで、新たなビジネスチャンスの種が生まれる可能性があります。
2.働き方改革の取り組みポイント
2-1. 管理職に求められる役割の変化
「働き方改革、何かしなくては・・・」というと、とりあえず、目先の残業時間を削減だけを見た取り組みが見受けられます。例えば、定時になると一時的に消灯したり、部門毎に残業が多い部門にペナルティを課したりということはないでしょうか。
また、「早く帰りなさい」という叱責ばかりでは、現場のモチベーションは下がるだけでなく、不満が募ることは目に見えています。現場のスタッフが帰らない理由は、「仕事量が多くて、いつまでも終わらない」「成果を出すために、サービス残業をしてでもやりたい」ということです。
つまり、管理職は、単に労働時間を管理するだけではなく、「なぜ、残業をしなければならない状況になっているのか?」を把握し、そのための解決策をスタッフ自身が考えだす支援をすることが鍵になります。
ここでのポイントは、解決策を出すのではなく、解決策を自ら考える支援ということです。
人は、指示、命令をされるとそれに慣れて、自分で考えることを放棄します。また、指示されたことよりも、自分で答えを導いた方が、モチベーションを高く保った状態で、行動に移せるのです。
2-2. 手間を惜しまず、一人一人と向き合う
今後、更に働き方改革が進むと、従業員は、いつも職場で仕事をしているスタッフだけとは限りません。今後、ますます、正規社員、非正規社員、時短勤務者やテレワーク勤務など、様々なワークスタイルを希望する人が増えてきます。更には、働き方改革に反対する抵抗勢力がいるかもしれません。
つまり、これまでの一律管理型マネジメントでは、限界があります。そこで、それぞれの個性を活かしたマネジメント方法をとることになります。これは、社員の自主性・自律性を活かす方法です。
そのためには、会社の事業戦略、ミッション、そして働き方改革を実施する目的という会社の都合と、メンバー一人一人が、どのような働き方をしたいのか、何にやりがいを感じるのかといった個人としてのミッションをつなぎあわせます。
そして、その後は、スタッフを信じて、コト細かく管理することをやめることです。
もちろん、これは一部の管理職が行なうのではなく、全社横断的に管理職が同じ方針で進める認識合わせをしておく必要があります。
2-3. 生産性を上げる職場環境
ある会社では「売り上げは下がってもいいから残業時間を減らせ」というミッションをだした結果、「数字を維持したまま残業時間を減らした」という話があります。
日本人は特に、まじめで、課題解決力、改善力に長けていますから、出されたお題に懸命に取り組み、「もっと良い方法があるのではないか?」と自発的に考えていきます。そこでどんどん無駄なものが削減されていきます。
きっかけが大事です。始めは、課題発見ができなくても、徐々に、自分たちで、課題を見つけ解決をしていくことができるようになっていきます。そこには職場の人間関係も一つの要素になってきます。
例えば、重要な会議の直前に「子どもが急に体調を崩して、帰宅しなければいけなくなった」という女性がいるとします。他のメンバーは、その女性を安心して送り出しをしてあげられるような職場かどうかです。
働き方改革は、「働き方・考え方は多様」でも「目指すべきミッションは一様」である必要があります。戦略を理解し、無駄になっていること、阻害要因をあぶり出し、全員の想いを共有し、相互に補完できる体制が生産性を高めます。
2-4. テレワーク(在宅勤務等)制導入はコストか投資か
働き方改革の代表格のようにでてくる「テレワーク」ですが、その一番の特徴は、ICT(情報通信技術)を活用し、職場などの一定の場所に縛られることなく、どこでも仕事ができるということでしょう。
メリットとしては、通勤や移動時間の削減ということだけにとどまりません。一人で集中して行ないたい業務のときには、自分のペースで行うことができ、業務効率が向上するという点や、突発的な事象(交通機関の麻痺、子どもの急病等)への対応ということも挙げられます。日中、一時的に用事がある場合に、1日の有休休暇を取得せずとも、用事が済めばすぐに、仕事に戻れるわけです。
このような良いこと尽くめで生産性があれば、投資といえるかもしれません。
ただし、単にITインフラを整備し、実際の利用者がいない状況ではコストです。テレワーク制度の策定、利用者・非利用者の職場理解、評価の方法なども合わせて考えていく必要があります。
また、テレワークの導入が進んでいるは、予算が潤沢にある大企業か情報通信業に限られるのだろうと思われるかもしれません。しかし、平成27年に閣議決定された「世界最先端IT国家創造宣言」の中では、雇用型在宅型テレワーカー数の割合を、2020年には10%にすると設定しています(平成27年時は2.7%)。
今後、大手企業に限らず、様々な企業においてテレワークを導入できる環境整備は、確実に進んでいます。
3.働き方改革でもたらされる効果
3-1. 企業全体の業績アップ
労働時間が短くなることと、生産時間が短くなることはイコールではありません。働き方改革により、通勤、残業といった時間コストが軽減され、そもそもの定時内で生産性を高めようという社員の意識があがることで、必然的に業績があがっていきます。
3-2. 社員が育つ組織風土
働き方改革は、もはや、管理者によって、手取り足取り細かな指示が来る働き方ではありません。
つまり、社員一人一人が、自ら働き方を考えることにあります。これまでの残業時間を余暇やインプットに充て、心も身体も知識も十分に補填し、それをアウトプットにつなげていきます。
これまで社内勉強会など無縁だった・・・という職場が、成果を上げるために最善策は何か?を自ら学び合う組織になり、また、仕事だけでなく、他のメンバーのプライベートな時間を応援し合える良好な関係性により、いつでも、共に切磋琢磨しあえる風土となります。
このことは、結果的に管理職の負担を軽減していきます。
3-3. ホワイト企業という社会的信用
ホワイト企業という言葉は、ブラック企業(長時間労働、過重労働等)の対義語として言われ始めた言葉ですが、昨今の就職・転職活動には、企業選択の1つとなっています。
ホワイト企業は、社員の定着率が高く、働きやすい会社という信用を得ることで、多様性があり、様々なイノベーションの種を持った優秀な人材が集まってきます。
4.まとめ
もはや、働き方改革とは、一企業の残業時間を減らしたり、生産性を上げたりという目的だけのためにとどまりません。一人一人が、それぞれにパフォーマンスを最大限発揮できる働き方を選択し、社会全体の仕組みとして取り組むべきものとなっています。
もう21世紀なのですから、「会社のために、24時間働けますか?」という掛け声では、誰もついてきません。制度だけではなく、社員一人一人のやる気と企業の業績には、関係性があります。
まずは、「どうしたら、社員のやる気を引き出し、持続し続けられるのか?」このことを働き方改革の目的のひとつに据えて、企業としての取り組みをスタートするということも良いでしょう。
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