日系企業のグローバル化における論点とアジアの海外現地法人の現状

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はじめに

この記事では、近年のグローバル化の流れの中で、今、東南アジアで何が起きているのか、また、本社サイドで何が起きているのか、基本的な論点についてお伝えさせていただきます。
私は、企業の人材育成のお手伝いを数多く手がけていますが、それにとどまらず、エンゲージメントサーベイ(従業員意識調査)や現地社員へのインタビュー、現地社員のタレントマネジメント、人事制度のグローバル統合などを東南アジアと日本を行き来しながら行っています。日系企業の海外現地法人では、現在、現地社員を採用した後、どのように意欲を高め、組織を活性化していくかということに関心が高まっています。そうした多くの企業とさまざまなプロジェクトを進めてきた立場から見えてきた日系企業の海外現地法人の現状と論点についてお伝えしたいと思います。

グローバル化を考える際の論点――4つの問いかけ

はじめに、皆さんに以下の4つの問いかけをさせてください。

 Q1:日本的人事マネジメントは、今後、グローバルで勝てるのか?
 Q2:グローバル化=欧米流マネジメントに合わせることなのか?
 Q3:日本企業は社内公用語を英語化すべきか?
 Q4:日系企業のあるべきグローバル化のプロセスは?

1つめの問いかけは、「日本的人事マネジメントは、今後、グローバルで勝てるのか?」です。「日本的なマネジメント」というのが何を指すかにもよりますので、一言で答えるのは難しいかもしれませんが、皆さんはどうお考えでしょうか。

例えば、シンガポールの政府関連のリーダー育成機関「HCLI(Human Capital Leadership Institute)」が行った調査・研究では、日本のリーダーシップの傾向について、「ハーモニー重視」という指摘がされています。このようなリーダーシップスタイルは、今後も継続していくべきでしょうか?それとも、変えるべきでしょうか?

2つめの問いかけは、「グローバル化=欧米流マネジメントに合わせることなのか?」です。1つめの問いかけと関連しますが、重要な視点です。
グローバル化を進めるうえで、これまでのマネジメントの在り方を見直す必要があるにしても、欧米流のマネジメントを100%取り入れるべきなのか。グローバル経営に生かすべき日本的エッセンスがあるとすれば、それは何か。各社とも、模索されているところかと思います。

3つめは、「日本企業は社内公用語を英語化すべきか?」。これもグローバル化を進める流れの中でよく聞く話です。グローバル化に対する考え方によって、意見の分かれるところではないでしょうか。

4つめは、「日系企業のあるべきグローバル化のプロセスは?」です。
グローバル化のプロセスやマネジメントのやり方には、さまざまな形があります。どれくらいのスピード感で、どういうプロセスで行うのがよいのか、悩まれている会社が多いことでしょう。
この2~3年で感じるのは、少し前は、グローバル化に向けて、若手を海外にトレーニングに出すケースが多かったのですが、最近は、少し風向きが変わってきているようです。「若手に経験を積ませて将来に向けて準備するのでは間に合わない。グローバル化は今すぐ対応しなければならないテーマだ」ということで、海外トレーニングに、「部長を行かせろ」、「統括部長を行かせろ」と、上の意識を変えようとする企業が増えています。これまでは、「上のクラスは今までの延長線上のマネジメントを継続し、下だけ変えればよい」という意識だったのが、大分温度感が変わってきたといえるでしょう。

このような4つの論点を提示させていただきましたが、このような論点を会社として議論し、結論を出していくことが、自社のグローバル化のあるべき姿を考える上で重要なポイントになります。

人・組織のグローバル化ができていない

ここで、日系企業のグローバル化の今までの歴史について、おさらいしておきましょう。

  ①モノのグローバル化
     ↓
 ②生産のグローバル化
     ↓
 ③人・組織のグローバル化

日系企業のグローバル化は、まず、「モノのグローバル化」から始まりました。輸出、販売のグローバル化ですね。次に起こったのが、海外に工場を設け、生産コストを下げる「生産のグローバル化」です。そして、近年進みつつある“第3の波”が、「人・組織のグローバル化」です。M&Aなども含め、人材や組織の在り方の見直しが行われています。

