JTから学ぶ日系企業のグローバル化のあり方 Vol.3

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多国籍企業のガバナンスの課題

ダイバーシティは本当に成果が上がるのか

森田:今、ダイバーシティという言葉が日本でもてはやされています。やれ女性活躍だ、やれ外国人採用を増やせ、などと言われていますが、私にはどうも形だけのように思えます。女性活躍といっても日本ではいまだ男性のような女性しか活躍しにくいですし、企業が採用する外国人も日本語が話せて日本的感性を持たない人は入社できないか、入社しても排除されてしまう傾向があります。しかし、ダイバーシティの本質は、意見や価値観の違いにあります。ですからダイバーシティを何も考えずにやると、とても面倒くさいことになります。普通はパフォーマンスも落ちると思います。

嶋吉:確かにそうですね。

森田:とくに日本人は、昔から今まで、同一性のほうがパフォーマンスは上がるという成功体験を強く持っています。ダイバーシティによって成果が上がると言われても、どこか信用していないところがある。お題目としては掲げているものの、本当は同一性の方が良いと思っている人が多い気がするのです。嶋吉さんは、ダイバーシティによってパフォーマンスは上がると思いますか。

嶋吉:ダイバーシティによってインプットやコミュニケーションの量は確実に増えるわけですから、効率は下がると思います。ただ効果は上がるのではないでしょうか。アウトプットはそれまでより、もっと良いものが出る気がします。

森田:そのような実感はありますか。

嶋吉:残念ながら実感としてはまだありません。ただ今の若手を見ていると、もはや私たちの時代のように画一的に「こうしろ」と動かすことは出来ない気がします。そのようなやり方では、彼らのモチベーションはあげられません。ダイバーシティによってパフォーマンスは上がらないまでも、今までのような画一的なやり方ではもっとだめになっていく気がします。JTでもダイバーシティには取り組んでいますが、目に見える成果につながるのはまだまだこれからでしょう。

森田:ダイバーシティで力が発揮されるかどうかはまだ分からないけど、避けることはできないといったところでしょうね。

嶋吉:ただJTIではダイバーシティが当たり前です。というかそれしかありません。従業員は48ヵ国、役員は12ヵ国の人たちで構成されていますからね。

森田:JTIはダイバーシティが前提の真の多国籍企業ですね。ちなみにJTIを日本人だけでやるのは可能だと思いますか。

嶋吉:それはありえません。きっと日本人はみんな辞めてしまいます(笑)。

森田:今、東南アジアの現地法人では、優秀な現地社員ほど辞めていく傾向があります。上司の日本人のマネジメントが良くないことが原因の場合もあります。これからは日本人にも、多国籍の人たちをうまくマネジメントする能力が必要です。今後、グローバル化とともに社員の国籍のダイバーシティ化は不可避でしょうね。

現場にフィロソフィーは浸透しているか

嶋吉:そうですね。グローバルな環境で企業の競争力を上げようと、適材適所、能力本位で人を採用していけば、自然と社員は多国籍になっていきます。それだけに、組織としての求心力を維持するには、自分たちの企業理念や哲学が合わない人は辞めてもらって結構、という姿勢も必要だと思います。

森田:ただ日本企業はリストラや社員を解雇することに罪悪観を持っていて、なかなかそのような強気な態度をとれません。嶋吉さんは、成果を出してはいるけどフィロソフィーが合わない、という人にはどう対応しますか。

嶋吉:日本人の場合は、そもそも指名解雇ができないので、そのままい続けてもらうしかありません。日本人以外の場合は辞めてもらうケースもあります。ただほとんどの場合は、こちらから言わなくても、自分のほうから居づらくなって辞めていくケースのほうが多いですね。

森田:そうなるのは、ある意味で現場にフィロソフィーが浸透しているからで、健全な状態と言えますね。日系企業の現地法人では、フィロソフィーが合わないけれども、成果を上げている人がいたとしたら、その人がいなくなると短期的に利益が落ちることが怖くて、なかなか解雇できないという話を聴くことが多くあります。

嶋吉:うちでも長年、JTIの役員をやり、非常に実績があった方にもかかわらず、マネジメントスタイルが合わなくなって辞めてもらったことあります。でもJTIには社員が2万5千人もいるわけですから、一人スーパースターがいなくなったところで、何とかなるだろうとは思いました。

