三菱商事 松田氏から学ぶ 海外現地法人の組織課題と成功の処方箋(1)

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先日、三菱商事株式会社人事部グローバル研修・採用担当オフィサーの松田豊弘氏を講img_5652師にお迎えして、特別セミナー「三菱商事 松田氏から学ぶ 日系企業のグローバル化に向けた組織課題と成功の処方箋」(beyond global主催)を開催しました。

松田氏は三菱商事本社国際人材開発室、在香港グローバルヒューマンネットワーク社総経理、本社HRDセンター長代行(兼)国際人材開発室長、在シンガポールアジアHRDオフィス室長、アジア大洋州統轄付アジアHRDオフィス室長などを歴任。20年以上にわたり、同社のグローバル化を人・組織の面から支えてこられた方です。今回のセミナーでは、日系企業の特性を押さえた企業組織のグローバル化についてご講演いただきました。本レポートでは、講演のポイントとなる点を要約・再構成してご紹介します。

日本企業のグローバル化の最大の課題は、現地人材の採用と定着

皆さん、こんにちは。三菱商事の松田と申します。私は、シンガポールに6年半駐在しておりました。それ以前は、日本のグローバルHRD部門にいたのですが、「日本からでは変われない」と考え、シンガポールから取り組みを進めていくことにしました。

シンガポールでグローバルの現場を見ていると、日本にいては気づかないことが見えてきます。本日は、それを皆様にお話しできればと考えております。

私がここ5年ほどの間で最も重要と感じているのが、リクルーティング(採用)。それと、リテンション(定着)です。アジアで人を採用すると、優秀な人材は、大体5年以内に辞めてしまいます。これは、当社だけの問題ではありません。どうやって優秀な人材を採用し、残ってもらい、育てていくか――ということは、日系企業共通の課題といってよいでしょう。

日本企業の目指すべきグローバル化の方向性

採用やリテンションについてお話しする前に、まず、前提として、日系企業が目指すべきグローバル化の方向性について考えてみたいと思います。大きく分けると、日本発ビジネスによって展開していくのか、それとも、“マルチナショナル”および“マルチリージョナル”を目指すのか、ということです。

もちろん、どのような形がよいかは、それぞれの企業によって異なります。例えば、マルチナショナルにして業績が下がったのでは、意味がありません。いろいろなビジネスモデルがあってよいでしょう。

しかし、日本本社が中心となるビジネスだけでは、限界があります。一方で、日本や日本人には、「クールジャパン」と言われるような、日本独自のよさがあるのは間違いありません。

ですから、私自身の個人的な考えとしては、日本のよさを生かしながら、そのうえで、海外が主導するビジネスをいかに生み出していけるかが、多くの日系企業にとってのこれからの課題だと考えます。“日本発”のビジネスを維持しながら、各国で“海外発”のビジネスを増やしていくわけです。

現地“戦略マネジャー”の確保と育成が不可欠

そこで必要となるのが、現地の“戦略マネジャー”です。戦略的思考ができないと、新しいビジネスモデルを生み出すことはできません。シンガポールであれば、シンガポール発の戦略を作れる人材を採用するか、現地img_5312のナショナルスタッフの中から育てていかなければなりません。

それと、その人材・・・インドならインド人、シンガポールならシンガポール人の戦略マネジャーが、次の世代を育成できるようになることもポイントです。自分の下を育てられないと、現地のトップ(ゼネラルマネジャー)を担うことはできません。戦略を立てるのと同時に、組織開発や組織マネジメントができる人材をつくらないと、日本企業が本当に変わることはできないでしょう。

そのためには、まず、戦略マネジャー候補となり得る人材を見つけて採用する。そして、なるべく早く戦略マネジャーを担えるように育成する。また、優秀な人材ほど早期に辞めてしまいますので、辞めずに残ってもらえるようにする。残ってくれた人材をさらに成長させて、活躍の場を与える・・・という好循環につなげていく必要があります。

優秀なナショナルスタッフを採用するためのポイントは?

では、どんな人を採用すればよいのでしょうか。企業ごとに考え方があるかと思いますが、私のこれまでの経験から、一つのコンセプトをご紹介しましょう。

私は、採用の選考をする際に、以下の3点を重視しています。

①Trustworthiness(信頼性)

まず信頼できる人であること。これは、入社してから育成をしようとしても、鍛えることはできません。間違った人を採用しないように、人材アセスメントなどを行って、採用段階でしっかりチェックする必要があります。

②Knowledge(知識)

知識やスキルは、入社後でも教育することができます。本人に学ぶ意思があり、企業の側がきちんと教育すれば、必ずしも採用する時点で備えている必要はありません。ただし、入社後に研修を行ったり、修羅場を経験させて鍛えることが欠かせません。

