日本で「グローバル化」という言葉が頻繁に聞かれるようになって、数年が経ちました。しかし、日本で語られる「ダローバル人材」と、世界で語られる、今必要とされるグローバルで活躍する人材は、違うタイプの人を指す事が多いことをご存じでしょうか。
日本での「グローバル人材」とは日本から飛び出て、海外支社、現地で働くことができる人、つまりローカルワーカーや、現地の方の上司として働く、ローカルリーダーを示している事が多いように思います。
グローバル企業もしくは、国籍を超えたトランスナショナル企業(以下、総称してグローバル企業)の多くで必要としているのは、次のような人材です。
・国という概念を超えて世界規模の全体最適で考えて行動が出来る人材
・世界のニーズにいち早く気づき新しいものを生み出せる人材
・国籍や人種の壁などを越えて、知の相互作用を起こす事が出来る人材
つまり、グローバル企業で語られるグローバル人材とは、世界を舞台にイノベーションを起こす人材を指しています。
戦後の成功体験からのとらわれ
私は、今の日本企業の最重要課題は「戦後の強烈な成功体験から解き放たれる事」だと思っています。日本の製品やサービスは質がいいので、世界に展開すれば、日本のグローバル化は成功すると思っている人がまだ多いように感じますが、本当にそうでしようか。
グローバル企業は経営者や技術者などの従業員を、国籍など問わずに世界中からトップタラスの人たちでグローバルチームを組み、知の交換・創造をしながら、イノベーションを起こすプロセス(co-creation)にチャレンジしています。その一端を垣間見ることができるのは、人事関連の世界最大の国際会議 ASTD(現ATD)です。世界中での人事関連のノウハウや、チャレンジが惜しみなく共有されています。
このように、よりよい世界にするために、国境を越えた連携があらゆるところで始まっています。インターネット上で、世界中の素晴らしいチャレンジをしている人たちの動画を無料で見ることが出来るTEDは、その際たるものでしょう。また、イノベーションが先進国からではなく、新興国から起こる事例を扱った『リバース・イノベーション』もベストセラーになっています。まさに、今までの常識を覆す出来事が世界中で起こっているのです。
日本企業は戦後の強烈な成功体験におごらず、今もう一度本気で学ばなければなりません。それにはまず、今起きている我々には信じがたいと思えるような世界のリアルを知ることです。
ケーススタディからリアルスタディへ
ケーススタディーで有名なハーバード大学も、2012年からフィールドスタディーの手法を取り入れ、1年生904人全員を中国、ブラジル、コスタリカ、インド、ベトナム、ガーナなどの新興国に送り、チームごとにさまざまな社会問題を解決するプロジェクト活動を始めました。
新興国では、先進国にいる人の想像を超えることが多く起こっていて、ケーススタディーで過去事例から学ぶだけでは十分ではないのです。
実際、IBMなどのグローバル企業でも、グローバルリーダー向けの研修として、リーダーが新興国や発展途上国に長期間滞在し、社会問題にどっぷりつかり、現地の人々と共にその問題に取り組むというプログラムを行っています。
また、インドネシアでは、政府や企業の経営陣が、数カ月間、普段の仕事から離れ、世界各国の社会問題に取り組みます。これを聞いて驚いた私がそれほど長期に仕事から離れても問題ありませんかと質問したところ、政府高官の方に「リーダーの仕事はこれからの社会を予見し、よりよい社会をつくるために国の進むべき方向を見極めることなので、世界の社会問題を知ることは何を置いてもするべき重要な仕事なのです」と言われました。
時間もお金もかけて、そうしたプログラムを行うのは、このような社会問題にこそ大きなビジネスチャンスがあるからです。世界のリアルにどっぶりつかること。その体験から世界中の人々の考えていることを感じ、彼らのニーズを頭で理解するのではなく、体感すること。これは、今こそ私たちに求められていることではないでしょうか。世界のリアルを体で感じながら、日本人として何ができるのかを自問自答しつつ、多様な人々と連携することで、専門性の高いグローバルチーム、ダイバーシティチームが生まれ、そこから鮮やかなイノベーションが起こるのです。
つまり、これからの時代にイノベーションを起こす人材とは、グローバルな人材なのです。環境問題、資源問題、格差問題など、今後ますます複雑な社会問題が、地球全体で起こります。しかしそのような問題にこそ、大きなビジネスチャンスが眠っています。
このような問題に取り組む人材が日本からも育つ事を願い、そういう人材を輩出するために、私自身も、日本人として、地球人として、今の時代を生きるひとりとして、世界に何を貢献できるのかを自らに問いかけ、邁進し続けたいと思います。
(2013年3月発行 日本の人事部LEADERS創刊号より転載)
森田 英一
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