タイにおける人件費は上昇傾向
2017年1月1日からのタイにおける最低賃金が更新されました。これまでの最低賃金は、1日300バーツでタイ全国一律ですが、2017年1月1日からは次のように4グループとなりました。
1バーツ=約3.35円(2017年7月1日現在)
1日300バーツ=約1,005円
月額9,000バーツ=約30,150円
※雇用契約上の月給制社員の最低月給は、勤務日数とは関係なく、「1日最低賃金×30日」となります。
タイでは、2012年に最低賃金が首都圏で約4割一気に上昇し、2013年には、全国一律に日額300バーツに引き上げられた以降は、全国一律300バーツで推移していました。
今回は、4年ぶりとなる最低賃金の更新となります。
かつて安い賃金を理由に「世界の工場」として栄えた中国は、 2000年代に急速に賃金が上昇し、多くの企業は生産拠点を中国からタイを始めとする東南アジアに移転させました。
そして今となっては、タイを始めとするASEAN諸国でも同じように賃金の上昇が始まっています。
海外に進出する日系企業はこれまで人件費の安い国に展開していましたが、そもそも人材に関する費用は「コスト」のみで判断して良いのでしょうか。
本記事では、タイ現地法人における人件費ついて考えていきましょう。
ーー【目次】ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
1.年間平均4.5%を超える賃上げ率で推移するタイ
2.年功序列で給与水準が上がるタイ日系企業
3.日系企業で働くタイ人スタッフの不満
4-1. タイ現地法人に求められる変化
4-2. コストセンターからタイ+1を狙う統括拠点へ
5.タイにおける適切な人材投資とは
5-1. 「オペレーション人材」と「ハイパフォーマー人材」の見極め
5-2. 「成果」と「報酬」を連動させ、メリハリを効かせる人事制度
最後に
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1.年間平均4.5%を超える賃上げ率で推移するタイ
2016年のバンコク日本人商工会議所の調査によると、製造業の賃上げ率は、平均4.6%非製造業の賃上げ率は、平均4.8%となります。
2017年の最低賃金の上昇により、2017年は昨年を超える賃上げ率となることが予想されています。
また、基本給以外に「各種手当て」が豊富な点もタイの特徴です。「手当て」は企業によってそれぞれですが一般的なものは下記となります。
・役職手当
・技術手当
・語学手当
・皆勤手当
・通勤手当
・住宅手当
・食費手当
など
タイ人は「各種手当て」の充実が入社成否を決めることもあり、基本給以外のコスト負担も大きくなっています。
2.年功序列で給与水準が上がるタイ日系企業
下記がタイ日系企業における「技術系」と「事務系」での役職別の賃金水準と平均年齢の推移です。(賃金単位 バーツ)
この図表からも分かる通り、年齢があがるにつれ、役職、月額・基本給も上昇する傾向になります。
つまり、タイ日系企業は年功序列で推移する報酬体系が比較的多く、経験の蓄積を促す長期雇用志向の人事制度をここタイでも運用しているのです。
では、実際に日系企業で働くタイ人はどういう印象を持っているのでしょうか?
