「HRテック」という言葉をよく耳にするようになりました。
HRテック、HRテクノロジー(HR×テクノロジー)という言葉は20年程前から、米国を中心に存在はしていましたが、徐々に日本にも浸透してきました。
言葉の定義については、例えば『日本の人事部』においては、次のように定義をしています。
「クラウドやビッグデータ解析、人工知能(AI)など最先端のIT関連技術を使って、採用・育成・評価・配置などの人事関連業務を行う手法のこと」
HRテックについて、聞いたことはある、なんとなくは知っているという方は多いと思われます。また、既に何らかのサービスを導入している企業も増えてきました。
HRテックの活用は、大企業に限った話ではなく、中小企業やベンチャー企業での活用も広がりを見せています。
この記事では、HRテックによって何が変わるのか(何ができるのか)、また導入・活用にあたってどのようなステップを踏むべきかお伝えしていきます。
目次:
1 HRテックが広がる背景
2 HRテック活用の目的:テクノロジー活用でできること
2-1 定型業務量の削減
2-2 コミュニケーションの質向上と組織活性化
2-3 意思決定の精度向上
活用例:採用
活用例:配置
活用例:育成
活用例:評価
3 HRテックを最大限活用するために:4つのステップ
ステップ1:目的・目標を設定する
ステップ2:データ収集:人事情報の統合と見える化
ステップ3:データ化による課題抽出と改善施策の実施
ステップ4:改善施策後の経過観測をし、継続的にPDCAを回す
ステップ5:新しいワークスタイルに合わせた人の意識改革実施
4 HRテックの活用が進まない理由と改善ポイント
4-1 HRテックの導入が目的化している
4-2 各種業務が勘と経験に基づいて属人化している
4-3 テクノロジーを理解・活用できる人材が不足している
5 まとめ
1 HRテックが広がる背景
はじめに、HRテックが日本で急速に広がっている背景には、次のようなことが影響していると考えられています。
- 労働人口の減少と人材獲得競争の激化
- 働き方改革の本格化
- テクノロジーの進化と台頭
日本国内の労働人口の変化は著しく、総務省「労働力調査年報」(2016年)によれば、2016年の労働力人口は6600万人だったのに対して、2065年には4000万人を下回ると予想がされています。
貴重な労働人口を確保するために、限られた人数での労働生産性を上げ、ロボットに任せられる業務は任せてしまうという流れになるのは、自然の流れです。
同時に、近年は日本国内では働き方の見直しが至る所で行われており、その実現に向けてテクノロジーの活用は大きな力となるため、注目を集めています。
テクノロジーの進化は、その活用領域を拡大させ、人事関連の分野では単なる社員情報管理や給与計算などの「守り」の道具ではなく、獲得したデータをいかに戦略的に使うかという、「攻め」のパートナーとして台頭してきているのです。
2 HRテック活用の目的:テクノロジー活用でできること
次に現代のテクノロジーを活用することで、人事領域でどのように活用することが出来るか見ていきましょう。
人事領域でテクノロジーができることを整理すると、主に3つに活用目的に分類できます。
2-1 定型業務量の削減
まず考えられるのは、「定型業務量の削減」です。
これまで人員を割いてきた定型業務を、テクノロジーを使うことで圧倒的に減らすことが可能となりました。
クラウドサービスによって、これまで人事担当者が入力してきたものを社員一人ひとりが入力したり、ロボット(RPA:Robotic Process Automation)に指示することで、人の手業務(の一部)を自動化することができます。
RPAを人事業務において有効に活用するためのステップに関して、より詳しく知りたい場合は、こちらの記事を参考にしてください。
参考:「同僚はロボット」RPAによる人事業務自動化と費用対効果
https://globalleaderlab.com/rpa
特に、RPAは「休まない、辞めない、ミスをしない」社員などと言われ、活用する企業が増えてきました。
業務量が削減されれば、より一層クリエイティブ業務に従事することができます。
言い換えれば「人間だからこそできる業務」に時間を割くことが可能となります。
人間が行う定型業務は、すべて無駄と言っているわけではありませんが、もっと有効に時間を費やすことは可能となります。
時間的余裕が生まれれば、付加価値向上のための時間、例えば人事担当者であれば、社員と向かう時間を割くことができ、組織活性化にもつながっていきます。
2-2 コミュニケーションの質向上と組織活性化
流動性の高い超売り手市場においては、社員の定着化が大きな課題です。
そのためにも、社員が長く働きたいと思えるような組織づくりは、死活問題となります。
