三菱商事 松田氏から学ぶ 海外現地法人の組織課題と成功の処方箋(2)

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img_0031 前回は、松田氏が感じている日本企業のグローバル化の課題や、日本企業の向かうべき方向性、現地の優秀なナショナルスタッフを採用するためのポイントなどを語っていただきました。今回は、これからの日本企業に求められる対応、特に駐在員の意識改革の必要性について、三菱商事における取り組みも踏まえながら提示していただきます。

ナショナルスタッフが辞めていく本当の理由

私は、1999~2000年に香港に駐在していましたが、そのとき、運よく、グローバル企業のコミュニティに入れてもらうことができました。当時の私には、彼らの言っていることがまったく理解できませんでした。例えば、サクセッションプランをどのように行っているかなど、「グローバル企業は、こんなことをやっているのか!」と、大変驚きました。

いろいろと教えてもらい、さまざまなことを学ばせてもらいましたが、その過程で分かったのは、「現地のナショナルスタッフが退職するのは、給与だけが理由ではない」ということです。例えば、自社の給与水準がグローバル企業の水準の50%だとしたら優秀なスタッフが辞めてしまうとして、それを75%にしたとしても、それだけでは足りません。

では、なぜ、多くの優秀なナショナルスタッフが給与以外の要因で辞めてしまうのでしょうか。

現地の優秀なナショナルスタッフを分析したところ、以下の2点がポイントであることが分かりました。これらを企業が提供すれば、優秀な人材が辞めていく割合は下がります。

①  キャリア志向を満たす仕組み・運用があるか

②  自己開発・能力開発志向を満たす仕組み・運用があるか

1点目の「キャリア志向」というのは、将来に向けてキャリアが開けているということです。日本人の場合は、昇進するまでに10年かかっても待ちますが、ナショナルスタッフはそこまで我慢しません。だから、5年で辞めてしまう。10年かかっていたのを7年にするといった対応も検討するべきでしょう。さらに、“グラスシーリング(ガラスの天井)”を仕組みや運用の面から見直したり、グレーディングシステム(等級制度)を整備し、昇進昇格の透明性を確保することも重要です。

2点目は、現地のナショナルスタッフに対して、教育の機会を提供すること。戦略マネジャーに育てるには、一定期間にわたる地道な教育が必要です。「キャリア志向」を実現していくためには、より大きな役割を担って昇進していくことが必要ですので、そのための研修や修羅場経験が段階的に付与されることが重要です。

駐在員が説明責任を果たしていないことが問題

ナショナルスタッフのキャリア志向を満たすには、制度面の対応も重要ですが、それ以上に大事なのが、給与やキャリアなどの道筋が“見えている”ことです。そのためには、駐在員がナショナルスタッフに対して、「キャリアアップするために何が必要か」を説明しなければなりません。

ところが、多くの駐在員は、「ナショナルスタッフは、言われたことさえやっていればいい」という意識なので、説明しようとしません。また、本社はその必要性を十分に理解せず、ぴんと来ていない。地域本社は、権限もなければ予算も足りない。

中でも問題なのが、駐在員です。ナショナルスタッフは、さまざまな「なぜ?」を抱えています。「なぜ、部長は全員日本人なのか?」「なぜ、私は昇進できないのか?」……。こうした疑問が解消されないと、辞めていくのも当然です。

説明責任を果たさない。だから、仲間になれない。これは、駐在員のマインドセットの問題です。駐在員は自分を偉いと思っているので、ナショナルスタッフが何か提言してきても、うるさいと思うか、自分を脅かすような人を育てようとしません。

また、駐在員が説明責任を果たせないもう一つの理由として、能力不足があります。これには、語学力が足りないということもありますが、一番大きいのが、駐在員自身が制度を理解していないことです。

ナショナルスタッフの成長を促すには、“適材適所適時”のジョブマッチングが必要です。そこで、モチベーションを高めるには、まず、“ミッション”、すなわち、何を目指しているのかという目的を伝えることが大切です。また、さらに上のキャリアを目指してもらうために、①何をするとジョブサイズを大きくできるのかという「職務評価」の仕組み、②昇進・昇格の要件となる「コンピテンシーとスキル」を理解させることが必要です。

ところが、多くの場合、駐在員自身が、職務評価やコンピテンシーの仕組みを理解していません。日本国内で、職務評価やコンピテンシーが十分に使われていないので、駐在員もよく分かっていないのです。職務評価やコンピテンシーというのは、制度を導入しただけでは意味がありません。使いこなすことが大事です。

このように、意識の問題と能力の問題があるために、ナショナルスタッフが知りたいことを駐在員が説明できず、優秀なナショナルスタッフが次々に辞めていってしまいます。

これは私が2000年に分析した考え方ですが、いまだにこの問題が改善されておらず、今でも日本企業共通の課題と言えます。優秀社員が辞めないように、駐在員の意識を変え、能力を高めて、優秀なナショナルスタッフのモチベーションを高めてもらうことが必要です。

もちろん、駐在員だけが問題なのではなく、一方で、企業としての対応も重要です。例えば、市場価値に基づいた報酬水準の実現。先ほど「給与だけでは辞めない」と言いましたが、言うまでもなく、給与がいくら低くてもよいということではありません。優秀な人材に残ってもらうには、一定水準以上にすることが必要です。

また、給与だけでなく、組織体制、パフォーマンスマネジメントの仕組み、キャリアディベロップメントプログラム、トレーニングプログラムなどの仕組みと運用状況を国別に見ていく必要があります。全社におけるナショナルスタッフの人員構成や、登用の状況なども把握しながら、定期的に“組織の健康診断”(従業員意識調査)をすることを心がけてください。

