” 私は、会社の方向性を示さない日本人リーダーの下で森に迷い込んだような感覚に陥っています。もう、会社を辞めたいです ”
” 私は、自分が成長しているという実感を味わえず、時間を無駄にしているように感じるこの会社(日系企業)を辞めようと思っています “
” 僕は、頑張っている人も、そうでない人も一律の割合で昇給する仕組みや、長期勤務者から昇格していくこの会社(日系企業)の仕組みに納得がいきません。会社を辞めることを考えています “
クライアントから依頼を受けて私が行う、現地(シンガポール人)スタッフとの個別面談で聞かれる声です。
外国人スタッフを抱える企業の皆さま、今後、採用を予定している企業の皆さま、皆さんの会社は大丈夫ですか?
日系企業に対する現地スタッフの3つの危険なメンタリティ
ダイバーシティマネジメントがうまくいっているような一部の会社を除けば、日系企業に勤務している現地スタッフの企業に対するメンタリティは以下の3つに大別されると思っています。
1. 日系企業に興味があって入社した。人事評価制度も目標管理も整っていないことに当初は戸惑ったが、長年、勤続した今となっては、この「ふんわかさ」が大好き。できれば定年まで、それなりに頑張っていこうと思っている。
2. 日系企業に興味があって入社した。勤続して、数年たつが「ふんわか」している企業文化に対して「自分はこのまま、この会社にいていいのか」とても不安になっている。自分のEmployability(労働市場での市場価値)が高まっている感じもしない。
3. 日系企業に特に興味はなかったが入社した。他にいい会社が見つかるまで、つなぎで会社にいようと考えている。
当然ですが、1.の中でそれなりに自身を高めている方々を除き、こういうメンタリティのスタッフたちは企業発展への大きな原動力になり貢献してくれることは期待できない可能性があることは容易に想像できると思います。
東南アジアの日系企業には「ふんわか」した企業文化をもつ企業が少なくありません。もちろん「ふんわか」は悪いばかりではありません。とても家族的で、スタッフ同士の関係性が良く、一致団結して「ふんわか」と仕事をしています。
とはいえ、「ふんわか」と(仕事の全体像や仕事の背景や目的を伝えられることもなく)仕事を任され、目的は良くわからないけど、効率良くこなせば褒められ、長く勤務しているだけで「ふんわか」と昇給・昇格があるといった文化がつくられてきたせいで、特に最近問題が表出しはじめていると感じます。
例えば、昨今、クライアントから「ローカル人材の給与があまりにも高くなりすぎて、何年後かには、それが原因で弊社は債務超過に陥る可能性さえあります。どうしたらいいでしょうか」という相談を受けることが増えてまいりました。笑っていられない冗談です。
「ふんわかさ」好きのスタッフへの給与
先日、ある日系企業から依頼を受けて、現地スタッフの方々と面談する機会をいただきました。ある50歳半ばの女性も例にもれず「私はこの会社が大好き。だって、スタッフほぼ全員若い時からずっと一緒で、結婚も出産も子育ても全部一緒に相談しながらやってきたのよ。
仕事は大して難しいことはないし、日本人に聞けば全部教えてくれるので、日本人との関係性さえ、ちゃんとしておけば、この会社ほど子育てをするのにいい環境はないわ」と嬉しそうに語ってくれました。給与も毎年上がり続け、入社当時SGD800(約60,000円)だった月給は今ではSGD4,000(約320,000円)になっているとのこと。日本のバブル期のように減給されることのない昇給の仕組みの中で過去約30年以上にわたり、毎年昇給を続けてきた結果です。
こういうスタッフの多く見られがちな傾向は、キャリアアップとして自身で社会人向けの学校に通うこともなく、会社からのトレーニング(研修)を受けてきたわけでもないため、スキルや能力がさして高まっているわけではないということです。しかしながら、会社の業績に関わらず給与を上げていかなければならない(リストラや減給は考えられない)という会社にとっては非常に悩ましい問題の種となっているのです。
シンガポール人のEmployability(労働市場での市場価値)に対する意識
