ダイバーシティマネジメントは、政府、雑誌、ニュース雑誌、新しい企業のあり方として、昨今の経営戦略としても、非常に関心の高いテーマの一つと言えます。一方で、未だにダイバーシティマネジメントは、「女性活躍推進のことだ」「CSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)の一貫だ」と考えている企業も少なくありません。
しかし、ダイバーシティマネジメントは「女性管理職比率を増やそう」「とりあえず、外国人を採用しよう」など、本来の目的が曖昧なままの施策を実行すると、かえって現場が混乱したり、企業の業績が下がってしまったり、優秀な社員が辞めてしまったり・・・ということになりかねません。
では、そもそも、ダイバーシティマネジメントとは、何なのでしょうか?
そして、そのメリットとデメリットには、どのようなことがあるのでしょうか?
本稿では、日系企業がダイバーシティマネジメントを成功させるために、どのような点を踏まえて進めるべきかをシンプルにお伝えします。
—–【目次】———————————————————–
3.ダイバーシティ・マネジメントは、「面倒」だからやりたくない?
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1.ダイバーシティマネジメントとは
そもそもダイバーシティとは、「多様性」「異質なモノが数多く存在する」ということです。それが、企業や組織における用語として、ダイバーシティ・マネジメントとは、「多様な人材を積極的に活用し、生産性を高めよう」という考え方であるとして使われています。
これまでビジネスといえば「男性」という考えが、ここ数年の変化の中で「女性活躍推進」として取り上げられることもありました。しかしながら、本来のダイバーシティとは、女性活躍のことでありません。例えば、外国人、高齢者、若者、障害者・・・なども含まれます。
更に、現在では、前述したカテゴリーで分けられるような目に見える多様性のことだけではなく、価値観や、考え方、経験の違い、性格など、目に見えない様々な違いのことを尊重して受け入れ、企業の戦略に活かしていくことが主流です。
2.ダイバーシティマネジメントは時代のニーズ
そもそも、ダイバーシティマネジメントという言葉は、すでに日本にも2004年頃には存在していました。
アメリカでは、それよりももっと以前からダイバーシテイについて考えられて来ました。
1960〜 :雇用機会均等の対象
1980〜 :ダイバーシテイは尊重するもの
1990〜 :ビジネス上の価値創造の資源
(参考:組織におけるダイバーシティマネジメント早稲田大学教授 真美http://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2008/05/pdf/069-084.pdf)
アメリカは、歴史的背景や地理的な背景からも、多様な人種、民族が存在しています。しかし、採用や昇格といった際には、肌の色や女性といったマイノリティに対する雇用処遇についての差別がありました。その後、ダイバーシテイ研究が進むにつれ、ダイバーシテイは、雇用機会均等といった社会運動的な問題ではなく、組織にとっての価値を生み出す存在であるということが示されてきました。
日本は、人種や民族といった点での課題はあまり馴染みませんが、男女雇用機会に関する法律が制定されたのは1985年です。また、当時は、女性の仕事は、男性のサポートを中心とした事務職がほとんどでしたが、1990年代の後半になると、ITの普及や派遣社員の存在が後押しし、事務職の業務量は格段に減少しました。しかしながら、女性の就業機会が広がっても、更なる課題として、需要と供給のミスマッチということが起こってきました。
特にダイバーシティマネジメントが注目されるようになったのは、2012年頃です。景気回復以後の団塊世代の退職、そして、予測される人口の減少を尻目に、「女性活躍推進」が謳われ、女性の労働力を企業に積極的に取り入れるという動きが加速しました。
そして、日本は次のフェーズへと入っています。グローバル化、複雑化する消費者ニーズに対して新しい価値を創出していかなければ、ビジネス競争には勝ち得ません。
つまり、日本においても、従業員の一人ひとりの持っている智恵、経験、スキル、価値観といった違いこそが、様々な価値を創造する貴重な資源となっています。
3.ダイバーシティ・マネジメントは、「面倒」だからやりたくない?