誤解を恐れずに言えば、これまでの「モノのグローバル化」や「生産のグローバル化」の段階では、多くの日系企業が、「頭」の部分は日本からの海外駐在員で、“手足”として現地社員を使っていました。特にアジアでは、そうした傾向が強かったように思います。しかし、それでは勝ち残れないことに気づいたことで、「人・組織のグローバル化」に取り組む企業が増えてきたのです。

そうなると、「求める人材」も変わってきますし、それに合わせてマネジメントのやり方も変えなければなりません。しかし、一方で、マネジメントが変わりきれていない会社が多いというのが現状です。

現地化かグローバル最適か

海外現地法人において、人・組織のマネジメントを行う上では、「現地化」、「ローカル化」という言葉がよく言われますが、それだけではなく、最近は、「グローバル化」、「リージョン(地域)最適」の重要性を増してきました。このローカル化とグローバル化のバランスをどうとるかというのも、重要な論点です。
例えば、インドネシアならインドネシア寄りの仕組み・運用にするのか、国によらないユニバーサルでグローバル最適な仕組みを構築するのか ―― 多くの会社において、この綱引きが行われています。
“日本スタイル海外展開型”で行くのか、たとえ本社が日本でなくてもよく最適なところにおけばいいというような “無国籍グローバル(トランスナショナル)型”で行くのか、それぞれの国に合わせた“マルチナショナル(国ごとローカル)型”で行くのか――これらは一概にどれがよいと言えるものではなく、事業特性によって、あるいはその企業の発展段階によって、あるべきグローバル化の組織像は異なります
業界によっては、昔は本社の製品開発力が強かったが、現地が力を付けてきたので、トランスナショナル型にシフトしてきた、というところもあります。これによって、求められる人材タイプも変わってきますので、「どういう人を採用してどう育成・活用するか」という問題が、日本人に対しても現地社員に対しても生じています
「本社がすべてをコントロールするのは難しい」ということで、シンガポールなどにリージョナルヘッドクオーター(地域本社)や海外本社を置く会社も増えています。しかし、多くの会社のリージョナルヘッドクオーターという名称が付いていて、責任はあるけれども、権限はあまりなく、本社にお伺いを立てないと何も決められないという嘆きをお聞きすることも少なくありません。
一方で、リージョナルヘッドクオーターを担うだけの人材が育っていないという問題もあります。日本人駐在員を3年程度でローテーションしていて、はたして地域本社を統括できる人材が育つのでしょうか。
はたまたグローバル化が進むと、マトリクス組織、クロスファンクションの組織が増え、マネジメントが難しくなるという課題もあります。「上司は他の国にいて、一度もあったことがありません」というようなことが出てきます。バーチャルリーダーシップ、オンラインによるマネジメントも重要になってくるでしょう。

こうしたグローバル化、全体最適を追求する取り組みは、欧米系企業では20年ほど前から試行錯誤しながら始まっています。しかし、欧米企業での学びが、現在、試行錯誤している日系企業で十分に共有されていないと感じています。

例えば、国を超えたグローバル人事機能を整備しようと思ったら、やるべきことがたくさんあります。グローバル共通のタレントマネジメントをどうするのか、人事制度をどう世界で共通化するのか、企業理念・フィロソフィーやミッション・ビジョン・バリューをどう浸透させるのか、各国・地域のエンゲージメントをどのように測定し、維持していくのか……すでに手を付けていらっしゃる企業も多いですが、簡単に実現できるものではありません。