最近では、日本でも社員が会社の方針や理念に共感し、それが本人の自己実現と合致している状態、いわゆる「従業員エンゲージメント」を高めることが、組織づくりの指標として取り上げられるようになってきました。
「従業員エンゲージメント」の重要性やエンゲージメントを高めるための具体的方法、また、エンゲージメントが高めることでどんなメリットがあるのかについては、下記の記事で詳しく書いていますので、是非ご一読ください。
「従業員エンゲージメント向上:日本企業だけが知らない業績アップの秘策」
「従業員エンゲージメント」に関しては、社員に対するサーベイ実施により、データ収集をしている企業もありますが、HRテックの活用では、これまで以上にタイムリーにデータの収集、活用が可能となります。
タイムリーかつ、多くのデータを集計することによって、従業員の気持ちの変化を察知することができ、離職防止の対策を適切に行うことに結びつきます。
また、特に人数規模の大きな企業の場合、クラウドサービスの活用により、社員同士の顔が見えたり、簡易にコミュニケーションが取れるツールがあれば、連携が取りやすくコミュニケーションの機会が増えます。
特に、グローバル化が進む昨今、海外拠点とのコミュニケーションもより一層求められることと思います。
メールだけ、電話だけ、あるいは名前だけは知っているけれど、その人の性格や顔すらも分からない相手と、その情報が即座に事前に分かっているのとでは、コミュニケーションの質が異なります。
社内だからこそ、相手はどのような顔で、どのような性格で、どんなことに興味・関心事を知っているだけで、心理的にコミュニケーションが捗ります。
最近では社内ネットワークを活用するリファーラル採用(社員紹介による採用)に取り組む企業も徐々に増えてきましたが、このことは社内のコミュニケーションが活発化していて、建前ではなく本音で一丸となって会社を盛り上げていこうとする場があってこそ、効果があるものです。
2-3 意思決定の精度向上
企業では誰を採用するか、誰をどの部署に配置をするか、誰を次のリーダーとして育成するか、といった意思決定が日々行われています。
HRテックの活用は、人事領域における様々な意思決定の精度を高めることができます。
これまで、特に採用、育成、配置、評価に関する意思決定は、担当者の経験則にもとづいたものが多かったように思いますが、現代の「VUCA*」と言われる時代では、これまでの経験則や勘だけでは、意思決定の精度は十分ではありません。
VUCA*:Volatility(変動)、Uncertainty(不確実)、Complexity(複雑)、Ambiguity(曖昧)の頭文字をつなぎ合わせた造語
今日では、いかに精度の高い意思決定ができるかが、競争力に影響を及ぼします。
精度の高い意思決定を行うためには、クラウドサービスなどで集められたデータの活用が欠かせません。
それらのデータを活用することでより客観的かつ戦略的な意思決定が可能となります。
テクノロジーの進化により、必要なデータの収集、取り出し、活用の一連の流れが、これまで以上に容易となり、それらのデータを活用することで、人事がより経営的パートナーとして求められるようになってきていることも事実です。
以下は、採用、育成、配置、評価において、どのようなデータが、いかに意思決定要因として活用されるか、今後期待されていることと合わせて触れていきます。
益々採用が困難となる中、せっかく多大なコストと時間をかけて採用した人が、ミスマッチなど短期間で辞めてしまえば、大きな損失となります。
正直なところ、1時間やそこらの時間では、その人物が本当に求めている人材なのか、本質を見極めることは難しいものです。
テクノロジーを通じて集められたデータをうまく活用できれば、例えば、社内で活躍しながら長期間働いている人のデータと、応募者のデータを比較することで、強力な判断材料の一つとなります。
また、近年では応募者の適正検査の結果や履歴書内容だけではなく、これまで構造化されてこなかった、書き言葉、話し言葉、表情、音声、動作をデータ化して分析することも可能となっており、これらのビッグデータを活用することが、採用の意思決定の精度を向上させます。
多くの企業では、「空いたポジションのへ至急人が必要なため」、あるいは、「幅広くいろいろな業務を経験させるため」という理由で、人の配置が行われるケースが多いように感じられます。
いずれも、このこと自体は必要なことであり、配置の際に対象者の人物像や適性が考慮されることも行われるはずです。
しかし、配置後にパフォーマンスが落ちてしまったり(あるいは上がったり)、異動した後長く続かずに辞めてしまったりなど、それらの事象に関してPDCAを回すことが重要となります。
