コロナ後の海外派遣研修のデザイン手法
〜実践型グローバルリーダー育成・選抜アプローチ

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ポストコロナの海外派遣研修のあり方

これまでは、実践型のグローバル人材育成と言えば、対象者を海外に送り込み、日本とは違う環境の中で、日本とは違う常識に触れ、その経験を通して、語学力、異文化理解、チャレンジ精神、柔軟性などを体験的に学んでいくことが主流でした。

しかしながら、コロナによって、海外に渡航することが制限され、その代わりにオンライン会議が日常のものになりました。そんな中、海外派遣に匹敵するような実践型のグローバル人材育成のニーズがあり、弊社では、オンラインを通して外国にいる人材とのコラボレーションを行うプログラムを数多く手がけてまいりました。

そして、ようやく、徐々に、国境が開いてきたことで、改めて海外派遣を本格的に検討し始める会社も増えてきました。

また、オリンピックも終わり、今後の日本企業が成長を考えた時に、グローバル市場というのは、目を背けずにはいられない市場であり、改めて、グローバル事業に力を入れる会社が昨今、増えてきています。

多くの企業において、グローバル事業のボトルネックとなっているのが、「グローバル人材不足」の問題です。特に、これからの事業の成長を担っていく予定の海外事業の成長をリードする「グローバルリーダー」の選抜と育成は多くの日本企業の喫緊の課題です。

 

国内で優秀な人は、海外でも優秀か?

日本国内では優秀で成果を上げている人材でも、海外に行って通用するかどうかは分かりません。日本国内では優秀だったとしても、言語も異なり、異文化環境の中、今までの常識が通用しない環境の中で、成果を出し続けることができるかどうかは、送ってみないと分からないため、とりあえず海外に派遣してみるというケースがありますが、この場合、成果が十分に上がらないことや、最悪の場合、メンタル面を病んでしまい、それをきっかけに、日本に帰国してからも、以前のようなパフォーマンスが出せなくなるようなケースも数多くお聞きします。

そのような国内では優秀で、海外経験がそれほどない方を、本格的に、海外に出向してもらう前に、一定期間(1週間から数ヶ月程度)、海外派遣研修として、海外に送り、海外環境での適性を見極めるというのは非常に合理的でしょう。海外に出向するのは、ビザの手配、住居や、家族の生活面の手配など、非常に多くの時間とコストを要するからです。

 

目的別の海外派遣研修のデザイン手法

海外派遣研修と言っても、語学習得を主とした「語学研修型」、海外視察などを中心とした「海外体験型」、海外でのビジネス調査などを中心した「海外リサーチ型」、実際の現地の会社で仕事をする「インターンシップ型」、現地の人と協働する「プロジェクト型」など、様々な形式があります。

海外でのビジネスを牽引するリーダークラスであれば、体験するだけのものではなく、何らかの成果をあげる「アウトプット型」のものがいいでしょう。

その観点では、「インターンシップ型」か、「海外リサーチ型」、「プロジェクト型」がいいでしょう。但し、インターンシップ型は、受け入れ会社のニーズによって、与えるミッションが変動し、そのミッションの質によって難易度の調整などが難しいため、グローバルリーダークラスの人材選抜・見極めをメインに考えるのであれば、「海外リサーチ型」か「プロジェクト型」がおすすめです。

「海外リサーチ型」の場合、自社サービスにつながるような市場調査のようなものを行うケースが多くなりますが、このような場合でも日本人だけのチームで行うのではなく、現地人材にチームメンバーに入ってもらい、日本人と外国人の合同チームになるようにするのが重要です。

海外派遣タイプ 概要
語学研修型 現地の語学学校などに入り、言語習得をメインの目的とするもの。
海外体験型 短期間、海外に行き、視察や、現地人材との交流など、海外体験を主な目的とするもの。
海外リサーチ型 何らかのリサーチテーマを元に、海外で自主的にリサーチを行うもの。日本に戻ってから、リサーチ結果を発表するケースが多い。
インターンシップ型 現地企業もしくは、自社のグループ会社に期間限定のインターン生として入り、業務を行う。
プロジェクト型 現地人材と一緒にプロジェクトチームを組み、一定の期間、与えられたミッションを達成することを目指すもの。

 

