働き方改革の本質と目的:重要なのは「意識のチェンジ」

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日本人は、非常に従順で、決められことを守る人種です。
ひとたび、会社のルールとすれば、それに多少の不満を持ちつつも、実行に移します。

例えば、震災や大雪で電車が止まろうが、幼い子どもが高熱を出していようが、就業時間が9時であれば、何としてでもそれを守らなくては・・・という思考が働くのです。

今、日本では、空前の「働き方改革」ブーム。

とはいえ、何をどう変えることが働き方改革なのか?
働く場所や、働く時間、また、人事評価、人事制度を変えることなのか?

それも、一つの方法です。

しかしながら、もっとも重要なことは、働く人の「マインドチェンジ」です。場所も時間も制度も、結局のところ、企業側が社員に提示したものであれば、従業員は、それに従って行動するでしょう。

しかしながら、今、そしてこれからの未来において必要なのは、従順に単純労働力を提供してくれる社員ではなく、自ら価値を創出してくれる社員です。

これは、特定の職種、例えば企画職や営業職に限定したことではありません。どのような業種、職種においても、言えることです。

ですが、それには、今までの思考の枠で考えていては、先に進めません。

では、どのように社員の意識と行動を変えて行くのか?
本稿では、これについて考えていきます。

—<目次>—————————————————————————————-

1:勤勉で従順な日本人
2:働き方改革の本質
3:働き方改革の経営・人事の視点
4:働き方改革の管理職・現場社員の視点
5:働き方改革では、”誰が””何を”するのか?
6:働き方改革の事例(P&G、ユニリーバ)
7:まとめ

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1:勤勉で従順な日本人

日本人は、社会人に出るまでに、どのような教育方法を受けてきているのか?

・正しい答えは一つ
・知識量、暗記量の勝負
・筆記試験で高得点を取ったら勝ち
・授業は出席していれば良い

ご自身の体験の中に心当たりがあるのではないでしょうか?

特に、ポイントになるのは、”授業に出ていれば、及第点はもらえる”という点。試験も、自らの考えを発信するというものではなく、”正解と言われる答え”を正確に覚えたかどうかの確認。

すべての仕組みが「受け身」で出来上がっています。そのような思考プロセスを長年かけてインプットされて、社会人となるわけですから、そこから急に、社会人は「価値創造」と言われても、戸惑ってしまうわけです。

実は、これまでの行動経済成長期は、この「受け身型」の働き方は、抜群に良かったのです。

なぜならば、大量生産・大量消費の時代。特に、一糸乱れず同じ方向を向いて”作業をしてもらいたい”という働き方の時代に、現場の意見で自由に工夫をされるというのは、経営の意に反するものでした。

今の、働き方改革期と言われているのは、まさにこの「受け身型労働スタイル」の脱却です。ですが、それを見誤って、経営・人事が緻密な制度を作り込み過ぎることは、社員の主体性を阻害します。

なぜならば、また、社員は「会社(経営・人事)が作ってくれた制度は、正解に違いない!」と何の疑いも無しに、その制度に従ってくれるでしょう。

しかし、企業が”働き方改革”に取り組みたい本来の狙いは、「社員が主体的に考え、それぞれが新たな価値を創造し、企業の業績に貢献してくれること」ではないでしょうか。

2:働き方改革の本質

働き方改革の本質は、企業が人材を育成し直すというところにあります。

一見すると、働き方改革は、企業にとってとても重荷のように見える側面もありますが、捉え方次第では、企業が飛躍するチャンスとも言えます。

どういうことかと言うと、単に、制度や働く場所を変えても、生産性は向上しません。それらは、あくまでハード面であるからです。

そこで着目したいのが、働き方改革の最も鍵となるソフト面、つまり”人”です。

結局のところ「働き方改革」という事柄をチャンスとしてとらえ、如何に、社員を成長させることができるか。社員の成長の結果が、企業の価値創造につながり、それが企業業績に結びついていきます。

例えば、リモートワークを導入するとなれば、これまで以上に、それぞれが自分で考えなければ成果が出せません。

時間や場所で縛るものではないのですから、さぼろうと思えばいくらでも、さぼれる訳ですが、毎日オフィスに通勤しているだけで、給料がもらえた働き方と異なり、より一層、成果重視となるでしょう。

