ある日、若い同僚がこんなことを嘆いていた。
「1時間ミーティングで席を外した隙にWhatsAppのグループメッセージが100を超え、皆私がいなくなったと心配している」、と。そしてスマートフォンでグループチャットに猛烈な勢いで返信し始めた。と同時に、同僚と会話しながらメール返信、WhatsApp、WeChat、Skypeなどのメッセージングアプリを使いこなしながら仕事を進めていく。私の依頼した仕事もテキパキとこなしてくれた。
そんな彼女の仕事の仕方を見て、私は考え込んでしまった。デジタルネイティブの同僚が毎日、毎時間、毎秒処理するデジタル情報量はいったいどれくらいなのか?
モバイル中心の世界はすでに到来しており、今後さらに加速していく一方であることはほぼ間違いない事実である。デジタルネイティブといわれる若い世代を理解することは大事であるが、これからの社会におけるデジタルビジネスの機会を考える上で、モバイルの威力を知ることは企業の戦略と存続に関わることであろう。
以下、企業のエグゼキュティブが知っておくべきモバイルの10の威力をリストアップする。
1.コンピュータよりもスマートフォン
グーグルの調査によると、ユーザーの80%はスマートフォンを使用(コンピュータは67%)、27%はスマートフォンのみを使用している(コンピュータのみ使用は14%)。39%が検索にスマートフォンのみを使用(コンピュータのみ使用は32%)。スマートフォンの使用時間は1日平均170分(コンピュータの使用時間は120分)であった。(出典: Google)
2.スマートフォンあれば、人もいる
新興市場において50%のユーザが起床してから5分以内に携帯をチェックする。30分以内ではその割合は83%に上昇。
全世界平均で我々は1日40回スマートフォンをチェックしている。 発展途上国では、1日に100回以上携帯をチェックするユーザが14%にのぼる(対して先進国では6%)。スマートフォンあるところには人もいるのである(出典: Deloitte)
3.スマートフォンに依存した生活
18歳から24歳のユーザは1日2時間、25歳から44歳は3.5時間スマートフォンを使用している。(出典: Salesforce)
4.E-メールよりもインスタントメッセージ
ユーザが携帯でまずアクセスするのはインスタントメッセージ(35-37%)である。発展途上国ではE-メール、ソーシャルメディアと続き、先進国ではソーシャルメディア、E-メールと続く。(出典: Deloitte)
5.複数のアプリを常時活用
57%以上の人が2つ以上のデバイスを持ち、21%は同時に使用している。携帯をよく使う時間帯では平均8アプリを立ち上げている:ブラウザアプリ(Chromeなど)、メッセージングアプリ(WhatsAppなど)、ソーシャルアプリ(Facebookなど)、E-メールアプリ(Gmailなど)。(出典: Google)
6.ブラウザよりもアプリ
使用時間の90%をアプリが占めているのに対してブラウザは10%である。90%のうち、Facebook 19%、エンターテイメント 17%、ゲーム 15%、メッセージ/ソーシャル 12%であった。(出典:SmartInsights)
7.通信量のほとんどは動画
2016年の全モバイルデータ通信量のうちモバイル動画通信量が60%を占めた。モバイル動画通信量は2021年には2016年の9倍に増加し、トラフィック全体の78%を占めると予想される(出典:Cisco Global Mobile Data Traffic Forecast Update)
モバイルネットワークでの全動画通信量のうちYouTube が最も視聴されており、40~70%を占めている(出典: Ericsson)。YouTubeを利用するユーザのうち、42%はスマートフォンのみで視聴している(出典Google)
8.スマートフォンで情報収集、そして購買
スマートフォン所有者の69%は必要な時にまず携帯で検索し、アクセス可能な場所にいる場合は79%が店舗に行き、28%が購入につながる。(出典:Google)
9.データ使用量は今後も倍増
2016年、全世界のモバイルデータ通信量は63%増加した。この5年で通信量が18倍に増えたことになる。2016年時点でスマートフォンは全携帯機器の45%にすぎないが、通信量でみると81%を占める。 全世界のモバイルデータ通信量は次の5年で(2016年から2021年)さらに7倍になる見通しである。(出典:Cisco Global Mobile Data Traffic Forecast Update)
10.スマートフォン時代の到来
2016年は4億2900万台のモバイル機器が市場に追加され、全世界のモバイル機器は80億台に上った。そのほとんどはスマートフォンが占める。2021年までに一人当たりが所有する携帯機器は5台になり、世界的にはその74.7%をスマート機器が占めると予測される。(出典:Cisco Global Mobile Data Traffic Forecast Update)
私たちは日ごとにモバイルの力を一層感じるようになり、モバイル中心世界が加速するだろう。ちょうど今月、イギリス政府は「次世代モバイルテクノロジー:英国のための5G 戦略(Next Generation Mobile Technologies: A 5G Strategy for the UK)」というレポートを発表した。5G はいまだ開発中であり、まだその具体性は分からない。しかしそれが経済、業界、ビジネスに非常に大きなインパクトを与えることはわかっている。超高速接続によって、Internet of Things (IoT)が加速するであろう。
つまり企業にとって、今起きているモバイル中心世界が今後どのように進化していくかを理解するのは、経営戦略であり、機会でもあり脅威でもある。