高品質・低生産性-日本人管理職のマネジメントにみる日系企業の課題-

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高品質・高信頼だが、低生産性の日本。要因はマネジメント能力?!

シンガポールでタクシー運転手に「日本車に乗っているのね」と話しかけると、「reliable(信頼できるからね)」と返ってきました。海外に出ると、日本の商品やサービスが高く評価されていることに気付かされます。特に日本の製造業と建設業は、工程管理の確かさから、安全で納期の遅れが少ないと評判です。

日本企業の高品質な商品やサービスは、高度な技術とともに、誠実で顧客の身に立った丁寧な仕事に支えられています。とはいえ、日本企業の働き方は長時間労働をもたらしやすく、労働生産性の低さとなって表れるようです。2014年に経済協力開発機構(OECD)が算出した時間当たりの労働生産性を見ますと、日本は34カ国中21位の41.3ドル(US)で、OECD平均の48.8ドルを下回ります。日本生産性本部の分析では、日本の生産性はアメリカ合衆国の6割強の水準で、1990年代以降は19~21位で推移しています。

海外で働く日本人駐在員の場合、残業や休日出勤を行う理由(複数回答)は、第一位が「業務が繁忙な時期がある」(68.5%)、第二位が「他の人に任せられない仕事が多い」(54.7%)、第三位が「日本からの来客の案内、接待」(51.4%)です(労働政策研究・研修機構『第7回海外派遣勤務者の職業と生活に関する調査結果』2008年)。第三位の「日本からの来客の案内、接待」については、負担の程度と必要性について別途検証が求められますが、第二位の「他の人に任せられない仕事が多い」という回答からは、日本人駐在員の責任感の強さや頑張りとともに、日本人駐在員に判断を必要とする業務が集中する様子が見て取れます。外国籍スタッフとの間に適正な業務配分ができていないと推察されます。

 世界基準に見る日本人マネジャーの評価

日本企業の労働生産性の低さは、業務配分などのマネジメントの拙さにあるようです。早稲田大学の白木三秀教授の研究は、日系企業の日本人管理職のマネジメント能力に重大な課題があることを示しています(白木三秀「日本企業のグローバリゼーションと海外派遣者」『日本労働研究雑誌』№623、2012年)。それによりますと、中国の日系企業で働く日本人管理職に対する外国籍スタッフの評価は、役員以上のトップマネジャーは全般的に高いですが、部課長級のミドルマネジャーは、業務遂行、リーダーシップ、部下の育成・管理に関する項目で現地の外国籍マネジャーよりも低評価となっています。
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外国籍スタッフが一定程度育っているASEAN諸国では、事態はより深刻です。あくまで部下による評価という制約はありますが、日本人トップマネジャーとミドルマネジャーは全項目で現地の外国籍マネジャーより劣ると指摘されているのです。人脈の広さといった日本人マネジャーに不利な項目を除きますと、特に評価が厳しいのは「意思決定が速い」「問題点を素早く発見できる」「既存のやり方にとらわれず、臨機応変に対応する」「部下に自立的に学べる環境・時間を与えている」「部下育成のためのチャンスを与えている」の項目です。外国籍スタッフの目には、日本人マネジャーは業務で前例を踏襲する傾向が強く問題の発見・対応に遅れがちで、外国籍スタッフを意識的に育てていないと映っているようです。

外国籍スタッフの育成が進まない要因については、以前にこのコラムでお伝えしました(「日系企業が抱えるダイバーシティ推進における課題――外国籍スタッフ育成と女性活躍推進に共通する問題の構造」2016年8月31日)。ここでは、管理職のマネジメント能力の課題について考えてゆきましょう。

管理職が前例を重視し、問題の発見や意思決定に時間をかける傾向は、大きなミスの防止につながります。これはたいへん重要な長所ですが、生産的で効率的なマネジメントとは言い難く、ともすればイノベーションを生み出すことを難しくします。日系企業が縦割り構造やいわゆる官僚主義に陥り、大企業病と呼ばれる非効率な組織状態になっていると推測されます。

優秀な能力が発揮しきれない組織構造

人材育成のあり方も、大企業病を強めています。私は現在のメガバンクである都市銀行の大卒男性のキャリア形成を調査しましたが、異動や昇進に一定のパターンが見られ、人事考課では「減点主義」が強く意識されていました(駒川智子「性別職務分離とキャリア形成における男女差」『日本労働研究雑誌』№648、2014年)。この減点主義が、前例踏襲型のマネジメントを行う人材を生み出していると考えられます。

