JTから学ぶ日系企業のグローバル化のあり方 Vol.2

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人と組織のシナジーを生み出すには

駐在員は、現地側の上司が選ぶ?

森田:私は東南アジアを中心に、日系企業の現地法人の組織・人事面のサポートを行っています。そこで大きな問題意識を持っているのが、駐在員制度です。日本人駐在員はたいていの場合、3年ほど現地に駐在して日本へ帰っていきますが、3年程度で、慣れてきた頃には帰ることになり、日本人駐在員の育成としては意味があると思うのですが、現地での大きな成果がなかなか出せません。ローカルスタッフにしてみたら、何をしに来たのか分かりません。昔からの制度が形だけ残っているような会社もあります。日本人を送るにしても転籍したり、期間を長くしたり、しっかり育成してから送るなど、やり方はもっとあるように思います。御社では駐在員制度はどのようなかたちになっていますか。


嶋吉:JTには二つの制度があります。一つはDA(デべロップメントアサインメント)といって、最低限の英語と実務経験をもつ訓練生を送る制度で、人件費は日本のJT側が持ちます。現地からすれば、頭の良いアルバイトがタダで来たようなもので、喜んで使ってくれます。もう一つはFA(ファンクショナルアサインメント)といって、プロフェッショナルな日本人を送ります。こちらの人件費はJTIの負担です。そのため、現地の上司が気に入らなければ受け入れを断ることができます。パフォーマンスの悪い人物を送ったら、「こんな人間はいらない」と返されることもあります。

森田:一般的な日系企業の現地法人の場合、幹部の多くは日本から来た駐在員です。しかしJTIの場合は違いますね。

嶋吉:JTIはR.J.レノルズのたばこ事業を我々が買収し、それを母体に発展してきた多国籍企業です。ですから役員や管理職のほとんどは外国人です。東南アジアの現地法人のように、日本人が上司という組織はほとんどありません。

森田:FA制度の場合、現地の外国人が部下となる日本人駐在員を選ぶことができるとのことですが、東南アジアの日系企業ではそのようなことはほとんど聴きません。また日本人駐在員の中には、明確なミッションも与えられず、単に海外経験を積ませる目的で送られているケースもあり、派遣された人の能力が低かったり、現場のビジネスニーズとマッチしていないこともあります。それがローカルスタッフの不満やモチベーション低下にもつながっています。ここをなんとか変えないと、日本人駐在員もローカルスタッフもともに不幸です。

嶋吉:現場で大して役に立たないのなら、「君は訓練生で、現地ではバイト並みなんだ」としっかり自覚させてから送ったほうが良い気もします。うちでは東京本社で優秀な人間に海外経験を積ませたいと思ったら、まずは給与は、日本側持ちのDAで送ります。すると「タダなのに使える奴だ」と海外の現場の人たちは喜んでくれます。そして次に「また欲しい」と言ってきたときには、給与向こう持ちのFAで送るわけです。

森田:FAはプロフェッショナルなので、こういう成果を出せという明確なミッションがあるんですね。やはり明確なミッションや責任なしに、漠然と海外に行っただけでは人は育ちません。今後、東南アジアの現地法人においても、ローカルスタッフが幹部となり、日本人駐在員を選べるようになるといいと思います。

M&A、事業統合を成功させるうえで大事なこと

森田:いずれにしろこれからは、上司や部下が外国人といったケースがどんどん増えていきます。今後は日本人にも多様な国籍の人と円滑にコミュニケーションをとりながら働けるスキルが求められます。また現地法人や買収した会社をマネジメントできる日本人も育てていかなくてはなりません。そういった意味でも、嶋吉さんがM&A後の事業統合を担当していた頃の話を、ぜひ聞かせていただきたいと思います。

嶋吉:2000年に日本に戻ってきてからは、買収したR.J.レノルズのたばこ事業とJTとの統合プロセスの仕事を5年ほどしました。JTにとって最初の大規模なM&Aであり、これによってJTIが発足しました。

森田:私は、M&Aの成功率は、何を持って成功と見るかは難しいのですが、シナジーが湧いたという意味での成功を考えると一般的に10〜20%位と低く、クロスボーダーのM&Aとなるとさらに難しいと感じています。経営統合のプロセスは利害のぶつかり合いであり、相当タフな交渉をされたのではないでしょうか。

