今、多くの日系企業が「グローバル化」を最も重要な経営戦略課題と捉え、推進しています。
経営コンサルティング会社への大手企業からのニーズも、グローバル化についてのことが最も多いニーズとなっています。
これまでは、自分の国で成功した企業が海外で似たような事業の会社を買収するか、新たにゼロから拠点を構えるかのどちらかで、他国で事業を始め、それぞれの国で結果が出ていればよかったのですが、これからは、もっと面で、国を超えてアジア全体や世界中で連携をはかり、国を超えて最適化を考え、地域ごとの強みを活かし、グローバル全体での最適を考える、というようなことが必要とされる時代になりました。
「ヒト」のグローバル化の時代
私自身、シンガポールを中心に、タイや日本、ベトナム、フィリピン、アメリカを行き来ししていますが、特にシンガポールでは、事業統括、人事関係の地域統括、人事制度をアジアや、世界で統合・統括する話が非常に増えてきています。
それに付随して、国をまたいだ人の異動をどうするか、非日本人の経営者育成をどうするかというようなテーマが非常に多くなっています。
今まで進んできた「モノ」のグローバル化、「カネ」のグローバル化に加えて、本格的に、一番、難しい「ヒト」のグローバル化の時代になってきたと実感します。
このようにこれから日系企業がさらなる飛躍を遂げるには、「ヒト」のグローバル化への取り組みが一番の経営テーマであることは紛れも無い事実なのですが、その実情、実態を海外から見ていますと、多くの日系企業が、同じような悩み、問題を抱えていることに気が付きます。
それは、現地で働くローカル社員の方のマネジメントや、外国人のマネジメントについての悩み、問題です。
事業の成功は、戦略やビジョンといった、方向性を指し示すところと、決まってからそれをどのように実行するかという実行力の掛け合わせで結果が決まります。
ビジネス上の戦略がどんなに素晴らしくても、その実行部隊がうまく実行できなくては、成功しません。
グローバル化の時代の人事評価制度
今までは、日系企業は国内ではどちらかというと、実行部隊が非常に優秀で、実行力、現場力が強みでした。
例えば、一般的に、日本の人事評価制度の運用は曖昧であることが多いです。
上司からの期待や、評価が曖昧でも、頑張る人は頑張ります。これは世界的に見ると、非常に珍しいことですし、日本人の強みでもあります。
日本人であれば、期待されていること以上のことをやる、とか、先を読んで動く、上司が何を求めているかを慮って動く、お客様の期待を超える、など、仕事に取り組む時の姿勢や哲学、喜ばれる喜び、と言ったものが、ある程度、文化として根付いているため、上司からそれを指摘されれば、ああそうかと腑に落ちますし、自分がそれをできなかった時に、恥ずかしい、という気持ちが生まれたりもします。 けれどもこれは、世界でもかなり特殊な文化だということを理解する必要があります。
私自身、欧米の人たちから、なぜ日本人は、人事評価制度も明確ではないのに、がむしゃらに、コミットして働くのか、とても神秘的、不思議に見えるという話をされたりしますし、実際に海外の名だたる大学でも研究の対象として取り上げられています。
そしてだからこそ、これは日系企業の圧倒的な強みでした。
日本人の中には、仮にマネジメント力が上司になくても、社内の制度が十分に整っていなくとも、優秀な人間は、自分で考えて、勝手に頑張り結果を出していくものだ、それが美しいし、優秀な人間というのはそうあるべき、と、こんなふうにも考えていらっしゃる方は多いのではないでしょうか。
でもその感覚を海外に持ち込むと、すぐに「はてなマーク」と「不満」でいっぱいになってしまうと思います。
なぜ◯◯人はあんなに気が利かないのだろうとか、どうしていつも受け身なんだろうなどと思ってしまって、誤解が生まれやすく、日本人対外国人、という対立軸、そこまで行かないにしても、大きな溝が生まれてしまいます。
これは私が一番問題視していることです。
東南アジアでの日系企業は人気があるか
先日、タイで日本人駐在員の方向けのセミナーを開いた時に、私は皆さんにこんな質問をしました。
「タイは東南アジアで最も日系企業が多い国です。数1000社の日系企業が進出し、ローカルの方を採用しています。さて、タイ人の学生の就職したい会社ランキング100位の中に、日本企業は何社くらい入っていると思いますか。」
あなたも考えてみてください。どれくらい入っていると思いますか。
