コラム『英語ができなくても一目置かれる駐在員』

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shaking hands

シンガポールにある日系企業から、自社で長く勤続している現地スタッフたちが派閥を作ってしまい、拠点長である日本人社長としてマネジメントができなくなってしまっているので力を貸してもらえないかとお声かけをいただいたことがあります。

日本人の駐在員たちへのヒアリングによると「現地スタッフたちは、派閥ごとに目標設定して仕事をしてしまっており、今後、会社としてひとつの目標設定をおき一緒に走っていきたいが一筋縄ではいかなさそうである」との声が聞かれました。

他方、現地スタッフの人たちに話を聞いてみると「日本人駐在員が現地マーケットの状況も把握しようとせずに、現地をわかってない本社からの指示を聞くばかりで、現実味のない数字だけを上から落としてくる。トップ(拠点長である日本人社長)が『この市場でこうやって生き残るんだ!』というきちんとした方向性や方針を見せられないわけだから、長くいる我々が自分たちで目標設定をし、自分たちのリソースをフルに活用できるような動き方をするのは当然ではないか」という耳の痛くなる声が多く聞かれました。

日本人駐在員と現地スタッフの間で、お互いの想いや価値観の共有がほとんどなされておらず、つながっているのは「売上数字だけ」という状況のために起こっている悲劇です。この企業では、必ずしも日本人駐在員が現地スタッフをないがしろにしようとしているわけではなく、むしろ、どのようにしたらより良い仕事ができるか、懸命に考え苦しんでいます。

その一方で、現地スタッフたちは、そのような日本人駐在員の思いもつゆ知らず、「日本人駐在員が出来ないから、自分たちがこの会社を背負っていかなければならないんだ」と意気込んで仕事をしています。

語学力の問題?

このような問題をみると「やはり語学力の問題でコミュニケーションがはかれていないのではないか?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。

たしかに「語学力は無いよりは、あったほうがいい」「ちょっと日常会話程度できるより、相手の表情や言葉のニュアンスも見ながら議論ができるレベルになったほうがいい」と私も常々思っています。しかし一方で、ある現地シンガポールスタッフの人たちからこんな声を聞いたことがあります。

「今度赴任してきた日本人はアメリカ拠点から横移動でシンガポールに着任したから英語は流暢なのですが、誰も彼のことを尊敬していません。でも、彼はそのことに気づいてないですけどね。まぁ、あと2年経てば去るから、それまでの我慢だとみんな思ってますよ。でも、彼の前にいた日本人は、英語はあまり上手ではなかったけれど、誰もが彼に一目置いていたし、彼のマネジメントを恋しくも思っています」

更に質問していくと「前のマネージャーは英語が苦手だった分、また、海外経験が少なく異文化や価値観の違いの理解が十分でないと自己認識していた分、相手の言っていることが分からなかったり、自分の価値観と違うと感じたりした時には、何度も何度も『それって何故かな?』『もう一回言ってもらえるかな?』と聞いてきたし、また自分の想いをゆっくりではあったけれども、確実に伝えようとしていた。そういう日々のコミュニケーションの中で、『いずれは去っていく駐在員上司』というよりは『同じ会社で頑張っている仲間』という意識に変わってきたんですよ。

ところが、今の英語堪能な上司は言葉についてはすべてが分かってしまっているからか、一生懸命聞いてこない、自分の想いを伝える時間をもたないという態度だから、結局半年たった今も『どうせいずれ去っていく駐在員上司』という気持ちしか持てないんです。前のマネージャーと比べるとなんだか薄っぺらい関係です」と気持ちを打ち明けてくれました。

会社の中で起こる様々な事象に対する価値観の違いをどう探り当て、摺合せ、そしてお互いが納得のできるところで着地させるか、一刻を争うビジネスをしている中でも、それを進んでやっている駐在員もいれば、それをやらずに大過なく過ごして帰国する駐在員もいます。いろいろな事業のフェーズもありますし、業界によって状況も違いますから一概にどっちが正しいとは言えません。

今の皆さんの状況を省みて、またこのような現地社員の本音を聞いてみて、皆さんなら、どちらを選びますか?そして、今、何ができますか?

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サンディ 齊藤
1994年渡星。アジア進出日本企業の日系企業らしいグローバル化・ローカル化を促進することをミッションに在アジア日本人駐在員向け、ローカル社員向けにリーダーシップ研修を核としたマネジメント研修を幅広く実施、その他企業戦略やMVVに即したグローバル化・ローカル化推進のための長期プロジェクトにも関わる。

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