【対談によせて】グローバル人材マネジメントにおいて、ジョブ・フィットがどれほど重要であるか?
20年間にわたり、36万人のキャリアを追跡したハーバードビジネスレビューの調査によると、「職務にフィットしている人材は、そうでない人材と比較して、2.5倍の生産性をもたらす」という研究結果が報告されています。ジョブ・フィットの度合いは、企業側の「生産性向上」という観点からだけではなく、社員ひとり一人の「幸福感」や「生きがい」にも繋がる、非常に重要なファクターです。
かねてより、ジョブ・フィットが個人と組織に与える影響の大きさを痛感していた弊社beyond globalグループでは、ジョブ・フィットを科学的に測定できる、米国発祥のアセスメントツールProfileXT®を導入し、グローバル環境においてもその汎用性の高さを実感。
今回は特に、「グローバル人事における適材適所を実現するタレントマネジメント」をメインテーマに、このProfileXT®を提供しているHRDグループ代表の韮原光雄氏と、弊社代表の森田英一との対談を、2回に分けてお届けします。
[対談者プロフィール]
韮原 光雄(にらはら・みつお)氏 / 山口県出身。大学卒業後、渡米。コロラド州デンバーに5年在住。帰国後、米系人材開発コンサルティング会社でセールスコンサルタント、ゼネラルマネジャーを歴任後、起業。DiSC®アセスメントを1991年に国内に導入。HRD株式会社、株式会社HRDコンサルティング、プロファイルズ株式会社を設立。
※ProfileXT®のコピーライトは、米国 John Wiley & Sons社が保有し、日本語版開発および総販売代理権はプロファイルズ株式会社が保有しています。
1. ProfileXT®の導入背景:
①国内市場における職務マッチングニーズの存在
②日本人のエンゲージメント指数の低さ
ローカル人材を活かしきれず、国際競争力の低下を招く日系企業
森田:現在、グローバル人事において、多くの日系企業が苦戦しているという実情があります。欧米企業と比べると日系企業では、まだまだ「ローカル人材を活用しきれていない」というケースが多く見受けられます。弊社は日本、シンガポール、タイの3拠点で、企業の人材マネジメントを支援していますが、近年特にお客様から聞こえてくる声としては、「ローカル人材を選抜し、今後の当社を担っていくような、経営人材を育てたい」というニーズ。あるいは、何人か幹部候補者がいる中で、「どのように適任者を見極め、どう育成すべきか?」といったサクセッションプランニング(後継者育成)のご相談も多く寄せられます。
特に専門的な職種の場合、特殊なスキルや特性が求められることもあり、履歴書の文面と面接だけで見極めることがなかなか困難です。期待をもって採用した人材が、すぐに辞めてしまうと。そこで、人材採用者の主観的な勘やこれまでの経験、あるいは日本人のものの見方での「優秀さ」といった尺度だけではなくて、もっと客観的な指標で職務マッチングできるツールが必要だ、とまさに痛感していたときに、御社に出会いました。
御社が提供していたProfileXT®は、人と職務のフィットを測定する強力なアセスメントツールでした。会社毎にカスタマイズもでき、特定のポジションや職種に合った人材を精度高くマッチングできるということを知り、御社とパートナーアライアンスを組ませていただくことになりました。まず初めに、ProfileXT®導入の背景について、お聞かせいただけますでしょうか?