森田:人材層が厚いというのは大事ですね。ガバナンスのことで言えば、地域によって社員の質や仕事観、会社との関係が異なるため、グローバルでの統一はなかなか難しいようです。東南アジアは比較的日本人がガバナンスをしやすく、日本の会社が介入する傾向があります。いっぽう欧米は日本人によるガバナンスが効きにくいので、現地の社長にまかせて経営数字だけを見るケースが多いようです。どこまで介入するべきか、どこまで任せるかの判断は、なかなか難しいですね。その点、御社は明確なポリシーや基準のもと、買収先に大幅に権限を委譲しがらも適確なガバナンスを行っています。ガバナンスをグローバルで統一するか、リージョンごとに見ていくか、といった点に関してはどのようにお考えですか。

嶋吉:ビジネスの規模とリージョンごとの戦略によると思います。リージョンにサブヘッドクォーターを置き、意志決定をするにはそれだけの事業規模が必要です。リージョンのなかで資源配分をし、稼ぎ、再投資をするまで完結できるのならリージョン制が有効です。そうでなければグローバル一本のほうが効率は良いでしょう。

グローバル時代の人事制度と人材育成

森田:ちなみに御社の場合、人事制度はJTとJTIとでは異なりますが、JTIのなかでは統一されているのですか。

嶋吉:まず人事制度は各国の雇用慣習や法令に従うことが大前提です。そのうえでJTIの場合、人事制度におけるグローバルのポリシー、フィロソフィーは全世界共通です。社員の給料は「P75」という社内ルール(編集部注:競合他社と比較して、自社の給与水準を常に上位25%以内に維持すること)で定めています。そしてそのうえに、各国のローカル制度がのっかる形です。グローバルに国境を越えて勤務する駐在員の人たちはホームカントリーを決めて、その国の「P75」で給与が設定されます。あとは部長が次長より給与が低くならないように、といったポジション間の調整をします。

森田:評価のしかたは各国毎にまかせているのですか。

嶋吉:JTI内はフォーマットで統一されています。

森田:駐在員の制度は日本人も、非日本人も共通なのですね。

嶋吉:一緒です。

森田:それはすばらしいですね。まだ多くの日系企業では、日本人にだけに駐在員制度があったり、外国人の制度と統合されてないケースが多いようです。

嶋吉:JTIの場合、もともとアメリカ企業の本国以外でのビジネスを買収したので、アメリカ人駐在員のための制度が最初からあったのです。現在の制度はそれを土台にしてつくりました。

森田:企業を買収することで、そのようなマネジメントノウハウも手に入るわけですね。日系企業にはなかなかそのようなノウハウがありません。

嶋吉:そうかもしれませんね。

森田:最後に、M&Aがますます重要な経営戦略になるなか、買収先の統合やマネジメントができ、グローバルな舞台で活躍できるリーダーや経営者がますます求められています。そのようなグローバルリーダーはどうすれば育てられると思いますか。

嶋吉:難しい問いですね。これだという方程式はないと思います。ただ弊社では若手のグローバル人材育成のために、JTIと協力して「Exchange Academy」というプログラムを実施しています。2年に1回、日本人と外国人の若手をそれぞれ10人ずつくらい選抜し、東京で1週間、ジュネーブで1週間研修を行い、異文化コミュニケーションやチームビルディング、グローバルビジネスのケーススタディなどを学ばせます。また将来、経営幹部にする人間を育成するうえでは、複数のマーケットを経験させ、リージョンのヘッドをやらせることは有効だと思います。

森田:この度は示唆に富むお話を様々聞かせていただきありがとうございました。私どもも日系企業のグローバル化、人材育成の支援に、より一層、取り組んでまいります。

JTから学ぶ日系企業のグローバル化のあり方 Vol.1 日系企業の強みをどう生かすのか

JTから学ぶ日系企業のグローバル化のあり方 Vol.2 人と組織のシナジーを生み出すには

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森田 英一
大学院卒業後、外資系経営コンサルティング会社アクセンチュアにて、人・組織のコンサルティングに従事。2000年にシェイク社設立、代表取締役社長に就任。「自律型人材育成企業」をキーワードに、企業研修、人・組織関係のコンサルティングなどに従事。自身も講師として、毎年のべ5000人程に研修を実施。10年の社長を経て、beyond global社を日本とシンガポール、タイに設立し、President&CEOに就任。beyond global Japan(旧ドアーズ)社の「海外修羅場プログラム」が、全国6万人の人事キーパーソンが選ぶ「HRアワード2013」(主催:日本の人事部 後援:厚生労働省)の教育・研修部門で最優秀賞受賞。「ガイアの夜明け」「ワールドビジネスサテライト」等テレビ出演多数。主な著作に「誰も教えてくれない一流になれるリーダー術」(明日香出版)「「どうせ変わらない」と多くの社員があきらめている会社を変える組織開発」(php新書)等がある。

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