「やっぱりあいつはダメだったか」で終わるのと、関連するデータから「異動先の上司との関係性で、今回の対象者は、以前同じ上司のもとから辞めた人間と、適性検査の特徴が似ている」などと、関連付けていくことで、次の配置戦略に活かせるヒントが得られるのとでは、大きな差が生まれてきます。
活用例:育成
日系企業で行われる研修は、大きく「階層別研修」「職種別研修」「テーマ別研修」などに分けられ、社員は必須、任意で受講するもとが多いかと思われます。
しかし、昨今は先に述べた「VUCA」と言われる変化が早い時代においては、必要な人に必要なスキル・能力を与えていくことが重要です。
同時に、価値観の多様化が起こっている組織内では、これまでのように全員がよーいドンで同じ研修を受けることは時代遅れになりつつあります。
これに対し、HRテックの活用によってできることとしては、例えば現存する社員データがあることを前提に、パフォーマンスが高い人の適性検査結果、スキルや資格情報などをインプットしておき、その人と同じようなパフォーマンスを上げるために必要なスキルや能力を向上させる研修を、必要なタイミングで人工知能(AI)が適切にレコメンドしてくれることができます。
あるいは、ある社員が財務部の部長になるためのキャリアパスを知りたい場合、現在の財務部長の管理データと、更にこれまで歴代の財務部長のデータがあれば、それらを組み合わせることで、社員が求めるキャリアパスに対して、最適な育成計画を作成してくれます。
活用例:評価
企業などの組織で非常に重要かつ、最も難しい人事領域のイベントで、評価があります。
「適正に評価がされていない」というクレームは、多くの人事担当者や経営者に共通する悩みではないでしょうか。
更に、働き方改革や外国人採用の流れがあり、管理職に求められるマネジメント方法も同時に変化してきているように、多くの企業で人事評価システムの見直しが加速しています。
この時代背景の以前に、評価管理シートが社内でバラバラに管理されていたり、そもそも存在していない、あるいは、評価シートはあっても考課者の理解不足により、面談時間5分程度で終わってしまうといったケースも実際にあるため、まずは安価なHRテックサービスによるデータの一元管理をすることや、評価制度の重要性を理解してもらうための育成をしっかり行う必要があります。
これらを前提に、より納得感のある評価や、企業と社員の成長の手段としてパフォーマンスマネジメントが必要となります。
最近では、ランク付けによる相対的評価ではなく、「ノーレイティング*」という方法で社員の納得性に重きを置いた動きも見受けられますが、評価のための「ものさし」が必要であることには変わりはありません。
ノーレイティング*:年度単位の業績に応じて社員をA、B、Cなどとランク付けする年次評価(レイティング)を廃止すること。また、そのような人事評価の新しい動きを意味する言葉
「ものさし」として使用されるものの例としては、設定目標の進捗管理に加え、360度評価を実施しているケースもあります。
確かに、研究職や事務職など、職種や業種によってはKPI(重要業績評価指標)を測ることが難しい場合があることも事実かと思いますが、それでも納得感を持って人事評価を下せるようにすることの方が、優秀人材の確保や最終的な企業の成長という意味合いでは、より重要です。
そのため、評価制度設計や見直しの際に、定量化するためにどのようなデータを確保するべきか、しっかりと時間をかけて議論をして進めていくことが欠かせません。
少し話しは脱線しますが、Google社の人事部は、33%が数理専門家であると言われ、人事評価も定量評価に徹底的にこだわっているそうです。
どのような「ものさし」を作るかは、組織によって異なりますが、適切なフィードバックにより「納得性」をもたらすための定量化の重要性という観点では、テクノロジーを通じてデータ管理・活用をしていくことは有効と言えます。
3 HRテックを最大限活用するために:5つのステップ
ここからは、HRテックの活用ステップをお伝えしていきます。
本章では主に、人事業務に携わっているあなたが、経営戦略パートナーとなるためにHRテックを活用できるかという観点でお話を進めていきます。
ステップ1:目的・目標を設定する
HRテックを活用するための最初のステップは、「やりたいこと」、つまり目的と目標をできるだけ明確に設定することです。
そんなこと、当たり前と思われるかもしれませんが、この「やりたいこと」が分からないというケースが少なくありません。
なぜHRテックの導入を検討しているのか質問すると、「時代の流れだから何となく」という人事担当者も実際にいます。
HRテック導入の目的は、企業によって様々かと思われますが、最終的な目的は、やはり業績向上や持続的な成長です。また、従業員個々人にフォーカスを当てるとすれば、幸せにいきいきと働くことではないでしょうか。