優秀なローカル社員の採用・育成が課題baffled asian businesswoman

組織の形を、“トランスナショナル型”で行く場合も、“マルチナショナル型”で行く場合も、今後、大きなテーマとなるのが、「優秀なローカル社員をどう採用して定着してもらうか。そして、適材適所でその能力をどう引き出してどう活性化するか」です。
シンガポールにおける就職人気ランキングに日系企業が何社入っているかご存知でしょうか。Universum社の調査では、文系のトップ100社に入っているのは、ユニクロ(45位)、ソニー(73位)の2社のみです。日本の企業は、働く場所としては、海外では人気がないのが実情です。
シンガポール人に日系企業のイメージ調査をしたことがあります。「日系企業のイメージはどうですか」と尋ねると、「いいですよ」と多くの人が答えます。ところが、「働きたいですか」と聞くと、「働きたくない」と言います。
日系企業が数多く進出しているタイにおいてはどうでしょうか?理系のトップ100社に入っているのは、トヨタ、ホンダ、ソニー、パナソニック、ユニクロの5社のみです。これは、タイにおける日系企業の存在感の大きさからすると、残念な結果と言えるでしょう。
その理由は、いろいろあります。例えば、「出世が遅い」、「昇格しても給料が安い」、「パフォーマンスをあげても処遇に反映されない」といったことがよく言われます。では、給料を高くすればよいかというと、そう簡単な話ではなく、給与を高くするだけでは、会社の業績は悪くなるだけです。活躍している人の給与をあげようとしたら、逆に、パフォーマンスの低い人を指導して、生産性をあげるようにしたり、場合によっては、給与を下げたり、会社を去ってもらったりをしないと、どんどんぬるま湯になってきます多くの日本人が、外国人に対して、きちんとしたサポートやフィードバックができない一方で、クビにもできずに、あまりモチベーションの高くない、優秀でない人が、ぬるま湯的に仕事をしている状況が日系企業の海外現地法人では数多く見受けられます。

また、シンガポールで日系企業が人を雇うときに多く聞かれるのが、「夜、飲み会はあるのでしょうか」ということです。「日本語を話せないとダメなんでしょう」という誤解もあります。
それと、私が、タイ人の研修講師に言われて一番ショックだったのが、「日本企業は、タイのローカル企業とくらべて、育成しませんよね」という意見です。現地社員にどれだけ、どのような研修をしているかということとともに、“ストレッチアサインメント”をして成長を促すような仕事を与えているかということも重要です。日本企業は、外国人のマネジメントをどうしていくか、この辺りも重要な論点だと思います。

これまで日系企業の海外現地法人が求めていた人材は、駐在員の言うことを素直に聴く“従順安定志向型”の人材だったような気がします。これが徐々に、「ハイパフォーマー人材を採用しないと新しいビジネスを生み出せない、業績が伸ばせない」という意識に変わってきました。日本で作ったものを海外に持っていって売るだけ、もしくは、海外で生産するだけであれば、“従順安定志向型”の人材でよかったのかもしれません。しかし、これからの時代は、現地社員に活躍してもらわないとならないわけです。にもかかわらず、そのための採用や育成、活用がうまくいっていない企業が多いのです。
現地社員が日系企業に入ると、さまざまな違和感や疑問が生じます。「ビジョン・方向性・戦略が分からない」、「責任者が分からない」、「なぜ早く昇進できないのか」、「ワークライフバランスは?」、「なぜホウレンソウ(報告・連絡・相談)をしなければならないのか」、「キャリアパスはどうなっているのか」……。誤解されている点も含め、日本人がちゃんと説明できていないことが、大きな問題です。“従順安定志向型”ではない人材を必要とするなら、ローカル社員と正面からしっかりとコミュニケーションしなければなりません。

日本人の側は、コミュニケーションを取っているつもりになっているかもしれません。「年に1回、メッセージを出している」とか、「細かく言わなくても察してほしい」とおっしゃる方もいらっしゃるでしょう。しかし、それでは誤解を解決することにはつながらず、優秀な現地社員が抜けていってしまいます。
日本で働く日本人は、たとえ、評価があいまいでも、フィードバックがあいまいでも、一生懸命頑張る傾向があります。外国人からすると、これは本当に不思議なことです。日系企業は、もっと本気で、現地社員と向き合い、しっかりとコミュニケーションを取り、適切なパフォーマンスマネジメントを行っていかないといけないと思います。