その一方で、事細かな作業マニュアルがあるわけでもなく、手取り足取り指示をだしてくれる上司もいない状況ですから、まさに主体性が問われる働き方の一例です。

そこで、働き方改革を進める上で、どんな人材が必要か、どんなスキルが必要かということを改めて考える必要があります。

例えば、”自社内で完結した人間関係ではなく、自ら、社外の人とのネットワークを駆使し、新たな価値を創造する力”なども挙げられるでしょう。また、情報過多の世の中ですから、社内評価を気にするのではなく、もっと外部環境に目を向けて、”自ら必要な情報を得て、それを自分なりに咀嚼して、ビジネスという形に編集する力”も求められるでしょう。

そのような力は、管理職や、役職者ではなく、部下のいない現場社員でさえ、自己の意思決定や取捨選択が求められ、言われたことだけやっておけば良いという社員は、必ず淘汰されてします。

特に、グローバル化が進む中では、日本の企業のオフィスに閉じこもって、作業をだけを行っている仕事に価値は無くなります。ITの進化と共に、確実に「働き方改革変革期」において、現存しているいくつかの仕事は消滅します。(例えば、過去に切符きりの駅員が自動改札によって変わったように)

まずは、経営も人事も「管理しなければ社員は働かない」という、これまでの思い込みを外し、

・社員に考える機会を与えること
・社員が自らその企業ではたらくオーナーシップ(当事者意識)を持たせること

を軸にすえ、その仕組み作り=人材育成を行っていくことが、生産性を高める働き方改革の本質ということになります。

3:働き方改革の経営・人事の視点

働き方改革において、多くの経営者が最も気にしていることは、「働き方改革を入れることで、企業の業績が下がらないか」「ステークホルダーにどう評価されるか」です。企業がなんのために存在しているのかといえば、利益を出すためです。

つまり、優秀な従業員が、”自社で”ハイパフォーマンスを出してくれさえすれば、本来、働き方のスタイルは問わないのです。

一方で、あまり成果を期待できないローパフォーマーには、どのように辞めてもらうかというシビアな視点です。当然、余計なことにコストをかけたくないので、利益を生まない投資、例えば、福利厚生費には反対です。

ですから、一人一人の顔を思い浮かべながら、社員が働きやすい環境を作るために働き方改革が重要だ!という発想の経営陣は稀有です。

基本的には、「経営=利益の追求」に集中したいので、「ヒト(HR)=人材」の獲得や育成については、経営層と現場をつなぐ人事部門に任せたいのが本音です。

そして、その経営からの指示と社会的風潮の流れで、人事部門の人々が気になっているのが「どうしたら残業時間を減少させられるか」「どうしたら生産性を向上できるか」「そもそも働き方改革は、何から始めれば良いのか」です。

どの会社にも「就業規則」の中に「定時」というのがありますが、実際に、社員が定時で帰っている企業は、まだまだ少ないのが現実です。残業に対する法制度の整備が進む中、これまで見ないようにしてきた現場の”サービス残業”についても、放っておくわけにはいかなくなりました。

しかし、「定時ですので、みなさん残業せずに帰ってください」というお触れを出したところで、現場からは、反発を買うのが目に見えています。とりあえず社員の働き方が目に見えて変わることをやってみれば良いのでは?という発想から、「在宅ワーク」や「リモートワーク」を取り入れたり、「男性の育児休暇取得率」や「有休取得率」を指標にしたりしています。

更に、「生産性を向上させる」というお題には具体的な手だてが見つかっておらず、模索している最中です。

ここで改めて見てみると、経営者も人事も、”働き方改革が、業績と連動している”と、捉えてはいない可能性があります。業績は、ビジネスの市況や環境要因もありますが、現場社員がどれだけパフォーマンスを発揮したか?ということに通じる部分があります。

働き方改革の狙いは、社員の福利厚生ではありません。

”働き方改革を、業績向上につながる社員育成の仕組み作りのチャンス”として捉え直すことで、「生産性を向上させる取り組み」の具体案が鮮明になってくるわけです。

4:働き方改革の管理職・現場社員の視点

現場の管理職は、働き方改革をどのように捉えているかというと、「自部署の目標達成、成果を出すことで精一杯」「余計なことに時間を割く余裕がない」「部下のマネージメント、モチベーション維持が大変」という想いです。

特にプレイングマネジャーである管理職の仕事量は、残業しても、休日出勤をしても追いつかないという状況です。「残業をしないで帰ったら、一体誰が、その責任を取るのか?」「ワークライフバランスなんて、自分の部署では無理だ・・・」そんな気持ちもあります。

更に、現場のスタッフも、「仕事量が多くて、定時では終わらない」という声もありますが、一方で、「残業代が減ると、生活費にかかわるから」という側面もあり、働き方改革に、両手を挙げて喜んでいるわけではありません。

