【元P&G米国本社プレジデント兼アジア最高責任者 桐山一憲氏から学ぶ】 グローバルで活躍する人材の育て方、グローバル組織運営のポイントvol.1

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対談の前に

新卒の社員を採用、育成し、育てられた社員が末永く会社を支えていくという流れは、最近はやや崩れつつあるものの、日本企業の最大の魅力であり、世界を見渡してもあまり見られない日本独特の方法、文化です。

しかし巨大グローバル企業のP&Gが、アメリカの会社としては珍しく、新卒を中心に採用し育成する文化を持ち、特にマネージャー以上は外部からの採用はせずに、内部昇進を基本としていることをご存知でしょうか。

育成を重視している日系企業と、似ている部分と、異なる部分があり、私自身(beyond global森田英一)日系企業がベンチマークすべき会社No.1と思っております。

今回対談させていただいたのは、そのP&Gジャパンに新卒で入社し、日本人初のP&Gジャパンの社長を経て、アジア出身者で初のP&G米国本社プレジデント兼アジア最高責任者にまでなられた桐山一憲(きりやまはつのり)氏です。

対談のテーマは”グローバルで活躍する人材の育て方”。

今回対談させていただいて、なるほど、さすが世界のP&Gだ、という手法としての学びが多くありましたが、そもそも「本当に人を育てるとはどういうことか」「育成のゴールとはなにか」ということを私自身も改めて考える、貴重な機会となりました。

元P&G米国本社プレジデント兼アジア最高責任者桐山一憲氏に学ぶ    グローバルで活躍する人材の育て方vol.1    ”人を育てるカルチャーとは”

マネージャー評価基準の50%が人材育成

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森田:日系企業では育成を重視していると言われていますが、人事評価に「育成」の割合を入れるとしても全体の中で3割位のウエイトではないかと思います。一方、以前、P&Gではマネージャーの評価基準の50%が人材育成だったと聞いたことがあります。これは、日系企業の人からしても驚きの割合だと思うのですが、本当にそのように運用されていたのでしょうか?

桐山:正確には、トップマネジメントはパフォーマンスと人材育成が50:50、課長・次長クラスは70:30くらいでしたね。

80年代までののP&Gは、アメリカの超ドメスティック企業と言っても過言ではありませんでした。現在多くの日本企業がグローバルに出ていくなかで、せっかく採用したローカルの人材が全然育たないという問題をP&Gも抱えていました。その解決策として、リーダー達に対して「自分が短期の成果を出せばそれで良い訳ではないのだよ、リーダーとして組織の繁栄にしっかりコミットしなさい」というメッセージを込め、そのような評価基準にしたのです。現在は、この取り組みの成果が出始めましたので、もう少しパフォーマンス評価のウエートを高めています。

人を育てるカルチャーと仕組み

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桐山:P&Gには、人を育てるカルチャーがあります。リーダーの仕事は次のリーダーを育てること。そういうカルチャーがあるところに、先ほどの評価基準のような仕組みをプラスしたことで、人材育成が加速されたのです。“カルチャー”と“仕組み”の両方があることがポイントです。

森田:ただ仕組みだけを入れれば上手くいく、というわけではないということですね。
桐山:P&Gでは、自分のチームから昇進する人が出ないのは、リーダーに
部下を育てる力や度量がないということであり、それはある意味リーダーシップの欠如であるいう文化が根付いています。自分の立場・ポジションを守るために、優秀な部下を自分の下に囲い込むようなことはありません。もしそんなことをしようものなら、「何をそんな器の小さいことをやってるんだ!」というカルチャーです。むしろ、自分を超えるようなポジションにつくような人間を輩出した、育てたことはその上司にとって誇らしいことなのです。

森田:桐山さんが言う”人を育てるカルチャー”というのは、日本企業で言われている育成のイメージとはずいぶん違うような気がします。育成こそ日本企業の真髄であり、非常に手厚い育成がされると一般的には言われていますが、上司が部下を育てるときに、どちらかというと上司にとって都合のいい人に育てるケースが多いかもしれません。自分を超える人間を育てようという気概はない、というか、考えが及んでいないケースが多いと思います。むしろ自分を超えて部下が昇進したりしたら複雑な気持ちになってしまう人も多いのではないかと思います。

桐山:自分の育てた部下が良い成果を出すと、みんなで喜ぶ。P&Gでは「彼は彼女は自分が面接をして採用したんだ。自分が育てたんだ!」という言葉がよく聞かれます。

森田:誇りに思って自慢しちゃうわけですね、自分がアイツを見込んで採用したんだぞ、育てんだぞと。そうなると確かに育てるほうも身が入りますね。ここにも一つ大きな学びがあるような気がします。入り口のところから、よし、育てるぞ!という育成のスイッチが入るわけですね。

ということは、部門別に採用をして、採用してくれた人が上司になることが多いのですか?

桐山:そうです、基本的には部門別の採用です。そして、幾つかの専門的な部署を除いて、殆どのが大卒もしくは院卒でP&Gに入ってきています。中途採用も多少はありますが、入社後のスタートは新卒と全く同じ扱いです。

森田:日本だと新卒採用というのは普通ですが、外資系、特にアメリカの企業では珍しいことですよね。

桐山:そうですね、ジョブホッピング、管理職の中途採用などが普通に行われている欧米の企業の中ではユニークな会社だと思います。

森田:人を育てるカルチャーも、新卒で採用しているからこそ受け継がれていく、ということもあるかもしれませんよね。

桐山:それは大きいと思います。私はカルチャー同様、仕事の基礎、基本というのは極めて重要だと感じています。仕事への取り組み方やスキルの構築、さらには企業の価値観などを学校を卒業したばかりのピュアな状態で吸収していくというプロセスはとても大切だと思います。

森田:それでは次回は、その採用後、どうやって育てるのか。世界最大の人材輩出企業とも言われている、P&Gの育成について具体的に詳しくお聞きしたいと思います。

人材輩出企業P&G流 人の育て方 vol.2
ストレッチ・アサイメント(少し背伸びした仕事を任せること)が人を育てる

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森田 英一
大学院卒業後、外資系経営コンサルティング会社アクセンチュアにて、人・組織のコンサルティングに従事。2000年にシェイク社設立、代表取締役社長に就任。「自律型人材育成企業」をキーワードに、企業研修、人・組織関係のコンサルティングなどに従事。自身も講師として、毎年のべ5000人程に研修を実施。10年の社長を経て、beyond global社を日本とシンガポール、タイに設立し、President&CEOに就任。beyond global Japan(旧ドアーズ)社の「海外修羅場プログラム」が、全国6万人の人事キーパーソンが選ぶ「HRアワード2013」(主催:日本の人事部 後援:厚生労働省)の教育・研修部門で最優秀賞受賞。「ガイアの夜明け」「ワールドビジネスサテライト」等テレビ出演多数。主な著作に「誰も教えてくれない一流になれるリーダー術」(明日香出版)「「どうせ変わらない」と多くの社員があきらめている会社を変える組織開発」(php新書)等がある。

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