2020年以降、リモートワークの導入が余儀なくされた結果、従業員の働き方に対する考えが大きく変わりました。
Future of Workが企業の管理職を対象に行った調査では、回答者の78%が、従業員の定着率を高めるために最も効果的な非金銭的手段として「柔軟なスケジュールと在宅勤務」を挙げています。
同じく世界各国で行われた調査では、83%の従業員が、2つの似たような仕事のオファーのどちらかを選ぶ際に、少なくとも一部の時間はリモートで働くことができるかどうかが決め手になると回答しています。
また、ギャラップ社の調査によると、54%のサラリーマンは、より柔軟性のある仕事ができるなら、自分の仕事を辞めたいと考えています。さらにギャラップ社は、”仕事の柔軟性はエンゲージメントを高める “と述べています。従業員の3分の2は、柔軟性が失われると、別の仕事を探すことを考え始めるという見解が出ています。
このように、リモートワークが今後のデファクトスタンダードな働き方になりつつあり、
企業はリモートワークを取り入れた働き方の中で、どう成果を出していくのかを考えていく必要があります。
リモートワークにおいて、オフィスワークとの違いは、個人で業務を行う時間の量です。
個人で業務を行う時間が多くなると、社員自身で業務や時間をマネジメントしなければいけなくなります。つまり、セルフマネジメントが非常に重要になります。
組織的にメンバーのセルフマネジメント力を高められる体制を作ることで、リモートワークが足枷ではなく、大きな成長エンジンに変わります。
この記事では、マネジメント側(トップマネジメントや人事部)の視点から、メンバーのセルフマネジメント力をどう組織的に強化していくのか?をご説明していきます。
もしあなたが「メンバー自身で業務・モチベーションの管理をできるようになってほしい」「自分自身で考えて仕事をして欲しい」と感じているのであれば、ぜひ本記事で解決策につながるヒントを見つけていただければと思います。
そもそもセルフマネジメントとは?
「自分の内面的な状況にも気づき、理解していくスキルを身につけ、変化する状況の中で、自分の望む結果を出すこと」を指します。
そもそもマネジメントとは、メンバーや状況を理解しながら、うまく対処していくことで、より良い結果を出していく技術のことを言います。
つまり、メンバーや状況を自分に置き換えると、自分の内面的な状況と、外部環境の状況を理解しながら、成果を出していくことと言えます。
セルフマネジメントの概念自体は、リモートワークに始まったことではなく、経営学者のP・F・ドラッカー氏は、「まず自分をマネジメントできなければ、他者をマネジメントすることはできない」と言っており、マネジャー人材への育成においてもセルフマネジメントは、とても大きな意味を持っています。
あなたが考えるセルフマネジメントは何を意味するのか?
セルフマネジメントは強化していかないといけないと思っているものの、中々社員に期待しているほどの行動が表れていないと感じる方は、あなたが考える社員に期待しているセルフマネジメントを具体化していくことで、社員の改善行動へつながります。
P.F.ドラッカーの名著『マネジメント』(1973)の中で、
マネジメントを「マネジャーの5つの仕事」として以下の5項目を定義しています。
・目標設定
・組織化
・動機付けとコミュニケーション
・評価測定
・人材開発
これを個人に置き換えた場合、以下の表現に言い換えることができるかと思います。
・目標設定:自分自身で適切な目標設定ができる
・業務管理:きちんと業務量・業務にかかる時間を把握し、期日までに目標の達成、業務の完遂を行える
・モチベーション管理:自身でモチベーションをコントロールでき、目標の達成、業務の完遂を行える
・評価測定:目標に対する実績に関して、的確な分析ができ、次につながる内省を行える
・自己開発:目標の達成・業務の遂行に対して、自身の足りない知識・スキルを把握でき、それらを獲得する努力ができる
これらの5つの要素を踏まえた上で、各等級・ポジションにおいて何が課題かを考え、それに対する解決策を実行していくことで、メンバーのセルフマネジメント力の向上につながります。
セルフマネジメント力を組織的に強化するためのプロセス
ここからは、メンバーのセルフマネジメント力を組織的に強化するためのプロセスを説明していきます。
- 自社の各等級におけるセルフマネジメントを定義する
* セルフマネジメントに必要な行動・能力を評価軸として導入する
- セルフマネジメントの基礎的な概念・やり方のレクチャー
- 各メンバーのセルフマネジメントを観察しフィードバックする
フェーズ1. 自社の各等級におけるセルフマネジメントを定義する
まず初めに、自社の各等級に期待するセルフマネジメントとは何かを考えていきます。