韮原:今のお話を伺う中で、まず「世の中がどうなってきているのか?」という大きな視点からお話できればと思います。「人生100年時代」とも言われる現代、第4次産業革命の波が押し寄せ、日本においては労働人口の減少と、経済のグローバル化、多様化が加速しています。これは日本に限らず、世界的な変化の流れですが、「人と経営」は切り離せなくなりつつあります。
グローバル市場全体においては、日本の競争力はこの25年間で大幅に後退しています。「IMD国際競争力ランキング」では、日本はかつて1位を記録したこともありましたが、2019年現在では30位まで後退。世界企業番付の「Fortune Global 500」では、上位500社のうち日本企業が119社を占めていた時代もありましたが、2018年の発表では52社にまで減少。100位以内にランクインできる日本企業は20社から10社にまで減少しているのです。
森田:残念ながら、それが日本企業の現状ですね。年々、競争力が低下しています。
勘と経験だけに頼る人材マネジメントの限界→DiSC®との出会い
韮原:研究開発・生産・営業・流通・調達などの分野では、新しい技術が次々と出てきており、それなりに進化もしているんですが、「人事」だけは先程の森田さんのお話にもあったように、昔から「勘と経験だけ」に頼ってきている。
森田:そこが我々が危惧しているところでもあります。
韮原:我々HRDグループは四半世紀、人材開発の仕事に携わっておりますし、私自身も企業研修事業を40年間続けてまいりました。人事領域では最先端をいっていた米国の人材開発コンテンツの日本国内への導入を進める中で、30年近く前にDiSC®という行動分析アセスメントに出会いました。DiSC®は理論として体系的にまとまっており、自己理解を促進し、他者との向き合い方や、対人対応スキルの向上を助ける有効なツールでした。
DiSC®認定セミナーを提供し始め、20年近く過ぎたあたりで、プロのコンサルタントからある課題が目立って聞こえるようになりました。それはDiSC®を利用した研修はうまくいったんだけども、その職務に適材配置ではない人材がいる気がすると。例えばマネジャー研修、役員研修をしても、ある人物はその役職に適していないのではないかと。
森田:そもそも、適性がなさそうだと。その職務にフィットしていないケースですね。
韮原:そうです。こういった例は研修の現場で数多く聞かれます。採用や配置の段階で、適切な選任ができていないわけです。このニーズはDiSC®だけでは埋まらないニーズでした。適材適所を測る、別のアセスメントの必要性が問われていると感じました。
森田:そのタイミングで出会ったのがProfileXT®だったのですね。
韮原:はい、劇的な出会いでしたね。ProfileXT®の導入背景としては、ひとつには日本国内の市場に職務マッチングのニーズが長年確かに存在していたこと。と同時に、もうひとつにはエンゲージメント指数の低さという要因もありました。日本のエンゲージメント指数は、アジアの中でも最低レベルでしたから。
森田:そうですね。エンゲージメント指数で言うと、シンガポールも実は比較的低いことで有名なのですが、日本はそのシンガポールよりもさらに低いという結果があります。
韮原:一見、日本人は皆責任感を持って、一生懸命働いているように見えるのですが。
森田:表面的にはそう見えていても、「やらなければいけないのでやっている」という日本人が多いのかもしれませんね。やらなければいけない、責任感や仕事へのコミットはあっても、「本当にやりたくてやっているか?エンゲージしているか?」と問われるとNoである、と。エンゲージメントは深い部分からくる主体的な貢献意欲なので、自分からやりたいという思いがないと難しいですね。
韮原:そうですね。まさにその2つの要素が重なり、ProfileXT®を日本で提供し始めるに至ったわけです。
2. 信頼性と妥当性を担保する人材アセスメント
世界一のバリデーションシステムを有するProfileXT®
韮原:人材アセスメントにおいて、最も重要な要素は、信頼性と妥当性の確認、つまりバリデーション(Validation)の部分であると考えています。ProfileXT®開発元のWiley社はR&D(研究開発)部門だけで200人体制の組織で、学術的理論に基づいた指標測定を開発しており、アセスメント開発に関しては世界一のバリデーションシステムを有しています。そして、そのコンテンツを世界中に広めているのはパートナー企業というわけです。
森田:なるほど。営業の機能はパートナー企業が担っていて、Wiley社は商品開発に特化しているということですね。ところで、アセスメントといっても世には有象無象ある中で、どこまでその適性検査が正確で、信頼に足るものなのか?という点については、一般ユーザーからは見えにくい部分もあります。見極めのポイントはどういった部分にありますか?
