【元P&G米国本社アジアプレジデント兼アジア最高責任者 桐山一憲氏から学ぶ】 グローバルで活躍する人材の育て方、グローバル組織運営のポイントvol.2

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人材輩出企業P&G流 人の育て方
ストレッチ・アサイメント(少し背伸びした仕事を任せること)が人を育てる

前回の記事では、P&Gの人を育てるカルチャーについて、そしてアメリカ企業では珍しい新卒採用を中心とした採用についてもお伺いしました。今回は採用後、社内でどのように人を育てているのかについてお聞きしたいと思います。

森田:今回は、具体的な人の育て方について伺いたいと思います。P&Gは、世界的な人材輩出企業としても有名で、P&G出身者が、他の会社で経営者に抜擢されたり、活躍しているリーダーが目立ちます。P&Gでは、人を育てるとき、どのようなことをその人に働きかけているのでしょうか。どうすることがより効果的に人を育てることにつながると思われますか。

桐山:ひとつは、その人がストレッチ(背伸び)しなければならないような、unknown-5その人の今の力量を少し超えているような仕事を出来るだけ与えることだと思います。皆さんの印象からは、もしかしたら、MBAなどのナレッジやスキルを中心とした研修システムが人を育ているというイメージがあるかもしれません。もちろんそれも大切ですが、人が育つためのプロセスとしては、ストレッチ・アサイメント(少し背伸びした仕事を任せること)のほうがはるかに効果的です。トレーニングは来たるべき時のための準備ですから、もちろん意味がありますが、人物の器を一回りも二回りも大きくするには、ストレッチ・アサイメントが欠かせません。

森田:桐山さんご自身が、ストレッチ・アサイメントによって成長した、という体験があれば、ぜひお聞かせいただけますか?

桐山:ひとつは、27歳のときに支店長に抜擢されたことです。上司から呼び出され”覚悟して頑張れよ”と言われ、課長としての責任範囲がこれまで以上に大きくなるのかと思っていたら、いきなり支店長に昇格してもらう・・だったので、これにはかなりプレッシャーを感じました。27歳の自分には想像もしていなかったことで、これは非常に貴重な体験となりました。

森田:まさに抜擢人事であり、相当なストレッチ・アサイメントですね。桐山さんの経歴を拝見しますと、1997年に初めて日本から海外のカナダへ赴任をされていらっしゃいますが、これはご自身で希望されたことだったのでしょうか。

桐山:いえいえ、これは、ちょっとした手違いというか(笑)。自分で希望していたわけではないのです。90年台の半ば当時、ちょうど人事システムが全社的に統一されつつある時期で、WDP(ワーク&ディベロップメントプラン:仕事と人材開発計画)というフォームが導入された頃でした。このフォームには、一年の成果など、上司と話し合って入力するフォームや、自分としては来年度はこんなことを達成したい、そのためにはどのようなプロセスを踏むかなど、詳しく書き込む必要がありました。その中に、3年から5年に何どのような職務をしたいか、もう少し長いスパンでのキャリアプランニングを書く項目があったのです。当時私は全国で一番大きな支店を管轄し、目の前にある大きなチャレンジに没頭していましたので、あまり先のことを考えられない状況でした。・・と言う事で私はその項目を空白で提出しました。本当に全然思いつかなかったのです。ところが提出した後で、HRの担当がやって来て私に言うんです。「新しい人事制度を導入して浸透させていこうというときに、会社の中でそれなりの立場の桐山さんが書かないというのはまずいので何か書いてくださいよ」と言うわけです。しかし思いつかないものは思いつかないので、「じゃあ例えばどんなことを書けばいいの?」と聞くと、そのHR担当が、「例えば、他のファンクション(部署)で仕事したい、とか、マーケティングを経験したい、とか、海外で仕事をしてみたいとか、どうですか?」と言うので、OK、じゃ、それを書こうと、と気軽に書いたことが、たまたま会社の経営層の目に止まり、現実化してしまった、という訳なのです。unknown-4

森田:最初のカナダ行きがそんな経緯だったのには驚きました(笑)でも、当時桐山さんは34歳で、それだけ責任ある立場にあった訳ですよね。普通はそういう人間に違う部署を経験させる、というのは、会社側からしてもかなり挑戦ですね。会社にも余裕がないとできないというか、長期的視点で人を育成するつもりがなければ、できない事ですね。日本では桐山さんの仕事の穴を誰かが埋めないといけませんし、行った先で成果をあげるにも時間が必要ですよね。