③Strength(強み)

私が特に重要と思うのは、“レジリエンス”(精神的回復力)です。失敗しても必要以上に落ち込まず、完成させるまであきらめない力が求められます。この能力の有無が本社の社員と現地のナショナルスタッフとの違いと言われていますが、駐在員の味方になってくれる人も必要ですし、レジリエンスがないと、戦略マネジャーにはなれません。

採用のためのコーポレート・ブランディング

採用に関してもう一つ付け加えると、日本企業では、コーポレート・ブランディングが軽視されています。激しい人材獲得競争が行われている中、最近は日本企業の不人気による“ジャパン・パッシング”があり、優秀な人材がより採用しにくくなっています。その現状を真剣に受け止めるべきだと思います。

当社がアジアで採用活動をした際に、私が応募者にアピールしたことが二つあります。

一つは、自社がグローバル化しつつ成長していること。「当社は海外での新規ビジネスを拡充しながらこれだけ成長している」と説明すると、「なぜだろう?」「どんな会社だろうか?」と興味を持ってもらえます。

もう一つは、三菱商事が最も大事にしている社是、「三綱領」です。これをビジネスとの関連で説明したことで、優秀な人が入ってきてくるようになりました。ビジョンを理解して入社してくるので、他国と比べ、入社後のエンゲージメントも高いです。自社の理念や文化を日本語だけにとどめておくのではなく、コーポレート・ブランディングの一環として、英語で自社のビジョンと戦略を積極的にアピールすることは、とても有効です。

日本の企業の英知や企業文化は、日本語でできています。これを捨ててはいけないというのが、私の考えです。ただ、その日本語によって表されている英知をなるべく多くの人が英語で表現できるようにならないと、日本企業はグローバル社会で生き残っていくことができません。英語と日本語を自由自在に使い分けるように組織開発することが必要です。

日本企業には、日本語しかない情報と英語しかない情報がありますが、英語情報が圧倒的に足りません。駐在員が英語できちんと説明できていないことに加え、日本本社が必要な戦略情報を英語化しようとしていないという問題もあります。

優秀な現地社員が辞めてしまうのは、日本人駐在員が元凶!?

さて、そのようにして採用した人たちがずっと自社にいてくれて、現地のゼネラルマネジャークラスへと成長していってくれるとよいのですが、冒頭でお話ししたように、実際には、そうはなっていません。仮に優秀な人材を採用できたとしても、駐在員を脅かすようなレベルの戦略マネジャーとなり得るような人は、だいたい5年以内に辞めてしまいます。

「ブランチ(枝、部門、支店)の木の葉は音を立てずになくなっていく」――次々と優秀な社員が辞めていく現状を、ある米国人の友人がこう表現しました。気がつくと、いつの間にか優秀な人がいなくなっている。そして、従順で言われたことはやるけれども、イノベーションは起こせない人が集まってしまう。そういうことが海外の現地法人・駐在事務所で起きているのが、多くの日本企業の現状なのではないでしょうか。

日本企業は、どうしてこのような状況になってしまったのでしょうか。

原因はいくつかありますが、最大の問題は、日本から赴任する海外駐在員の能力不足です。厳しい言い方をすると、「駐在員が元凶」といってよいでしょう。もう一つ、別の面から言うと、英語情報の不足も大きな課題です。次回、具体的にご説明させていただきます。

(つづく)
三菱商事 松田氏から学ぶ 海外現地法人の組織課題と成功の処方箋(2)
ナショナルスタッフが辞めていく本当の理由

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松田 豊弘

松田 豊弘

三菱商事株式会社人事部グローバル研修・採用担当オフィサー。元 三菱商事(株)アジア大洋州統轄付アジアHRDオフィス室長。1981年三菱商事(株)法務部入社。89年ジャカルタ駐在事務所総務人事課長。96年人事部国際人材開発室、98年グローバルヒューマンネットワーク社(香港)総経理。2006年本社HRDセンター、同センター長代行(兼)国際人材開発室長を経て09年シンガポール支店アジアHRDオフィス室長。20年を超える組織のグローバル化の取組み経験を基に、グローバル人材育成の第一人者として多数の講演を行っている。社内HRDコンサルタントとしてアジア各国を巡る傍ら、JAZZシンガー「大蔵隼人(おおくらはやと)」としての顔を持つ。 2012-13 シンガポールヒューマンキャピタル賞 予備審査員歴任。2015 シンガポールヒューマンキャピタル賞 ベスト10入賞 ( ショートリスト ) 。2016 HRエクセレンス賞( 三部門で銅メダル)   「Excellence in Strategic Plan」「Excellence in Leadership Development」「Excellence in Diversity & Inclusion」。2016 Regional Recruitment Award 入賞

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