 戦略を英語化してナショナルスタッフに開示しているか

img_0025もう一つ指摘しておきたいのが、本社として発信する英語状況の不足です。前回、現地の戦略マネジャーを育てることが必要であるとお話ししましたが、戦略マネジャーというからには、日本本社の戦略を彼らにも伝え、理解させる必要があります。皆さんの会社では、自社の戦略を英語化して海外の現地スタッフに伝えているでしょうか。

三菱商事では、2004年前後に全社経営戦略をすべて英語化しました。その結果、「いままでは東京の様子が霧にかかっていましたが、霧が晴れて視界が開けました」とインド人スタッフに言われました。こうした情報が、現地に求められているのです。

インドで国別の経営戦略を英語化して周知した際に、一つ笑い話があります。いくつかの拠点に順次、英語化した経営戦略の資料を配布させたのですが、はじめは10ページあった資料が、次の拠点では8ページになり、その次の拠点では6ページになり……と、分量が減っていったのです(笑)。その原因は、駐在員たちが「これはインド人に必要ない」と勝手に判断して、減らしてしまったためです。これが駐在員の意識なのです。

皆さんの会社では、戦略をきちんと開示して、リージョナルやナショナルの現地の優秀人材をどこまで組み入れていますか。戦略を理解させて相談できるようにしないと、新しいものは生み出せません。「知らしむべからず、よらしむべし」では、ナショナルスタッフの活躍と成長を促すことはできないのです。

日本語を捨てない前提で、日本の英知をどこまで英語化できるか――このクオリティが重要です。そして、インド人やパキスタン人、シンガポール人の英知も活用できるようになれば、日本企業は復活します。そこで大事なのが、やはり駐在員のマインドセットです。

日本人全体の意識改革が急務

日本企業は、駐在員のレベルを上げていかなければなりません。欧米企業の場合、ローカル化のミッションが駐在員に課せられています。しかし、日本企業の駐在員にとっては、現地のナショナルスタッフを育てることが自分にとってプラスになりません。下手に育てると、駐在員とナショナルスタッフのポジション争いになってしまいます。だから、育てずに“手足”として使う――という悪循環から抜け出せないのです。

海外のナショナルスタッフにサクセッションプランを立てて戦略マネジャーへと育成することは、言うはやすく行うは難しです。その結果、優秀な人材ほどキャリアを待てなくて辞めていってしまう。プロモーションと教育をしっかり行って育成し、見合った報酬を与えることを駐在員ができていないのです。

こうした状況を抜け出すには、再三申し上げているように、駐在員の意識を変えることが必要ですが、同時に、すべてのレベルで意識改革が求められます。

私がグローバル人財開発室のトップになったとき、部のメンバーは日本人だけで、部内では、すべて日本語で会話していました。日本企業は、欧米企業と比べてそこまで遅れているわけではありません。日本人だけでやっていることが問題なのです。大事なのは、組織をどうグローバル化するかということと、個人がどうグローバル化するかということ。グローバル、リージョナル、ナショナルの三つのレベルでグローバル化に取り組むことが必要です。

また、駐在員として海外に行ってから、意識や能力を鍛えようとしても、間に合いません。国内・海外出向などを組み合わせて、マネジャーになる前のスタッフの段階から育成していくことが大切です。

三菱商事では、社員を入社5年以内に海外に出すようにしました。なぜかというと、若いうちに優秀なナショナルスタッフの下に就けて、マインドセットを変えるためです。おじさんたちにとっては、ナショナルスタッフというのは「(素直に)言うことをきく人」であり、この意識を変えることは難しい。若いうちに海外を経験して、優秀なナショナルスタッフと仕事をしていれば、ナショナルスタッフを下に見る意識はなくなるはずです。

img_0035駐在員は日本の人事制度で評価されるのが普通ですが、この仕組みを見直すことも、効果があると思います。駐在員のコンピテンシーをナショナルスタッフが評価するようになると、駐在員の意識にも影響があるでしょう。当然、現場の反発はあると思いますが、日本人だけが育つためのシステムから、どこまで覚悟をもって変えられるかが、これからの日本企業がグローバルに成長していくためのポイントになるのではないでしょうか。

ご清聴ありがとうございました。
三菱商事 松田氏から学ぶ 海外現地法人の組織課題と成功の処方箋(1)
日本企業のグローバル化の最大の課題は、現地人材の採用と定着

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松田 豊弘

松田 豊弘

三菱商事株式会社人事部グローバル研修・採用担当オフィサー。元 三菱商事(株)アジア大洋州統轄付アジアHRDオフィス室長。1981年三菱商事(株)法務部入社。89年ジャカルタ駐在事務所総務人事課長。96年人事部国際人材開発室、98年グローバルヒューマンネットワーク社(香港)総経理。2006年本社HRDセンター、同センター長代行(兼)国際人材開発室長を経て09年シンガポール支店アジアHRDオフィス室長。20年を超える組織のグローバル化の取組み経験を基に、グローバル人材育成の第一人者として多数の講演を行っている。社内HRDコンサルタントとしてアジア各国を巡る傍ら、JAZZシンガー「大蔵隼人(おおくらはやと)」としての顔を持つ。 2012-13 シンガポールヒューマンキャピタル賞 予備審査員歴任。2015 シンガポールヒューマンキャピタル賞 ベスト10入賞 ( ショートリスト ) 。2016 HRエクセレンス賞( 三部門で銅メダル)   「Excellence in Strategic Plan」「Excellence in Leadership Development」「Excellence in Diversity & Inclusion」。2016 Regional Recruitment Award 入賞
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