とはいえ、「男性中心」「同質性」「阿吽の呼吸」でビジネス戦線を戦って来た日本企業にとっては、「ダイバーシティ・マネジメントは面倒くさい」、「企業の成果が落ちる」、また、「社会的な弱者を擁護するための制度ではないか」という意見も聞こえてきそうです。
実際に、高度経済成長時代には、そういった社会的弱者をビジネスの最前線にわざわざ迎い入れる必要はありませんでした。朝から晩まで、何度も顧客先に足を運び、電話で怒鳴られながらも、また、頭を下げて、そうやって商談を成立させてくるという営業方法が主流でした。
それは、まさしく、「質より量」で稼ぐ時代です。
そして、その方法は、広く一般的な方法でしたので、ビジネスの現場で怒号が飛ぼうが、モノが飛び交おうが、誰も文句を言う人もいませんし、そのような社内の実状が、ありありと外部に流れていくということもありませんでした。
しかし、今の時代においては、ITの急速な普及、そしてSNSが広く一般に使われるようになり、誰でも簡単に情報発信ができるのです。ひとたび、その企業の中で、不満に思ったことがあれば、意図も簡単に、facebookやLINEを通して、その会社の内情が外部に漏れていきます。例えば、就職活動や転職活動における口コミサイトなども、企業のマイナス情報が溢れかえっています。
昇進に関するガラスの天井、給与レンジ、残業の実態、上司への不満、パワハラ、モラハラ、育児休暇の取得率、テレワークの実態・・・
これらに対する不満は、ごく一部の意見と思いたいところですが、民主主義の日本において、少数派の意見でさえ賛同者が増えれば一気に、大衆意見として目立つようになります。すると、それらの意見を無視できなくなるわけです。
つまり、企業としては、経営側・マネジメント側の思惑だけで、企業活動を進めることが簡単には出来なくなっている時代です。「ダイバーシティ・マネジメント」は、企業活動における生産性を高めるだけでなく、様々な立場の声を上手く取り入れ、それを企業活動に反映するためのリスク・マネジメントにもつながっています。
また、別の見方をすれば、それらの多様性に富んだ少数派の“プラスの意見”が発信される機会を有効活用することで、企業のブランドを高めていくこともできるのです。特に、中小企業に取っては、企業成長のチャンスとして考えることもできます。
4.ダイバーシティ・マネジメントと働き方改革
さて、これまでの日本の人事制度について考えたいと思います。
日本の人事制度は、「終身雇用」「年功序列」をベースに考えられたものが多く、従業員もまた、異動や転勤が命じられたら、何の疑いもなく、それを受け入れて来ました。
また、育成体系においても、個々人の能力、特性を見てスペシャリストを育てるというより、全員一律にキャリアアップを目指し、ゼネラリストを育てるという方法が広く行われています。
しかし、多様な人が労働市場に参加してくると、必ずしも全員が「仕事一筋、業績アップのために24時間、頑張ります」という人たちばかりではありません。ダイバーシティ・マネジメントは、一人一人のそれぞれの能力に応じて最大のパフォーマンスを発揮させることにあります。
そもそも、一人ひとりの価値観も多様性がありますので、これまでの同質性のマネジメントでは通用しません。
また、昨今言われている働き方改革は、多様な人が、最大のパフォーマンスを発揮しやすいように、労働環境を整えていくことです。それが、とりあえずの「長時間労働の是正」や、「テレワークの推進」が、従業員にとって働く意欲を減退するものとなってしまっては、全くの逆効果です。
ダイバーシティ・マネジメントに求められるマネジメントの役割は、働き方や価値観の多様性を尊重し、従業員が上司と対等な立場で意見や議論ができる労働環境づくりです。
つまり、人事制度においても、社員の育成についても、働き方についても、大きく変える必要があります。
また、昨今言われている働き方改革は、多様な人が、最大のパフォーマンスを発揮しやすいように、労働環境を整えていくことです。それが、とりあえずの「長時間労働の是正」や、「テレワークの推進」が、従業員にとって働く意欲を減退するものとなってしまっては、全くの逆効果です。
ダイバーシティマネジメントに求められるマネジメントの役割は、働き方や価値観の多様性を尊重し、従業員が上司と対等な立場で意見や議論ができる労働環境づくりです。
5.ダイバーシティマネジメントを成功させる3つのポイント
5-1.「心理的安全性」による強いチームづくり
従来の一方的な指示型コミュニケーションは、「心理的安全性」を低下させてしまう可能性があり、部下の主体性・自発性が削がれるだけでなく、ハイパフォーマンスにつながりません。
グーグル社で行われた人員分析では、本来の自分をさらけ出し、チームが理解・共感を持つことで、生産性と結びつくという結論が出ています。
・・・⇒誤りが許される⇒失敗から学ぶ⇒誰でも自由にアイディアを共有する⇒より良い意思決定をする⇒誤りが許される⇒・・・
(参考:https://www.weforum.org/agenda/2016/04/team-psychological-danger-work-performance/)
というサイクルを回していく職場こそ、従業員が自ら考え、成長し、強いチームが作られて行きます。
5-2.従業員エンゲージメント
米ギャラップ社によれば、日本の社員のエンゲージメントは世界最低水準と報告されています。それは、会社の方向性と従業員自身の方向性が合っていて、貢献しているという実感値が湧きにくいため、やらされ感から生産性低下が見受けられというのです。
「エンゲージメント」は、従業員の「(会社のビジョン・目標達成に向けての)自発的な貢献意欲」という意味です。エンゲージメントが高いと、会社のビジョン・目標に共感し、生産性が向上します。
(参考:https://www.towerswatson.com/ja-JP/Press/2012/07/7642)
5-3.「意見」を尊重する
外国人採用や女性活躍推進など、様々な取組は行われているものの、ダイバーシティ・マネジメントの本質として、「意見の多様性」が活かされる場はまだまだ整備されていません。
先に述べたように、「日本の労働人口の減少」などによって、企業は、多様な働き方や意見を柔軟に受け入れる必要があります。従業員の様々な意見の中から生み出されるアイディアは、多様な顧客ニーズに応えるイノベーションにつながっています。
(参考:マイナビニュースより一部抜粋)
まとめ
日本企業のマネジメントは、まさに転換期です。
「トップの指示に従って行動」「一律基準での評価」という従来のやり方では、企業の生産性向上も、新たな価値創造も期待できません。
「一人一人の“違い”を企業の資産として、どのように活かすか」
そのためには、トップマネジメントのコミットメント、既存の人事制度の抜本的な見直し、社員のエンゲージメント向上に本気で取り組む戦略人事の存在が不可欠です。
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