上記2の不安(「自分はこのまま、この会社にいていいのか」「自分のEmployability(労働市場での市場価値)が高まっている感じもしない」)は基本的に若手が抱えがちな不安です。20代半ば~30代半ばくらいの方の多くがこの言葉を口にし、この不安を抱えながら日系企業に勤め、あるスタッフは見切りをつけて転職し、また、そうでないスタッフは、日系企業の「ふんわか」にだんだんと慣れていき、社内でのそこそこの昇給・昇格に安住して、結婚したり、家や車を購入したり、子供ができたり、という人生の大きなイベントに突入すると、前述の女性と同じ道を歩み始めます。(これが悪いと言っているわけではありません。こういう方がいて当然ですし、また企業としてもこういう方々も現実問題として必要であることも付け加えておきます)
ただ一方で、「もっと優秀でバリバリやっていってくれるスタッフがほしい」と思っていらっしゃる企業の場合について申せば、シンガポールの場合、政府高官がテレビでもニュースでも常に「Meritocracy」(実力・能力主義)という言葉を言い続けていらっしゃることもあり、それを幼い頃から聞いて育ってきたシンガポール人たちは「実力・能力主義で昇給・昇格が決まらない会社はおかしい」と普通に感じるものだ、ということを把握しておく必要はあるわけです。
「Employability」(労働市場での市場価値)と「Meritocracy」(実力・能力主義)
前述の女性と面談をするために、カフェでその方を待っていた時のことです。
隣の席では、シンガポール人起業家と思われる35歳の聡明そうな男性が採用面談をされていました。
起業家は「何故、弊社に応募したのですか?うちは仕事がきついことを知っているよね?」と質問をしました。そして、求職者の方は以下のように回答をしました。
「御社は起業して数年でかなり大きな商談をされていることを知っています。実は、今いる(日系の)会社は完全な年功序列で、上長にいろいろな提案をしても『お前がこんな提案を考えるのは10年早い』と言われる始末で、営業成績を残しても『チームの努力だから』と個人に対してインセンティブがあるわけでもありません。
夜遅くまで頑張ってまとめあげた商談なのに、それを評価してくれる仕組みがない、僕はそんな会社に失望し、その会社で努力する時間がもったいないと感じています。自分を正当に評価してくれる職場であれば、目標達成に向けて努力を惜しみませんし、自分が未熟な部分は学んでいきます。成果に対して評価をいただけるのであれば、どんなに忙しくても構いません。僕は年齢的にも成長できると考えていますし、結婚の予定もありません。両親もまだ健康でいてくれています。全心全力で営業して御社の売り上げの一端を握りたい!そして正当に評価されたいのです!」
一気に彼が話し終えたとき、私は横で拍手をしたくなりました。これこそが『Meritocracy(実力・能力主義)で生きていきたい』というスタンスをもつシンガポール人の姿です。
社員の定着率に課題を感じられているようであれば
日系企業の「ふんわかさ」が大好きで企業に残ろうと考えているシンガポール人、自分のEmployability(労働市場での市場価値)に危機感を感じ日系企業を辞めようとしているシンガポール人の実例を紹介してきました。
3つめのグループ「たまたま日系会社に入社した」人たちで上昇志向の高いスタッフたちは、会社の方向性や納得のいく人事評価制度や目標設定がなされなければ、上記の女性や転職を決意した若手のようになっていく可能性が高いといえます。
もう一度、日系企業に勤務している現地スタッフの企業に対する危険な3つのメンタリティを記したいと思います。
1. 日系企業に興味があって入社した。人事評価制度も目標管理も整っていないことに当初は戸惑ったが、長年、勤続した今となっては、この「ふんわかさ」が大好き。できれば定年まで、それなりに頑張っていこうと思っている。
2. 日系企業に興味があって入社した。勤続して、数年たつが「ふんわか」している企業文化に対して「自分はこのまま、この会社にいていいのか」とても不安になっている。自分のEmployability(労働市場での市場価値)が高まっている感じもしない。
3. 日系企業に特に興味はなかったが入社した。他にいい会社が見つかるまで、つなぎで会社にいようと考えている。
これまで、数多くの日系企業のケースを見てきましたが、多くの場合、ここに書いた2と3の理由でやめていく人が多いと感じています。(当然、マネジメントへの不満や仕事内容の不一致などその他理由もあります)
外国人スタッフを抱える企業の皆さま、今後、採用を予定している企業の皆さま、もし、外国人スタッフの定着率に課題を感じられているようであれば、一因としてこのような点も検討されてみることをおすすめします。
サンディ 齊藤
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