このセミナー参加者の方は20社くらい入っている、という予想が一番多く、中には半分くらい入っているのではという声も聞かれました。でも実際には、文系の学生のランキングでは5社。理系の学生のランキングでも6社しか入っていません。
これはどういうことでしょうか。
日系企業は、外国人の方からみて、働く場所として魅力が少ない、ということです。
グローバル化の最大のボトルネック
優秀な外国人から、「日本企業では、活躍するフィールドがない」と聞くことがよくあります。
出世も遅いし、上には日本人駐在員がいて、上に上がれるかどうかはわからない。給与も低いし、どうやったら上司に認めてもらえるのかよくわからないので、最初はモチベーションが高かった人も頑張らなくなります。それほど仕事を頑張りたくない人が増え、簡単には首にはならない安定した会社がいい、というぶら下がり社員たちが残り、ゆるま湯文化が形成されてしまうケースも数多く発生しています。
そして、ぶら下がり社員を多く抱え、彼らをマネジメントする立場の日本人は諦めまじりに思います。
やっぱりローカルの人には任せられない、自分たちがやるしかない、と。
しかし、「〇〇人は優秀ではない」のではなく、実態は、「あなたの会社には優秀な〇〇人が来る魅力がない」もしくは
「あなたは、優秀な〇〇人をマネジメントするだけのマネジメント能力やリーダーシップがない」ので、
「あなたの会社では、優秀でない〇〇人しか採用できていない」という場面に数多く出会います。
このように、日系企業にとって、「外国人のマネジメント」がグローバル化の最大のボトルネックになっているのが実態です。
ハーバード大学のデール・ジョルゲンソン名誉教授も指摘しているように、「日系企業は1995年から生産性が停滞しており、米国や他の多くの先進国に比べて著しく低い」と言われています。
「世界中から学ぶ」
その中で、日系企業は内向きに、もがき続けています。
国内の他の企業の事例からは学ぼうとしますが、海外の事例には無関心なことが多いです。
でも近年やっと、その重い扉が開きつつあります。
多くの欧米企業で20年前から25年前に起きはじめた企業の「ヒトのグローバル化」が、今、日系企業で起こっています。
私は、もっと欧米企業の過去のグローバル化のプロセスから、日系企業はもっと学ぶべきだと私は思っています。
日本の常識を押し付けるだけではなく、外国人のマネジメントのノウハウをもっと学ぶべきだと思います。お互いからいいものを学び、非日本人に合う、よりよいマネジメント手法を開発していく必要があると思います。
ASEAN各国で起こっているような、国を超えて海外の事例から学び合うような機会にも、あまり日系企業には入ってきていないように思います。ASEANのリーディングカンパニーはすごいスピードで、欧米各国を始め、国を超えて成功事例を学んでいます。
国や文化を超えてのマネジメントが難しい、優秀な人が定着しない、すぐに転職してしまうので人の育成にお金をかけられない、という悩みはよく聞きますが、実は欧米企業でジョブホッピングが当たり前という文化の中でも、工夫をして、長く働く人が多い会社もありますし、ASEANローカル企業で、非常に多くの社員がモチベーションが高く、自分の期待されていること以上の結果を出しているという会社もでてきています。
私は、こういった非常に有益で価値のある情報、学びの機会が、日系企業に入ってこないというのは非常に問題だと感じています。
日系企業同士で学び合うだけでは、時代のスピードに追いつかないですし、海外のヒトを巻き込んだ素晴らしい組織の構築は難しいのではないかと思っています。
世界中から学び、そして、自分たちも、日系企業の取り組み事例や、今まで培ってきたワークスタイル、哲学や美学を世の中に発信していく時代に来ているのではないかと思います。
世界中から学びながら、それも踏まえて自分たちの持っている働く文化や哲学、美学を再認識し、他の人たちにもわかりやすい形で再構築する。 それができた時、日系企業は本当の意味で、「ヒトのグローバル化」ができるのだと思います。
日本国内においても、女性や外国人も含めた多様性のマネジメントを起こす必要性が高まっています。
今こそ、日系企業は、「人のマネジメント革命」を起こすタイミングではないでしょうか。一
森田 英一
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