ただし、企業によって、どのような環境下で、従業員がハイパフォーマンスを発揮してくれるのかは千差万別です。
HRテックの活用には、あなたが「何を」実現したいか設定することから始まります。
- 組織の活性化
- 優秀人材の採用
- 若手の離職防止
- 従業員の健康管理 他
例えば、従業員がもっとクリエイティブに働く環境を整え、個性を発揮しながらイキイキ働けるようになり、生産性向上や業績向上につなげたいのであれば、HRテックを活用した業務量削減という手段は有効かもしれません。
しかし、採用や育成などに関しては、どのような人材を採るべきか、誰をリーダーとして育成するべきかなど、まだまだ「あなたの会社にとって必要な人材像」が漠然としていることが多々あります。
VUCAの時代に、あなたの会社が目指すところに必要なのは、どのような人材でしょうか。
人事担当者は、どのような人材を採用し、誰をどのように育成し、どこに配置をするのかなど、経営パートナーとして、目的設定と戦略をしっかり立てていきましょう。
ステップ2:データ収集:人事情報の統合と見える化
人事部には、豊富な社員データが蓄積されてきているはずです。
もしなければ、今からでもすぐに必要データを集める、また一元管理を進めていきましょう。
HRテックの活用には、今後さらに「データ」の必要性が増していきます。
データ管理ツールが統一されておらず、データを活用できないケースが多くあり、後になって分析して活用しようとしても、肝心のデータがなくては元も子もありません。
ただし、何でもかんでもデータがあればいいという訳でもありませんが、データを収集する癖をつけて集めていくことで、徐々にデータ自体の質を上げていくことが重要です。
主なデータ収集の方法としては、サーベイの実施があります。
例えば、これまで社員が辞めていく理由を、これまでは単に「会社の給与が低いため」「キャリアのため」と認識してきたかもしれません。
しかし、実際にサーベイを実施することで、「上司との関係性」や「企業理念へ共感できない」などの理由だったことが分かったりします。
ここでのポイントは、「サーベイをやります」といきなりトップダウンで発信すると、社内の反発を買うことになる可能性もあるので、どのような目的なのかしっかり説明することが大切です。
ステップ3:データ化による課題抽出と改善施策の実施
データ収集による組織の可視化によって、これまで把握していなかった事実が露呈され、次のアクションにつなげることができます。
データ化の話をするとビッグデータのイメージを持ってしまうかもしれませんが、スモールデータであっても有効です。
ここでお伝えしたいのは、あなたに分析屋になることを勧めているわけではなく、これまでの感覚や経験則を頼りにしてきたやり方だけではなく、データを通した客観的視点を持つことの有効性についてです。
データが蓄積されてきて、相関性を知るために回帰分析や統計モデルを利用することもありますが、社内だけでは出来ない複雑な作業は外注し、あなたは改善施策の実施に注力してきましょう。
収集したデータを分析し、相関関係をグラフなどで見える化することで、新たな課題の発見や、あなたの会社で必要となる最適な施策を講じることができます。
ステップ4:改善施策後の経過観測をし、継続的にPDCAを回す
収集したデータから必要な施策を実施した後は、経過観測をしながら、継続的にブラッシュアップをしていくことが大切です。
採用や育成などの人事業務は、データに基づいた客観的なPDCAがおろそかになりがちです。
何となく毎年同じような人を採用したり、何となく対象者を選んで研修を受けさせたりしている企業を多く見てきました。
単発的で終わらせるのではなく、データやアンケート結果などから得られた結果を見て、次の改善目標を立て、そのためには何をしなければいけないか方針を立てていきましょう。
当たり前のことかもしれませんが、「できたこと」「できなかったこと」を定性的なことに加えて、定量的にもPDCAをまわすことが人事担当者に求められています。
ステップ5:新しいワークスタイルに合わせた人の意識改革実施
最後のステップは、人の意識改革の実施です。
HRテックとは関係ないように思われるかもしれません。
しかし、詰まるところ、最後はあなたの企業で働く人の意識と行動が変わらなければ、HRテックを導入したところで意味がありません。
HRテックを活用し、より客観的事実が意思決定に組み込まれたり、組織内で社員同士のコミュニケーションが活性化できると言っても、それらを利用するのは従業員一人ひとりです。
ステップ1でも申し上げたように、やはりなぜHRテックを導入したいのか、導入することで何が変わり、どのような協力が必要になるのかを、はっきり明示し、必要に応じて従業員の意識改革を行っていく必要があります。