プロジェクト型の海外派遣研修デザイン

「プロジェクト型」の海外派遣研修の場合は、方向性として大きく2つに分かれます。

  • 自社のニーズに沿ったミッションで実施するか、②現地のニーズに沿ったミッションで実施するかになります。
  • 自社のニーズに沿ったミッションで実施するメリットとしては、参加者がその国でビジネスをするとしたら、実際に行うであろうテーマを扱うため、当事者意識が芽生えやすいでしょう。ただ、一方で、これまで日本で行ってきた業務の延長やこれまでの知識をベースに行ってしまうケースも多く、どうしても、日本人が主導のチーム編成になり、外国人をチームメンバーに入れたとしても、アシスタント的な位置付けになってしまいます。この形式で、限られた期間では、想定外のことが起きる海外ビジネス特有の難しさを体験することや、ゼロからの立ち上げの能力を測ることは難しいかもしれません。

一方、②現地ニーズに沿ったミッションで実施する場合は、参加者の土地勘がない現地ニーズでミッションが形成されますので、その背景の理解などをゼロから行わないといけません。状況把握をゼロから行い、その上で、自分よりも、現地ニーズを把握している関係者を巻き込んでいくことが求められますので、参加者にとっては、より難易度が高いでしょう。

現地ニーズといっても、現地企業のニーズだけではなく、最近では、より複雑なテーマとして、現地の社会課題をテーマに扱い、社会起業家やNPO、NGO、行政や問題の当事者などの多様なステークホルダーを巻き込み実施する社会課題テーマのプロジェクトを行うケースが増えてきました。

これは、日本企業の中で、SDGsなどの社会課題への取り組みが本格化してきたことや、ESG投資などにより、投資家へのアピールとしても社会課題への取り組みがアピールになること、更には、難易度の高い社会課題を解決する糸口が見つかるとすれば、それは大きなビジネスチャンスにつながるということもあるでしょうこれまでのビジネス習慣に囚われず、若い感性を生かしながら、次世代の感覚でゼロから課題解決にあたることが、次世代グローバルリーダーの育成に向いているという側面もあると考えられます。

プロジェクトタイプ 説明
自社ニーズのミッション 派遣元の日本企業のニーズのミッションを期間限定で実施し、成果を出す
現地ニーズのミッション 現地企業ミッション 現地企業のニーズに沿ったリアルなミッションに期間限定で取り組み成果を出す
社会課題ミッション 社会課題に取り組むNGOや社会企業家などと共に、リアルなミッションに期間限定で取り組み成果を出す

 

ポストコロナだからこそ可能なオンラインとのハイブリッド

これまで海外派遣研修は、その国に行っている間のみが研修期間でした。それが、コロナになり、オンラインでの会議や研修が一般的になったことで、実際に、参加者を派遣する前後でも、オンラインで現地とつなぎ、事前準備や、事後のフォローアップを行うことが可能になりました。

実際に、海外に渡航する前に、現地の関係者と何度かコミュニケーションを取り、日本国内で事前にウェブリサーチを行ったり、日本にいるからこそできる準備や、社内人材の意見を集約することなどが可能になります。また、海外派遣研修後も、期間内に、やりきれなかったことを、オンラインでフォローアップしたりすることで、日本国内に戻った後も、海外での経験を現在の仕事につなげていくことが可能になります。

海外派遣研修の効果を最大化するためにも、オンラインと現地のハイブリッド型のプログラムとしてデザインすることをおすすめします。

ポストコロナだからこそ、これまでの海外派遣研修の形に囚われることなく、自社の目的に沿った海外派遣研修を再デザインしなおしてみてはいかがでしょうか?

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森田 英一
大学院卒業後、外資系経営コンサルティング会社アクセンチュアにて、人・組織のコンサルティングに従事。2000年にシェイク社設立、代表取締役社長に就任。「自律型人材育成企業」をキーワードに、企業研修、人・組織関係のコンサルティングなどに従事。自身も講師として、毎年のべ5000人程に研修を実施。10年の社長を経て、beyond global社を日本とシンガポール、タイに設立し、President&CEOに就任。beyond global Japan(旧ドアーズ)社の「海外修羅場プログラム」が、全国6万人の人事キーパーソンが選ぶ「HRアワード2013」(主催:日本の人事部 後援:厚生労働省)の教育・研修部門で最優秀賞受賞。「ガイアの夜明け」「ワールドビジネスサテライト」等テレビ出演多数。主な著作に「誰も教えてくれない一流になれるリーダー術」(明日香出版)「「どうせ変わらない」と多くの社員があきらめている会社を変える組織開発」(php新書)等がある。

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