では、一体、何にそんなに時間を取られているのか?というと、長時間の会議、社内資料の作成、日本企業の組織構造に見られがちな階層上の承認プロセス、上司の指示内容が変わることによる作業の手戻り、上司から部下への過剰な管理干渉、部下から上司への過剰なホウレンソウ・・・といったことが多いのです。

実は、これらの作業は、新たな価値を生み出しているというものとはほど遠く、単なるオペレーションを回しているに過ぎません。

しかしながら、日々、長時間職場にいたり、たくさんの作業をこなしたり、上司と部下の間にある過剰な干渉(一部では、これを”良質なコミュニケーション”と勘違い)をしあっていることで、「自分は仕事をしている」という想い込みをしています。

このような勘違いの「自分は仕事をしている」という意識を持ったままでは、生産性があがることはありません。

では、どのような意識を持てば良いか?

例えば、これまでの仕事の考え方や、やり方を意識的に変え、「自ら時間を創り出す」ということがあります。そして、その時間を「自主的な学び」に費やし、そこで得られた人脈や知見を、業績向上に還元できるサイクルを回すことです。

つまり「自主的な学び」が企業の”定時”の中で行われても良いのです。グーグルの「就業時間の20%は自由時間=自由に自分のやりたい事をやっていい」という発想は、それに近いかもしれません。

また、すべての従業員が同じ仕事を一律に行うのではなく、「それぞれの強みが活かせる多様性のあるチーム」を編成し、メンバー同士がコラボレーションをしていくことで、チームで効率的に仕事を進めて行くという方法もあります。

つまり、自分ができない苦手な部分を、それを得意とする人と組む事で、”出来ない事”に浪費する無駄な時間を省き、「チームで価値を創造すること」だけにフォーカスできるのです。

5:働き方改革では、”誰が””何を”するのか?

では具体的に、働き方改革では、誰が何をするのか?という点について考えていきます。

①既存の枠を外す

全員に共通しているのは、「既存の思考の枠を外すこと」です。経営層にしても、管理職にしても、現場社員にしても、それぞれの立場で、それぞれの考えて働いているわけですが、その役割に捕われていると、その立場からの発想しか生まれてきません。そこで、例えば、

  • 経営層:企業業績向上には、社員のパフォーマンスがあり、それと関係するのが社員の幸福度。社員の幸福度を高めることにも関心を持つ。

  • 人事:残業を減らし、生産性を上げるには、現場社員の協力が必要。人事がルールを示すだけでなく、現場が自ら工夫をする機会を作る。

  • 管理職:あれもこれも、すべてをこなすのではなく、取捨選択をする。人を育てて、どんどん権限委譲をする。時間を作り、思考の時間に充てる。

  • 現場社員:労働時間の使い方を見直し、無駄な作業をやめる。捻出された時間を自己成長に充てる。

②新たな価値が創出される仕組み作り(OJTとOFF-JTのハイブリッド)

多くの企業で、社員育成の施策として研修(OFF-JT)の取り組みがされていますが、残念なことに、必ずしも現場でリアルに使えるものとは限りません。

その結果、研修の締めくくりとして「明日から、こんな行動に変えます」と宣言しても、それが実行されないケースがあまりに多いのです。これは、経営・人事側にとっての期待を知識としてインプットするインストール型育成に多く見られます。

これからの時代においては、既知の知識のインプット型育成では、新たな価値創造は起こり得ません。日常の現場においても、研修の場においてもクリエイティブイノベーションを意識することが必須になります。

③労働に負荷を与えるのではなく、思考に負荷を与える

新入社員研修で、駅前で大声を出すことでメンタル面を鍛えたり、飛び込みで名刺を大量に獲得してきた人が評価されたり、嫌なお客様にも、何度も足を運んで、何度も頭を下げてやっと、商談に結びついて一安心・・・となったという時代も確かにありました。

しかし、行動量だけ増やしても、一向に生産性は高まりませんし、どれだけ時間があっても、足りません。なにより「頑張ったから評価される」という時代ではありません。

より一層「成果」が求められる時代。

そのためには、思考力を磨くことが必要です。

④コラボレーションによる新たな価値創造の評価

成果主義の時代は、個々人の競争が評価されていました。

ですから、他人を蹴落としてまで、自分の成果をあげることに躍起になっていた人も多くいたでしょう。

しかし、成果主義は、非常に短期的な目標達成をすることに主眼が置かれた評価方法です。

長期的な企業の成長を目指すのであれば、短期的な成果を評価するのではなく、価値創造の為にどのような活動をしているかといったプロセスをみることも重要です。

そのためには、すべての従業員が同じ仕事を一律にこなすのではなく、「それぞれの強みが活かせる多様性のあるチーム」を編成し、メンバー同士がコラボレーションをしていくことで、チームで効率的かつ創造的に仕事を進めて行くという方法もあります。