このことは、HRテックの活用は、人事担当者や経営者だけの問題ではないことを意味します。
特に、組織において影響力の大きいマネージャーの方々は、これまで経験と勘で判断してきたものを、いきなり客観的指標に基づいて対応することに抵抗感を感じます。
一方で、ミレニアル世代やZ世代と言われる若者の気持ちを聞き出すことは、これまでのやり方だけでは難しいことも事実です。
これからの時代に、よりよい組織を作っていくためにも、組織全体で新しい仕組みに切り替えていく必要性を認識し、意識を変えていく必要があります。
4 HRテックの活用が進まない理由と改善ポイント
これまでHRテックの活用ステップに触れてきましたが、データを活用して人事が日系企業においては十分に導入・活用が進まない理由があると言われています。
HRテックをフル活用し、より良い組織を作っていくためにも、次のような原因も考えていく必要があります。
あなたの組織にもないか、是非チェックしてみてください。
4-1 HRテックの導入が目的化している
たまにHRテックの話が出ると、「今後は人工知能(AI)の判断に任せればいいのでしょう」と言う嘘のような本当の話があります。
要するに、テクノロジーを導入することで全てが解決するかのように、それが目的化しているケースがあります。
人口知能(AI)に関しても、本当に活用するためには、導入するための目的が欠かせません。
HRテックのブームが起こっており、サービスも玉石混淆していますが、ステップ1の目的意識をはっきり持ち、企業の目指す方向性にあった人事戦略、「やりたいこと」「やるべきこと」が明確にできれば道筋は立てられます。
4-2 各種業務が勘と経験に基づいて属人化している
採用に関しても、評価に関しても、まだまだ勘と経験で意思決定が行われている現場が大半だと思われます。
勘と経験が不要と言っているのではなく、むしろデータよりも重要なことの方が多いかもしれません。
問題は、情報や意思決定が属人化していることで、変化することができない硬直化した組織になってしまうことです。
テクノロジーを活用して、より客観的に物事を捉えていくことによって、見えなかったものが見えるようになることもあります。
しかし、変わらずに「これまでもこのやり方で成功してきているのだから大丈夫だ」と、決裁者がずっと言い張っていれば、組織の硬直化が起こり、その事実を好まない(逆に言えば、変化に敏感な)若手社員は去っていってしまいます。
「これまで」は、「今」とは大きく変化してきているのであり、時間は非連続性をもって進んでいることを捉える必要性が、今まで以上に必要となってきています。
HRテックを活用することは、そのような変化を捉えるために必要な第一歩ともなり得ます。
4-3 テクノロジーを理解・活用できる人材が不足している
テクノロジーの活用と言っても、先に触れたように、統計やプログラミングができないといけないわけではありません。
HRテックを理解・活用できる人材に関して重要なことは、テクノロジーで何ができるかを理解していて、それを手段として使い、目的・目標を達成するための道筋を立てられる人材です。
データ活用による意思決定は、「正解」にはなり得ません。ただし、使い方次第でデータは意思決定の際に、強力な「武器」となります。
ただし、最後に決定するのは「人」であることに何ら変わりはありません。
テクノロジーを活用する際には、人間と同等ではダメで、テクノロジーを従わせるくらいの気持ちで扱っていかなければいけません。
5 まとめ
先にお伝えしたように、HRテックは協力な武器となりますが、テクノロジーに扱われないようにするためにも、同時に人材育成は重要度が増していくでしょう。
これからは、テクノロジーを使いこなして「人間ではなくてもできる業務」は素早く手放し、クリエイティブな業務にシフトしていくことが求められます。
人材育成の重要性を理由するため、アマゾン創業者兼CEOのジェフ・ベゾスの言葉をご紹介します。
「古い世界では持てる時間の30%を優れたプロダクトの開発に、70%をそれがどれほど素晴らしいプロダクトか吹聴してまわるのに充てていた。それが新たな世界では逆転した」
要するに、「人間ではなくてもできる業務」の代替スピードは年々加速しており、代替できる作業の多い企業では、既に人員削減をはじめている企業もあり、定型業務以外で創造性を発揮できる人材が求められる時代となっています。
繰り返しになりますが、HRテックとは、あくまで人間が付加価値創造や生産性向上を実現するための手段であることを忘れないでください。
これから組織の競争力は、いかにHRにテクノロジーを融合されられるかによって、大きく差が出ていくでしょう。
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