嶋吉:確かにそのような側面もありましたが、これも結局は経済合理性の問題です。この時の事業統合では、買収した会社のほうが優れた事業基盤や優秀な人材を多く持っていたので、日本側のオペレーションをリストラするほうが多かったですね。

森田:買収した側の日本が、自らをリストラしたわけですね。

嶋吉:当時は我々の側に海外工場のオペレーションやゼネラルマネジャーをできる人間が少なかったため、買収先の人材を使わざるを得なかった面もあります。買収先の人からは、「JTは出自によらず、ニュートラルに合理的な判断をした。それで君たちは信頼できると思った」と言われたことがあります。

森田:それはすごいことですね。私は以前、銀行の合併に関わったことがあるのですが、その時は誰がどのポジションをとり、どっちの支店を残すかといったことで非常にもめました。

嶋吉:銀行の統合は難しいかもしれませんね。工場の場合は、生産性や単位あたりのコストが数字で明確に出せるので、どちらを残したほうがいいかの判断は合理的にできます。もちろん日本のJT側の人間には感傷もあったでしょうし、一部にはしばらく遺恨も残りました。ただ当時の私はまだ若手のいちスタッフでしかなかったので、「経済合理性」で考えるしか術はありませんでした。

森田:その「経済合理性」こそが、グローバルでビジネスをやる際の重要なキーワードだと思います。意外とここが分かっていない日本企業が少なくないかもしれません。

嶋吉:統合がうまくいった理由をもう一つあげるとすれば、あまり急がず時間をかけてやったことが良かったのかもしれません。

森田:M&Aによって現場が混乱したり、かえって活力が損なわれてしまうこともあります。御社の場合、相手の優れたところを認め、買収先に大幅に権限を委譲されました。日本の会社なんだから日本人を優遇すべきだ、といった発想にならなかったところはすばらしいと思います。

嶋吉:常にフェアであることは意識していました。

人事担当役員としての最大イシューとは?

森田:その後、嶋吉さんは現在の人事関連の業務に携わるようになります。これまでの仕事と比べて、人事の仕事をされてみていかがでしたか。

嶋吉:この仕事はきりがないですね(笑)。生産管理は納期をいつまで、100万本つくれ、となれば、出来たか出来なかったかの結果は明確です。人事制度は今いる社員のために一生懸命つくっても、世のなかも社員もどんどん変わっていきます。それにあわせて、常に若手の育成方法から人事制度まで、メンテナンスし続けなくてはなりません。

森田:人事担当役員としての最大の課題(イシュー)は何ですか。多くの企業で、グローバル人材の育成が重要などと言われていますが……。

嶋吉:私はグローバル人材の育成そのものにはさほど興味は無いんです。

森田:有能な外国人を連れて来ればいいという考えですか。

嶋吉:というより、グローバル化はそもそも目的ではありません。

森田:そうですね。あくまで手段です。

嶋吉:ですから、まずは本物の経営者の育成をする。そのためのパイプラインを20〜30年のスパンでつくりたいと思っています。その文脈の中で、トップは今の時代なら当たり前のこととしてグローバルもやる必要がある、ということです。ですから幹部候補生には基本的に全員グローバルビジネスの体験はさせようと思っています。

森田:確かに、これからの企業のトップが「グローバルは苦手です。できません。」では通用しないですからね。

※Vol.3では、「多国籍企業のガバナンスの課題」というテーマでお届けします。

JTから学ぶ日系企業のグローバル化のあり方 Vol.1 日系企業の強みをどう生かすのか

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森田 英一
大学院卒業後、外資系経営コンサルティング会社アクセンチュアにて、人・組織のコンサルティングに従事。2000年にシェイク社設立、代表取締役社長に就任。「自律型人材育成企業」をキーワードに、企業研修、人・組織関係のコンサルティングなどに従事。自身も講師として、毎年のべ5000人程に研修を実施。10年の社長を経て、beyond global社を日本とシンガポール、タイに設立し、President&CEOに就任。beyond global Japan(旧ドアーズ)社の「海外修羅場プログラム」が、全国6万人の人事キーパーソンが選ぶ「HRアワード2013」(主催:日本の人事部 後援:厚生労働省)の教育・研修部門で最優秀賞受賞。「ガイアの夜明け」「ワールドビジネスサテライト」等テレビ出演多数。主な著作に「誰も教えてくれない一流になれるリーダー術」(明日香出版)「「どうせ変わらない」と多くの社員があきらめている会社を変える組織開発」(php新書)等がある。

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