インターネットのQ&Aサイトで、海外駐在が決まったと思われる日本人の若手社員の方が次のような旨の質問をされていました。
「英語ができないのに、海外駐在が決まり現地社員のマネジメントも行わならなければなくなりました。
どのように現地の社員をうまくマネジメントできるようになるか、同じような状況で駐在員になられた方がいたらアドバイスをください」
恐らくは、海外現地法人に赴任することが決まり、日本にいた時は行っていなかったマネジメント業務も任されることになり、そして、それを英語を使って行わなければならないということで不安の気持ちが大きくなり、Q&Aサイトに質問を投稿されたのだと思います。
そのお気持ち、よくわかります。
ただ、この質問を見て、ひとつ気になった点がありました。
それは、「海外法人の現地社員は、うまくマネジメントされることを期待しているのか?」という点です。
インドネシア人エンジニアへのインタビュー
以前に、日本企業で働くインドネシア人エンジニアの方に、日本の仕事のやり方についてどう思うかインタビューを行う機会がありました。 彼の回答は、日本とインドネシアの仕事に対する文化の違いを端的に表していました。
「日本人は働くために生活し、インドネシア人は生活するために働きます」
なぜそう思うのかを尋ねたところ、彼は次のように回答しました。
「日本人は仕事でベストを尽くすために、健康な食事をとり早く寝ます。
インドネシア人はより良い食事を食べられるように、そして、より良い部屋で寝られるようになるために一生懸命働きます。
正直なところ、以前は、日本企業の勤務時間がインドネシアの勤務時間よりも、はるかに長いことについて不満がありました。
しかし、日本人の同僚たちと勤務時間の長さ、そしてその背景にある仕事観について議論し、日本人の仕事観を知ってからは彼らを見習って自分のコンディションを整え、タイムマネジメントをきちんと行うようにしました。すると、仕事の効率性はあがり、勤務時間も減り、そしてそれ以上に自分自身の成長を感じることが出来たのです。日本企業で働くことで得られるものは、ただお金を稼ぐというだけではないことなのです。」
インドネシア人エンジニアの彼は、「日本人にうまくマネジメントされながら仕事をできるようになった」というよりは「日本企業で活躍するコツを理解した」といった感覚に近い経験をされているようでした。
アジア、欧米、日本でマネジメントやリーダーシップ等の調査研究と研修を行い、異文化マネジメントも専門領域とする河谷隆司氏は、前述のような日本人が大切にする仕事観を象徴するキーワードを「自己規律」「時間を守る」「当事者意識」「品質志向」「誠実」の5つから説明します。(e-learning教材 河谷隆司「Winning Together 日本企業で成功するポイント」より)
ひとつずつ、見ていきたいと思います。
1.自己規律
:多くの日本人は、何かの仕事を任された時に「とりあえずトライしてみます」というスタンスを嫌います。
期待された成果をあげられるよう、責任をもって最後までやり通すことが大切だと思っているからです。
「成り行き任せ」で成果への責任感を持たずに仕事をする人のことは信用しません。
2.時間を守る
:多くの日本人は自分の怠慢で他人に迷惑をかけることを嫌います。
約束した期日や時間は守るべきものとこころえ、それに間に合うよう努力します。
期日や時間が守れず、ゴムのようにどんどん伸びていては、どんな仕事も予定通りには進まないからです。
3.当事者意識
:仕事を与えられたら、それを「自分の仕事」ととらえて取り組むことが大切、と多くの日本人は考えています。
言われたから仕事をするといった考えでは、その仕事の目的や今後の展開まで深く考えが及ばず、表面的な作業をこなすだけで終わってしまうでしょう。
4.品質志向
:ミスや欠陥がないように、仕事はできる限り高い品質・精度で仕上げることが重要だと多くの日本人は考えています。
小さな車の部品ひとつであっても、その品質が悪ければ人命に関わる事故を引き起こしかねないからです。
被害が出ても自分には関係がないといった考えは、日本企業では通用しません。
5.誠実
:口先で言うだけではなく、自分がやるべきことをきちんと実行すること。それが「誠実」ということです。
日本人にとって、当たり前のように感じるこのような仕事観は、ある外国の社員にとっては当たり前ではないのです。
海外法人の現地社員を”うまく”マネジメントするという視点ではなく、日本企業で活躍するコツを理解してもらおうという視点で現地の社員とコミュニケーションをとると、インドネシア人エンジニアの彼のように、日本企業が期待する自己管理やタイムマネジメントを自ら行い、自分自身を成長させていけるような行動をとれるようになる近道になりうるのではないかと思います。
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