韮原:まず何よりもProfileXT®は学術的理論のバックグラウンドが確立された、実証性の高いアセスメントであるからこそ、ProfileXT®を活用している世界中のパートナーは、Ph.D.保持者や心理学、教育学のプロフェッショナルばかりであるということ。彼らを納得させるに足るアセスメントのクオリティを担保するため、計量心理学の知見から、信頼性と妥当性の検証作業は、徹底して行われています。
アセスメントの本質と目的は、個の資質を輝かせること
韮原:近年、人事管理における職務と人材評価の手法は、AIなどの台頭で急速な変化をしています。しかし、短時間で簡易的にアセスメントできるものの中には、「こうすれば売れる」といった企業側やベンダー側の論理だけで開発されたもののあり、「社会にとって本当に必要な、健全な構造になっているか?」という視点が抜け落ちている場合があります。
社会にとって健全な理論とは、従業員一人ひとりが持っている資質やポテンシャルを引き出し、会社はその輝きを発揮できるようにサポートできること。そのためのアセスメントには、計量心理学的に適切な設計が必要になります。例えば、職務遂行能力や採用・配置を予測できる根拠を示すためには、どのような設問を用意し、その結果によってどのようなアルゴリズムを設計するか?そして、その予測結果の妥当性を検証するためのバリデーションも非常に重要になります。
森田:なるほど。その信頼性や妥当性を示す根拠としては、どういったものがありますか?
3. 世界 125 カ国、 33 言語、4万社以上での導入実績
韮原:ProfileXT®は世界125カ国、33言語での活用実績があります。想定した尺度が正しく測れているかという妥当性と、何度回答しても安定的な結果を再現できるのかという信頼性を検証するため、計測をする国の人口統計からまずサンプリングデータを取る必要があります。ProfileXT®の開発には、初期サンプルデータだけで40万人以上、累計実施件数では150万人を超えています。ProfileXT®を日本に導入するにあたって、設問を日本語に翻訳するわけですが、ただ機械的に文言を翻訳しただけでは、当然ながら信頼性や妥当性を担保できません。
森田:確かに特定の職務について、欧米企業と日本企業では、求める役割や適性を測る尺度が違ってくるということもありますよね。
韮原:その通りです。日本語翻訳版の開発にあたっては、学術的検証を徹底的に行うため、教育心理学の権威である京都大学の坂野登先生と、人材マネジメントの専門家である早稲田大学の梅津祐良先生にご協力を頂いて、試用版を作成しました。さらに検証結果をアメリカに送り、データ解析し、バリデーションを検討するベータテストを何度も行いました。
森田:かなり緻密な検証作業を経てのリリースだったわけですね。
韮原:はい、そこに妥協はありませんでした。ProfileXT®では、言語毎に妥当性、信頼性の数値を測るテクニカルマニュアルが存在していて、誰でも見ることができます。しかもWiley社は学術的根拠をまとめた「エグゼクティブサマリー」を公開しており、定期的にモニタリングも実施しているのです。
森田:妥当性の数値を言語毎に出しているアセスメントは、確かに他に聞いたことがありません。検証精度に自信があるからこそ、公開できるのでしょうね。
韮原:そう思います。
4. 職務毎に求める人物像をパフォーマンスモデルに設計
森田:ところで、アメリカと日本の職務マッチングの違いという観点で、先程のお話の中でもありましたが、例えば欧米企業におけるマネジャーと、日本企業におけるマネジャーの役割、求められる行動特性には、若干の違いが生じる場合があります。その辺りは、ProfileXT®ではどのように対応されているのでしょうか?
韮原:おっしゃる通りで、他国と日本という比較と同じように、日本国内であっても、また同じ業界であっても、A社とB社では、同じ肩書き、ポジションに求める役割が違いますよね。国の違いだけではなく、会社が違えば風土も、価値観も、何もかも違うわけです。A社で活躍できた人材が、必ずしもB社の同じポジションで活躍できるとは限らない。つまり「我が社の、このポジションの、この職務に、最適な人材をマッチング」できなければ、意味がないわけです。ProfileXT®ではそのニーズに応えるべく、職務ごとに求める人材像をパフォーマンスモデルとして設計し、適合度を計測することができます。
森田:その意味で、ProfileXT®ほど、柔軟にカスタマイズできるアセスメントには出会ったことがありませんでした。人事と経営の専門家とディスカッションしながら、会社毎に検証して、さらにパフォーマンスモデルをブラッシュアップできる点が、魅力的ですね。
個人のパフォーマンスを高めるうえでは、①スキルの適合、②企業文化との適合、③職務フィットという3つの要素がある中で、特に専門的な職種であればあるほど、本当に向いているのか?この3つの要素を履歴書と面接だけで推し量ることが難しいと感じています。そこで、ProfileXT®が従来の面接だけでの判断機能をどう補完し得るのか、その辺りをご説明いただけますか?
