OKYとは、「 おまえ(Omae)、ここにきて(Koko ni kite)、やってみろ(Yatte miro)」の頭文字を取った海外駐在員の間で普及した隠語です。海外現地の事情、状況を知らない日本本社から見当はずれの指示や無理難題が降ってきた時の駐在員の愚痴として今もよく聞かれます。OKYという言葉が聞こえてくる会社は、海外現地法人のマネジメントがうまくいっていない可能性が高く、海外展開において大きな問題を内包しているとも考えられます。
さて、OKYという言葉は私がシンガポールにきた約20年前から聞かれる言葉で、ある企業では未だに頻繁に聞かれますが、ある企業では当時から聞かれず、また、ある企業ではいつの間にか聞かれなくなるようになりました。
この違いはどこから来ているのでしょうか?
板ばさみになる駐在員の苦しみ
先日、あるクライアントからの依頼で、“やり直し”の評価制度導入研修を担当させていただきました。聞くところによると、昨年、あるコンサルティング会社がクライアントが新たに導入した評価制度についての研修を実施したとのことでした。
しかしながら、コンサルティング会社が日本人の駐在員のみの視点での制度設計、説明をしたために、現地スタッフの理解や納得を得ることができず、“やり直す”ことで場を収めざるを得ない状況になったとのことでした。
私が担当した“やり直し”研修でも、「日本人が決めた制度だから、仕方なく従っているけど、制度の目的も理由意義もさっぱりわからない」と公言する人が何人もでてきました。
そして、それだけの不満や疑問や想いを研修の場で第三者に対する私には言っても、自分の上司である日本人には言わないというのです。その理由を聞くと「言っても何にも変わらないから」とはっきりと答えました。このやりとりを研修場所の後方で見ている現地法人の社長や人事担当者に聞かれていても彼らは全く動じず、言い続ける、そういう場面は多々あります。(どれくらい不満を持っているかわかりますか?)
もちろんお忙しいトップの方々なので無理からぬことではありますが、少し辛口に言わせていただければ、こういう意見が出てくる企業では、多くの場合、彼ら(日本人の社長や人事担当者)は携帯をいじって研修自体すら見てくれていません。そして、現地スタッフたちはそれを知っています。
「どうせここで私たちが何かを提言して、万が一、上司たちが理解したとしても、彼らは本社には何にも意見できないから!」
というのです。これ、すごいことですよね?
そして、こういう現地スタッフの腹の内を、本当の本当に理解してしまった駐在員は苦しみます。「本社は何もわかってくれないし、自分一人ではどうしようもできないから」と板ばさみになるのです。これがシンガポールにでている多くの日系企業で、数十年も前から変わらない状況なのです。
OKYがもともとない会社の風土
わたしが知る限り、多くの日系企業の駐在員はOKYと言いたくなるような環境で働かれています。しかしながら、もちろん、OKYという言葉とは縁遠い組織風土を持った会社もあります。どのような会社なのでしょうか?
私が、以前から親しくしている会社には全くOKYがありません。シンガポールにある現地法人の全社員は40名程でそのうち日本人は3名。日本本社の社長はアメリカで教育を受けてきていた方でした。外国人として多国籍の人が集まるアメリカという環境で育ってきたこともあり、彼が選んできた社員は感覚がとっても開いていました。
「世界の国々にはそれぞれのやり方や、風土がある」ということが然るべき前提で、そして、その前提をもった組織風土のなかで、皆がそれぞれの強みを最大限にできる環境で仕事に集中していました。
在アジアの日系会社で良く聞かれる「あの人の英語は、フィリピンなまりで変な英語だよね」とか「あの人の英語の発音はきれいじゃない」なんて話は一度も聞いたことはありません。ドイツ訛り、フランス訛り、インド訛り、韓国訛り、日本訛り、とってもとっても普通なことでした。
仕事をする場所としても、今日は東京本社でプレゼンをして、その次の週はロンドンに行ってクライアントとの打ち合わせを行い、さらにその次の週にはパートナーとの交渉をシンガポールで行うといったグローバルな移動が日常茶飯事の社員も多く、ある国のやり方に固執していてはビジネスがうまくいかないということを経験的に理解しているようにも見えました。
こういう組織風土を持つ企業の場合は、基本的にOKYはありません。
OKYが聞かれなくなっていく兆し
次に「OKYという言葉が、いつの間にか聞かれなくなるようになる」会社のケースについてお話ししたいと思います。本社から日本人駐在員を通じて海外拠点をマネジメントしていた方が、初めてシンガポール(或いは他の海外拠点)に来られて、直接的に現地スタッフをマネジメントしなければならない経験をすることで、始めて駐在員が嘆いていた話が「こういうことだったのか!」と実感されることがあります。
例えば、「日本本社であれば、入社5年目の社員ができるような提案書づくりを、なぜ、シンガポールの5年目の社員はできないのか、駐在員の指導不足ではないのか!!」と日本から叱責した方がシンガポールに赴任してきました。その方はシンガポールでの業務に携わるなかで初めて「シンガポールの社員は、日本の社員と異なり、入社5年目でもルーティン業務しか任されてきていないこと」「日本の社員と異なり、まったく研修の機会も与えられてきてないこと」に気づき、勤続年数が同じでも、日本人社員が作るような質とスピードの提案書の作成をシンガポール人スタッフに望むのは、無理なことだったと実感されていました。
こういう気づきを日本本社に持ち帰ってくれて、日本本社での理解が徐々に高まれば、OKYが段々と聞かれなくなっていくのだと思います。
OKYが聞かれなくなっていくために必要なこと
最後に、日系企業の駐在員にOKYと叫ばせてしまう日本本社にありがちな傾向を列挙させていただきます。もし、当てはまる項目が多いようであれば、海外現地法人のマネジメントがうまくいっていない可能性があり、注意が必要だと思われます。
- 日本本社から、海外現地法人でおきている問題の背景についての質問などはなく、ただただ、日本との比較で劣っていること、できてないことに対する叱責が飛んでくる(例:なぜ日本と同じ品質とスピード感で仕事を出来ないのか?なぜローカルスタッフから報告・連絡・相談がないのか? など)
- 現地の仕事で手がまわらない時期に、日本本社からの出張者が来ることが決定し、駐在員が出張に関わるすべてのアレンジ(航空券の手配、ホテルの手配、出張者と現地クライアントの会食の設定、国内での移動手段の手配、観光の手配など)を依頼される
- 日本でも部下を持ったことがないのに、突然部下を持つこととなるが、そのためのサポート(国内の事前研修、現地での研修、メンターとなる方の存在など)がない
- 東南アジア地域の法律や会計基準などについて、質問がとんでくる(多くの場合、時間を取って調査をすることとなる)
- シンガポールの祝日に対する配慮がなく、働いて当然のような態度で仕事の依頼や締め切りが決定される
- 英語の文書では提出できず、日本語訳も必要となる
- 日本のやり方、日本の仕事の進め方、交渉方法で問題解決を図るように指示がくる
日系企業からOKYが聞かれなくなり、企業の人と組織のグローバル化が成功することを願って。
サンディ 齊藤
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