やや詳しく説明しましょう。人事考課は異動や昇進などの処遇を決める際の資料となるもので、全人格的な評価を目指しています。そのため企業によって成果主義的項目が強いなどの濃淡はありますが、評価項目は総じて幅広く、営業成績などの目に見える成果をはかる「業績考課」、今後の可能性を含めた潜在能力を評価する「能力考課」、企業の一員としてふさわしい意欲や態度をみる「情意考課」から構成されることが多いです。誰でも得手不得手はありますから、評価項目が多岐にわたりますと、一般的に大きな差はつきにくくなります。

そもそも男性正規雇用者は、キャリア形成において支社長(支店長)候補として部門をまたいで異動し、多方面にわたる知識と経験を積んでゆきます。そのため特定領域の専門能力を持つよりは、幅広い事象への対応力や部署間の調整力を持つ人材が育成されます。各人の能力もまた平準化されますから、幅広い評価項目と相まって、優秀な成果をあげた人を評価する抜擢人事ではなく、ミスをした人をふるい落とす減点主義になりやすいのです。

そして昇進競争が長期にわたることが、減点主義に対応した意識や態度を作り上げます。多くの日本企業はいわゆるエリートコースを設けておらず、成長の可能性への期待は平等にかけられています。すなわちキャリアの初期は同期入社者がほぼ一斉に昇進し、課長職あたりから選抜が始まります。最速で昇進する人を追い越す、逆転現象も見られます。トップマネジャーへの昇進可能性は、多数の人に長く開かれているのです。そのため長い昇進競争で、諦めずに頑張り続ける態度が生み出されます。そして、それは男性が内面化し共有する組織文化となります。日本企業の能力主義、メリトクラシーの特徴はここにあります。

このように全人格的評価による原点主義と長期間の昇進競争が組み合わさることで、失敗しないマネジメントを行う人材、要するに大局的な観点から思い切ったマネジメントを行うのが苦手な人材が育つことになるのです。

厳しいお話しをしました。とはいえ日本人管理職のマネジメントの弱点は、日本人の能力の問題ではなく、日本企業の組織体質と人材育成の課題に起因することをおわかりいただけたかと思います。

人材育成のあり方は、時代とともに変化する

歴史を振り返りますと、アベグレンの著書『日本の経営』(1958年)で、日本企業の特徴として終身雇用、年功序列、企業別労働組合が指摘されて以降、1970~80年代を中心に、海外の研究者による「日本的経営」の強さの秘密を探る研究が発表されてきました。ヴォーゲルの著書『ジャパン・アズ・ナンバーワン』(1979年)はベストセラーともなっています。日本が高度経済成長を成し遂げ、オイルショックから素早く立ち直った背景には、技術革新やカイゼン活動などの優れた取り組みに加え、長期雇用を前提に定期的な異動を通じてゼネラリストとしての能力を形成する人事の仕組みがありました。上記の人材育成方法は、企業が拡大し、多数の支社長(支店長)候補が求められた時期に整合的だったのです。

誠実で丁寧な仕事に取り組む人材の豊かさは、日本企業の大きな財産です。しかしながら経済のグローバル化は、専門知識をもとに迅速で的確な意思決定をできる人材を求めてもいます。グローバルな経済活動を展開する日本企業は、必要とされる人材像を明確にし、人事の仕組みを見直す時期にきているのだと言えるでしょう。

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駒川智子
1972年兵庫県生まれ。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程を経て、2007年北海道大学大学院教育学研究院助教、2014年より現職。シンガポール進出日系企業の人材育成に関する調査研究で、シンガポール国立大学客員准教授として2016年9月末まで現地滞在。労働社会学が専門領域、職場におけるジェンダー関係を研究対象とする。 / Changes in Japanese-style Management Considering Gender Perspectives: Focus on the Financial Industry, 北海道大学大学院教育学研究院紀要 (123) 175-187 2015年12月, 性別職務分離とキャリア形成における男女差――戦後から現代の銀行事務職を対象に, 日本労働研究雑誌 (648) 48-59 2014年07月 等

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