 現地マネジメントの4つのパターン

私が見てきた中で、日系企業の現地法人のマネジメントには、以下の4つのパターンがあります。このうちのどのパターンに属するかによって、“人が残る企業”と“辞める企業”に分かれると思います。

 ①日本人頑張り型
 ②そこそこオペレーション型
 ③経営現地化型
 ④グローバルマネジメント型

1つめは「日本人頑張り型」。日本人駐在員だけが頑張って働き、ローカル社員は“手足”として使うやり方です。海外進出を始めたばかりの企業で多いパターンです。しかし、これでやっていくと、中核の人は残るかもしれませんが、優秀なローカル社員の多くは、少し成長したら抜けていってしまいます。それを見た日本人の側は、「〇〇人は働かない」ととらえ、悪循環から抜け出せません。

2つめは、「そこそこオペレーション型」。現地社員がローカルマネジャーを担えるくらいまでは育ち、オペレーションは任せられるようになります。このパターンの場合、そこに合う人はよいのですが、合わない人は辞めていってしまいます。日系企業では簡単にクビになりませんので、ローカルマネジャーが職場を牛耳っていて、ぬるま湯になっている可能性があります。

3つめは「経営現地化型」。現地の企業を買収したケースに多いパターンです。このパターンでは、ローカルのダイレクターが職場を牛耳っていて、駐在員が中に入れないケースも見受けられます。ローカルのダイレクターやマネジャーが派閥を作ってしまっていて、日本人はガバナンスをきかせられず、放置してしまっているのです。

4つめは「グローバルマネジメント型」。「どこの国の人かは関係なく、優秀な人が必要なポジションに就けばよい」、また、「優秀な人は、その国にポジションがなければ、他拠点に異動させる」というやり方です。

ほとんどの日系企業の海外現地法人が、このどれかのパターンに当てはまると思います。
現地社員のリテンション、成長と活躍を促すうえで重要なポイントとなるのは、適材適所の配置、フェアな評価とそのフィードバック、適正な報酬水準、成長できる機会、キャリアの見通し、尊敬できる上司、良好な人間関係などです。
これらを実現するためには、人事制度の整備が必要です。等級、評価、報酬などの適切な仕組みがまだまだできていないところが多く、実際、見直そうという企業も増えています。
また、制度があっても運用が上手くできていない企業も非常に多いと感じます。あいまいな人事制度でも成り立っていた日系企業にとって、不得意なところと言えるかもしれません。また、日本からの駐在員のレベルも上げていかなければいけないことも重要なポイントになります。

冒頭で、皆さんに4つの問いかけをしましたが、最後にもう1つ、問いかけをさせてください。それは、「日本が、今後も全世界本社であるべきか?」という点です。日本の本社が日本を管轄するのはあってよいとして、グローバル本社である必要はあるのでしょうか。今後は、日本は日本本社にして、シンガポールなどでグローバル本社機能をもたせるという選択肢もあると思います
今までの組織のあり方の延長線上だけで考えるのではなく、人と組織のグローバル化に向けて、一度、ゼロベースで、どのような組織になるべきかを考えてみることは、とても重要なプロセスと思います。

 

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森田 英一
大学院卒業後、外資系経営コンサルティング会社アクセンチュアにて、人・組織のコンサルティングに従事。2000年にシェイク社設立、代表取締役社長に就任。「自律型人材育成企業」をキーワードに、企業研修、人・組織関係のコンサルティングなどに従事。自身も講師として、毎年のべ5000人程に研修を実施。10年の社長を経て、beyond global社を日本とシンガポール、タイに設立し、President&CEOに就任。beyond global Japan(旧ドアーズ)社の「海外修羅場プログラム」が、全国6万人の人事キーパーソンが選ぶ「HRアワード2013」(主催:日本の人事部 後援:厚生労働省)の教育・研修部門で最優秀賞受賞。「ガイアの夜明け」「ワールドビジネスサテライト」等テレビ出演多数。主な著作に「誰も教えてくれない一流になれるリーダー術」(明日香出版)「「どうせ変わらない」と多くの社員があきらめている会社を変える組織開発」(php新書)等がある。

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