桐山:よくやらせてくれたと思いますよ。当時、会社が伸びている時期で、英語も話せる優秀な人間もたくさん入ってきた時期でしたから、「なぜ自分が?」と思いましたね。34歳の営業部署で責任ある立場になってから、まったく経験したことがないマーケティングの部署で下っ端からのスタート、しかも本当に海外へ行けと言われるとは思ってもみませんでした。でも、「アイツはまだ伸びるんじゃないか、本人もやりたいって言ってるぞ(笑)、それじゃやらせてやろう!」とチャンスをくれたんですよね。当時は驚きましたが、今思うとこれはとてもラッキーなことでした。

森田:実際に行ってみて、どうでしたか。カナダでの仕事は大変でしたか。

桐山:大変なんてものではありませんでした。今でこそ英語でのスピーチが当たり前、ミーティングも全て英語でこなしていますが、当時は英語での会話もおぼつかない状況で、恥ずかしい思いもたくさんしましたね。また、日本ではそれなりの立場でしたから、秘書もいて、事務作業も頼める人がいました。でも、カナダでのマーケティングアサイメントはあくまでも一兵卒からスタートですので全て自分でやらないとなりません。この日本人は一体何をしにやってきたんだと思われたくない気持ちと早く成果を出さなければいけないというプレッシャーの中で、もうすでに立派な中年おやじの仲間入りを果たしていましたが、初心に帰ってがむしゃらに仕事をしました。しかし、多くのチャレンジを乗り越えたときには、仕事や英語のスキルだけではなく、人間としての器が大きくなったように感じました。

森田:まさにこのストレッチ・アサイメントによって、桐山さんが大きく成長されたということですね。ストレッチ・アサインメントが人を育てるという事がよく分かりました。このような抜擢人事的なストレッチ・アサインメントがP&Gでは数多く行われているのでしょうか?IMG_7511 (2)

桐山:抜擢人事は、それほど多く行われている訳ではありませんが、ストレッチ・アサイメントは、全社員に対して行われています。P&Gの人事制度には部署によって、「UPorOUT」と「GROWorOUT」いう仕組みがあります。即ちSTAY(昇進や成長せずにそのままのポジションでいつづけること」は原則ありません。常に、人が成長するためのストレッチ・アサインメントは全社員(総合職)に対して行われているのです。

森田:全社員にストレッチ・アサインメントが行われているというのは、すごいことですね。ともすると、上司によっては、部下がそこそこ仕事を回してくれているのが楽で、そのままの仕事をずっとさせるという話もよく聴きます。そして、部下の成長を止めてしまう、と。

桐山:P&Gでは、アサイメントチェンジのサイクルが3~4年が一般的です。(1回目で申し上げたように)上司は、どんどん部下が成長していく事が評価にもつながりますので、同じ仕事をずっとさせるということはありません。

森田:全社員にストレッチ・アサインメントを徹底し、それを上司が育成するサポートがされることで、人が成長するという仕組みがP&Gにはあるということですね。次回は、桐山さんのストレッチ・アサインメントであった海外での経験が、後にアジア最高責任者として活躍される桐山氏に、どのような影響を与え、その経験がどのように生きているのかについて、お話をお聴きしたいと思います。

人材輩出企業P&G流 人の育て方 vol.1
人を育てるカルチャーとは

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森田 英一
大学院卒業後、外資系経営コンサルティング会社アクセンチュアにて、人・組織のコンサルティングに従事。2000年にシェイク社設立、代表取締役社長に就任。「自律型人材育成企業」をキーワードに、企業研修、人・組織関係のコンサルティングなどに従事。自身も講師として、毎年のべ5000人程に研修を実施。10年の社長を経て、beyond global社を日本とシンガポール、タイに設立し、President&CEOに就任。beyond global Japan(旧ドアーズ)社の「海外修羅場プログラム」が、全国6万人の人事キーパーソンが選ぶ「HRアワード2013」(主催:日本の人事部 後援:厚生労働省)の教育・研修部門で最優秀賞受賞。「ガイアの夜明け」「ワールドビジネスサテライト」等テレビ出演多数。主な著作に「誰も教えてくれない一流になれるリーダー術」(明日香出版)「「どうせ変わらない」と多くの社員があきらめている会社を変える組織開発」(php新書)等がある。

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