3.日系企業で働くタイ人スタッフの不満
「いくらがんばれば、昇格(昇給)できるのかが分からない‥」
「私の今後のキャリアステップでどうなっているのだろう‥」
「赴任する駐在員によって、マネジメント方針が変わるから働きにくい‥」
「評価結果が曖昧で納得感がない‥」
「年功序列で若手にはモチベーションが下がる‥」
コレは実際に我々が日系企業で働くタイ人スタッフにヒアリングした生の声です。
「仕事の量・内容に対して本当にペイされているのだろうか」という悩みの声は尽きず、優秀な社員にとっては「日系企業で働いて頑張っても評価されない」という印象を持ち、優秀な社員から辞めてしまう負のスパイラルが日系企業で起きています。
一方で、タイに進出する欧米企業は、正しく社員の成果を測定し、若手社員からの抜擢も促進しています。結果として、タイにおける就職人気企業ランキング(2016年)のトップ5に、GoogleやMicrosoftなどの欧米IT企業がランクインしています。
一律平等の評価基準ではなく、正しく社員のパフォーマンスを測定し、メリハリのある人事制度の構築など、今まさにタイ日系企業は変革が求められています。
4-1. タイ日系企業に求められる変化
タイはこれまで自動車メーカーを筆頭に「日本流製造システムの輸出拠点」であり、オペレーション機能を担うコストセンターとして捉えられていました。
結果として、人材に関する費用は「コスト」として見なされ、タイ人スタッフに対しては安定したオペレーションを求め、人材育成などの成長機会は与えられていませんでした。
日系企業の人材マネジメントの中心はあくまでも「日本人」であり、「日本人主導」で進めてきた結果、正しくタイ人スタッフに権限委譲されておらず、タイに進出してから数十年が経つ企業でさえも、組織・人事マネジメントは変化をすることができていません。
4-2. コストセンターからタイ+1を狙う統括拠点へ
現在、タイは東南アジアにおける地政学上の有利性を活かし、CLMV(カンボジア・ラオス・ミャンマー・ベトナム)を見据えた展開をできる統括拠点として重要視されてきています。
求められる組織・人事マネジメントも、
・タイローカル企業との共創造
・タイ拠点を担えるローカルスタッフへの権限委譲
・CLMVなど周辺国の低賃金労働を活かすチームマネジメント
・オペレーション人材から高い成果を生み出すハイパフォーマー人材の選抜と育成、
と大きく変革が求められています。
最早、タイ人スタッフの人件費は「コスト」としての考えではなく、「投資」として今後の成長や権限委譲をどうしていくかが必要な視点になります。
5.タイにおける適切な人材投資とは
最後に、タイにおける適切な人材投資方針として2点まとめます。
5-1. 「オペレーション人材」と「ハイパフォーマー人材」の見極め
まずは、採用時・配置転換時・昇格時などの見極め(アセスメント)です。
「オペレーション人材」とは、真面目で勤勉であり、言われたことをミスなくコツコツやる気質を持った人材です。
「ハイパフォーマー人材」とは、何をすべきかを自ら考えて行動し、上司に対しても提案をし、成果志向の人材です。
今後、「組織と人の現地化」を実現するにあたり、「ハイパフォーマー」のポテンシャルを持った人材をいかに見極めるかが鍵です。
もちろん、タイは製造業のハブですから「オペレーション」機能をミス無く担える人材も必要です。まずは、現状の社員構成を踏まえた見極め(アセスメント)をお勧めします。
そして「ハイパフォーマー人材」に対しては、コストではなく「投資」として考え、役割と保有する能力に応じた報酬を提供する必要があります。
5-2. 「成果」と「報酬」を連動させ、メリハリを効かせる人事制度
次は、平等主義の人事制度からメリハリの効いた人事制度への変革です。
ハイパフォーマー人材は、個人の仕事とパフォーマンスを重視し、透明性のある人事制度を求めます。
その人が持つ仕事の大きさ(権限)、仕事の難易度、期待成果に基づき役割を定義し、それに向けてチャレンジしていく姿勢と成果を評価するメリハリの効いた人事制度への見直しが必要です。
昨今のタイ人の若手は、モチベーションの動機として、刺激的な同僚や、チャレンジできる仕事を求めますから「成長機会」と「キャリアの可能性」を明示し、成長ステップを明確にしていく必要があります。
また、人事評価制度を一つのコミュニケーションツールとして、密な人間関係と尊敬しあえる環境づくりがタイ人マネジメントにおいて忘れてはならない点です。
最後に
これまで見てきたようにコストセンターであったタイにおける組織・人事マネジメントは大きく変革が求められています。
人件費をただの「コスト」として見るだけでは、優秀な若手社員から日系企業を去っていきます。
タイに進出してきて数十年経過する企業が多いかと思いますが、我々タイにおける日系企業はこれまで変化してくることができたのでしょうか?
これまでの成功体験から脱却し、タイ人スタッフとWin-Winとなる組織・人材マネジメントを追求し、人がイキイキと育つ適切な人材投資を目指していきましょう。
増田 賢一朗
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