そもそも自社、各等級におけるセルフマネジメントの定義が曖昧だと、メンバーが「どこに問題があるのか?」「何を直せばいいのか?」「なぜ直さないといけないのか?」を理解できません。
その「理解できない」が、メンバーのセルフマネジメント力向上の足枷になっているかもしれません。
きちんと自社・各等級に合ったセルフマネジメントを定義し、メンバーが理解できる状態にしておきましょう。
前章でもお伝えした通り、セルフマネジメントには大きく5つに分解できます。
ただ、全ての会社・等級・職務が、5つ全部を身につけなければいけないということではありません。
もちろん、5つのスキル全てをできることに越したことはありませんが、上司の支援を元に業務を遂行していくアシスタントレベルに5つのスキル全てを押し付けることは、無理があります。
また、ハイフォーマー人材のように、自身でクリエイティブにアイディアを考え、目標を達成していく人材と、オペレーション人材のように与えられた業務を完遂していく人材とで、期待するセルフマネジメント力は異なります。
*参考
・モチベーションに左右されずに、渡された業務をきちんと期日までに完遂できる人 |
つまり、自社と各等級で求める期待に沿ったセルフマネジメントを考えていきましょう。
セルフマネジメントを定義する際は、まず会社全体としてセルフマネジメントができる人材を定義した後に、各等級に分解していくと、等級ごとで求めるセルフマネジメントの基準のバラツキが出にくいです。
また、社内にいるセルフマネジメント力の高いメンバーにインタビューし、行動や思考を観察した上で、定義を考えていくと社内環境・文化に合った定義を作ることができます。
* セルフマネジメントの定義を評価軸として導入する
会社によって評価方法は異なりますが、リモートワークが当たり前の働き方を取り入れるならば、セルフマネジメントに関する内容も評価軸の一つとして取り入れることを推奨します。なぜなら、評価軸に入れることで、社員の意識が高まり組織全体に浸透しやすいからです。
ただ、ジョブディスクリプション管理かつ、成果評価のみの場合、プロセス評価を行う機会がないので、必ずしも取り入れる必要はありません。
フェーズ2. セルフマネジメントの概念・具体的な行動の指導&体験
自社の各等級におけるセルフマネジメントの定義を作成できましたら、その定義に合わせた基本的な概念やどう実行するのかを社員に説明していきましょう。
ただ、定義を説明するだけでは、具体的にどういうイメージなのか?どう実行するのかを理解することは難しいです。
また、人によって、定義の受け取り方が異なる可能性があるため、組織全体で一律に研修を行うことで、組織として期待しているセルフマネジメントの具体的な行動を伝えることができます。その基準があることで、組織内での共通言語ができ、社員はどこを改善しなければいけないのか?また、マネジャーはどういう観点でフィードバックをしなければいけないのかが明確になります。
また、ケーススタディで体験してもらうことで、より具体的なイメージを持つことができます。
フェーズ3. 定期的に1on1を実施しフィードバックする
組織全体にセルフマネジメントの概念・具体的な行動のレクチャーができましたら、ここからは個人の育成・改善にフォーカスしていきます。
一旦、研修にて、一般的な概念や行動を学んだものの、個人で実践した際にはまた別の課題が発生するものです。
しかし、セルフマネジメントが身についていないうちは、自分自身で管理ができていないため、第三者からの指導が必要になります。また、自分自身で管理できていないことを隠したり、言い訳したり、誤魔化したりし、中々セルフマネジメントが身につかないケースがあります。
そういった状況を防ぐためにも定期的に1on1を実施しましょう。1on1で部下がリフレクションをする機会を作り、そのリフレクションや部下の行動を元に、上司がフィードバック・指導、そしてネクストアクションプランを作り、次回の1on1で確認する、この流れを作ることで、自然とセルフマネジメントを醸成できる場を作ることができます。
セルフマネジメントは個々が自律した組織へ変革するための第一歩
セルフマネジメントが浸透した組織は、個々が自律した組織へ変革するための第一歩です。通常であれば、セルフマネジメントを浸透させることがマネジャーの負担になることに目が行きがちですが、リモートワーク時において、不可欠なスキルであるため、浸透させるのに絶好な機会です。
ぜひこの機会に社内にセルフマネジメントを浸透させ、自律型組織への変革を進めてみてはいかがでしょうか?
米田 晃
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