つまり、自分ができない苦手な部分を、それを得意とする人と組む事で、”出来ない事”に浪費する無駄な時間を省き、「チームで価値を創造すること」だけにフォーカスした動きにシフトしていきます。

また、個人レベルではなく、部署というレベルでも同じことが起こっています。同じ会社なのに、「隣の部署をライバル視して、情報を渡さない」「営業1課と営業2課で、手柄の取り合いをしている」「製造部門と営業部門の中が悪くて、成果がでないことのなすり付け合いをしている」などという話は、全く価値創造に向けた活動が行われている状況とは言えません。

健全な競争原理は、ビジネスの活性化を促しますが、社内評価のための競争となっている場合は、今すぐ、その思考を捉え直す必要があります。

イノベーションは、既にある知と知が融合し、新たな形で創り出されることで起こります。 例えば、現在、世界中で生活必需品となったスマホも「携帯電話」と「カメラ」と「パソコン」が融合された結果です。こういった価値を生み出すためには、これまでの思考の垣根を越えていく”クリエイティブイノベーション”の発想が必要です。

今の職場では、社員が価値ある発想を実現できるチャンスを設け、それを正当に評価しているでしょうか。

この発想は、なにも企画職に限った事ではありません。

営業職でも、事務職でも、製造部門でも同じです。

6:働き方改革の事例(P&G、ユニリーバ)

P&Gとユニリーバは、いずれもアメリカ発の世界的なグローバルカンパニーですが、働き方改革についても、常に先進的です。

P&Gでは、すでに数十年前から、企業の戦略として「ダイバーシティ」と「働き方改革」について取り組んできています。その時代時代に応じて、組織の戦略について改革をし続けています。

もともとアメリカで成功していたやり方を、グローバル市場に打ってでていくときに、他地域では、それまでのアメリカ流が通用しなかった経験から、戦略を見直したのです。

ある時代においては、積極的にこれまでとは異なる多国籍の人々や、女性を登用したり、そのエリアのニーズを本当に知っている様々なバックグラウンドの人たちを採用したり、人事制度を見直しました。

そして、その叡智を上手く活かし、その結果、生み出されたヒット商品も多岐にわたります。例えば、布にシュッとスプレーをして、除菌や消臭をする”ファブリーズ”などは、その一例です。

P&Gが企業として成功し続けているポイントとしては、「人を育て、成果を上げる」という点を両立させていることです。それは、管理職の評価の中に、部下育成に関するものが50%を占めているという点が挙げられます。

また、ユニリーバにおいては、「WAA」という人事制度が、有名です。WAA(Work from Anywhere and Anytime)は、働く場所・時間を社員が自由に選べる制度として、2016年7月から実施されています。

しかし、ユニリーバに着目するのは、この制度が特徴的なのではなく、働き方改革の背景となる考え方にポイントがあります。

働き方改革は、あくまで手段。本当に大切な事は何か?を考えるということです。その問いとなるのが「生きるとはどういうことか?」です。

ユニリーバの取締役 人事総務本部長 島田由香さんは、「働き方改革とは「生き方を決めること」」と明確に言い切っています。

これは、働く人一人ひとりが自分なりの答えを持ち、誰かに指示をされるのではなく、自ら考えて最良の働き方の中でパフォーマンスを出すという自律心が、育まれていかなければ業績向上はなし得ません。

実際、WAAを導入してからユニリーバでの業績や社員の働く意識など、様々な点において、プラスの調査結果がでています。

上記の2つのいずれの企業も共通していえることは、「社員に成長の機会がある」という点が含まれています。

7:まとめ

働き方改革の本質は、働く人の意識の変革にあるとお伝えしてきました。

そのために経営トップは、どっちの方向に向かうのか?という明確な「ビジョン」を打ち出し、人事部門は、その後押しをするための「成長機会」を、現場の管理職と共に作り上げ、管理職は現場社員の意識を「価値創造」に向けて行くことがカギとなります。そして、現場社員は「自分で決める」という意志を持つ必要があります。

これまでのオペレーション業務をこなすだけの組織では、近い将来、必ず淘汰されます。問題解決型企業ではなく、価値創造型企業に向けて、意識をチェンジしていきましょう。

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グローバルリーダーシップ研究所 beyond 編集部
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