5.【Who you are?】
普段は見えていない90%の潜在資質を数値化
韮原:私たちはよく人を「氷山」に喩えて説明します。氷山は上部の見えている10%と、海の下に隠れて見えていない90%で構成されています。人も同じで、見えている10%で測れる要素としては、その人物のスキルや経歴、実績、資格。さらには価値観が企業文化に合うかどうか、といった部分ですね。それらは履歴書と面接で確認できますが、肝心の個人の資質やポテンシャルは、見えていない90%の方に潜在化していると考えられます。そこで、ProfileXT®では個人の潜在的な「①思考スタイル・②行動特性・③仕事への興味」を数値化することで、ジョブマッチを測るわけです。
森田:その人物の強みを生かして、自然にパフォーマンスを高く出せる職務に配置することは、会社にとっても最良の選択ですよね。私自身も実際にアセスメントを受けて、設問のバリエーションの多さには驚きました。行動特性だけでなく、思考スタイルや、個人のモチベーションを客観的な指標で測れるという点が印象的でした。設問には、数学や言語のテスト的な要素も含まれていましたね。
韮原:そこは重要な点で、このProfileXT®はテストではなく、アセスメントなのです。テストは合格・不合格であるとか、知っているか・知らないかを測るものですが、ProfileXT®の目的は「Who you are?」を測ることです。そこに良い悪いはありません。一人ひとりが素晴らしい資質を持っていて、その資質を輝かせることをサポートするのがアセスメントの役割です。
6. イノベーションとは、内側から湧いてくる「情熱」によって生み出される
森田:よく分かります。もうひとつ、私がこのProfileXT®を知ったとき、個人的に面白いなと感じた点として、「仕事への興味」を測れることでした。人は「関心があること」に自然とモチベートされますよね。逆に「関心がないこと」に関してはやらされ感が出てくる。よくある話で、親が弁護士だから、医者だからと、子どもにも弁護士、医者になる道を勧めると。本当は仕事への関心はないのだけれど、親の期待に応えたいからと大学院まで頑張って勉強しても、最終的にはモチベーションが続かない。人はやはり、外部からのプレッシャーではなく、自己の内側から自然に湧いてくる興味関心に合った分野でこそ、能力を発揮できるし、幸せにもつながります。
韮原:その分野で活躍して承認されることがまた成長ややりがいにつながっていきますよね。
森田:そうですね。単に「思考スタイル」と「行動特性」から、あなたはこの職務が向いていますよ、と示すだけではなくて、「仕事への興味」というファクターが3つの柱の1つとして入っているProfileXT®は、非常に本質的だなと感じました。まさに人材マネジメントの潮流においても、今は本当にその人が情熱をかけて取り組めるもの、それこそ寝食を忘れても熱中できるものは何か?というポイントに注目します。イノベーションとは、そのような情熱から生まれるからです。これからの時代、個人の真の興味関心が何か?ということを見極められるツールは、益々重要になってくると思います。
韮原:イノベーションとは「情熱」から生み出される、まさしくその通りですね。ちなみにProfileXT®の「仕事への興味」の分析は、ジョン・L・ホランド博士のキャリアクラスター理論を基に構成されています。6つの領域のうち、どの分野に興味関心があるのか?その人材の本質的な関心と、特定の職務に求められる職業タイプをマッチングさせることが可能です。
☆ 続きはVol.2の記事へ↓↓↓
HRDグループ代表 韮原氏とbeyond global森田との対談:適材適所のタレントマネジメントで個の資質を最大限に活かす方法 Vol.2
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