人事評価にMBO(目標管理)評価を導入している企業は国内に数多くあります。ここで言うMBOは、Management By Objectiveという、”目標を立ててその達成度を評価する”という人事評価の手法のことを指しています。
MBO評価は一見シンプルな手法に見えますが、いざ運用してみると、「目標をうまく立てられない」、「どのように評価すればいいかわからない」といった悩みも多く出てくるため、導入したものの廃止してしまう企業も少なくありません。
しかし、MBO評価は、今後グローバル化がさらに進行する中で、日本企業の海外現地法人における評価手法としても重要であると言えます。なぜならば、異なる文化・価値観を持つ社員が集まる組織では、基準をあらかじめ明確にしたうえで評価をすることが大切だからです。海外においては、MBO評価を利用して社員と質の高いコミュニケーションを取ることができるかが、人事評価の成否のカギとなります。
今までMBOを取り入れたことがない企業様も、一度廃止した企業様も、また今後のグローバル化において最適な人事制度を考えられている企業様も、改めてMBOについて知識を深めてください。
ーーーーーー【目次】ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
1.MBO(目標管理)とは?
1-1.MBOはアメリカ発祥の組織マネジメント手法
1-2.日本における普及状況
1-3.海外における普及状況
2.MBO評価の流れ
2-1.期初
2-2.期中
2-3.期末
4.MBO評価をうまく運用する3つのコツ
4-1.評価対象者を整理する
4-1-1.営業職
4-1-2.管理職
4-1-3.内勤事務職
4-1-4.製造職
4-2.評価しやすい目標を設定する
4-2-1.ひとつの目標項目にひとつの目標
4-2-2.SMARTを意識する
4-2-3.達成基準を100%, 80%の2つで定義
4-2-4.達成までのプロセスを明確にする
4-3.事実に基づいた評価づけをする
4-3-1.具体的な事実を評価する
4-3-2.予期しない事情は最低限考慮する
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1.MBO(目標管理)とは
この章ではMBOの成り立ちや歴史について説明します。正しく理解するためには、歴史的背景を理解しておくことが重要ですが、興味がない人は以降に飛んでください。
1-1.MBOはアメリカ発祥の組織マネジメント手法
MBOとは、Management By Objectivesの略です。元来は組織マネジメント手法の1つと定義されていましたが、今日は国内/海外において人事評価の手法として定着しています。
❝目標による管理(もくひょうによるかんり)とは、組織のマネジメント手法の1つで、個々の担当者に自らの業務目標を設定、申告させ、その進捗や実行を各人が自ら主体的に管理する手法。1950年代に米国のピーター・ドラッカーが提唱したとされる。本人の自主性に任せることで、主体性が発揮されて結果として大きな成果が得られるという人間観/組織観に基づくもの。❞
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%9B%AE%E6%A8%99%E3%81%AB%E3%82%88%E3%82%8B%E7%AE%A1%E7%90%86
❝ MBO(目標管理)とは、あらかじめ評価者(上司)と、被評価者との間で目標に関する合意を結び、それに対する達成度合いで評価をする方式。❞
http://gms.globis.co.jp/dic/00348.php
1-2.日本における普及状況
MBO評価は日本において大変普及しています。産労総合研究所の「2016年 評価制度の運用に関する調査」によると、評価制度を有する企業のうち、91.8%の企業が一般職層、94.1%の企業が管理職層に対して目標の達成度による評価を実施しています。
http://www.e-sanro.net/share/pdf/research/pr_1702-2.pdf
1-3.海外における普及状況
MBO評価は海外においても普及しています。例えばある調査では、2008年時点でFortune1000の企業のうち79%がMBO評価を導入していると報告されています。
Curtin, J. (2009). Values-exchange leadership: using management by objectives
performance appraisals to improve performance. Kravis Leadership Institute, 66-79.
2.MBO評価の流れ
ここでは、MBO評価の一般的な運用の流れを3つのステップに分けてご紹介します。すでに導入されている企業様は、次章進んでいただいて構いません。
STEP1: 期初の目標設定
期初には個人の目標を設定し、それを上司・部下間ですり合わせます。具体的には、下記の流れで進めます。
①組織目標の設定: 全社の戦略や部門の事業計画等の組織目標を設定します。
②個人目標の設定: 組織目標を個人目標にブレイクダウンします。目標の起案者は被評価者(部下)になりますが、ブレイクダウンを効果的に行うためには、事前に上司(評価者)が概要を指定しておくことが重要です。
③目標のすり合わせ: 被評価者が具体的な目標を設定した後に、評価者・被評価者間で目標のすり合わせおよび確定のための面談を行います。この場では目標の確定に向けて、評価者側がより詳細な希望を伝えるとともに、被評価者は現実の制約等を評価者側に正しく伝えます。最終的に被評価者にとってややストレッチな目標を合意できると、本人のモチベーションにもなるでしょう。
STEP2: 期中のフォロー・調整
期中には、目標の進捗確認のための、評価者・被評価者の期中面談を実施します。この場では進捗状況を確認するとともに、期末の目標達成のための効果的なアクション・アプローチについての相談も行います。評価者(上司)は、この場で自身のノウハウやアドバイスを部下に提供するとよいでしょう。
もし面談までに急激な市況変化や法令の変更等があり、目標達成が客観的に難しいと思われる場合は、期中面談で目標の内容や達成水準を変更することも可能です。
STEP3: 期末の評価づけとフィードバック
期末には、評価づけとフィードバック、処遇への反映を下記のように行います。
①被評価者(部下)が評価シートに自身の実績を記載します
②評価者(上司)が部下の記述をもとに、達成度を判断して評価結果を決定します。ただしこの段階の評価結果はあくまで一次評価結果であり、次のステップで組織内の評価調整を加味した二次評価結果を決定します。
③一次評価結果を組織内に集約し、評価者別の甘辛を調整して二次評価結果を決定します。この二次評価結果は、組織長が単独で決定するケースも、一次評価者を含めた”評価会議”を行うケースもあります。
④最終責任者が二次評価結果をもとに最終評価結果を決裁します。
⑤最終評価結果およびその根拠を一次評価者まで共有されたのち、一時評価者が被評価者(部下)にフィードバックします。
⑥評価結果を、昇給、ボーナス、昇格等の処遇に反映します。
3.なぜMBOによる人事評価は難しいのか?
MBO評価を運用するうえで、現場からよくお聞きするのが下記のような悩みです。
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私の仕事では目標が作りづらい。目標を掲げて仕事なんてしたことがない。
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どんな目標を立てたらよいか分からない。セミナーにたくさん出席すればいいの?
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達成したかどうかの判断が難しい。何をもって100%と言えるのだろう。
あなたの組織では、上記のような声が挙がったことはありませんか。たしかに、いきなり社員に「目標を立てて下さい」と伝えても、すぐに設定できる人はいないでしょう。ですので、まずは経営層や人事がMBO評価のコツを理解したうえで、社員に対してもそれをしっかりと示していくことが大切です。
4.MBOによる人事評価をうまく運用するコツ
第3章でお伝えしたような運用の難しさに対して、下記のコツを理解して運用をしてみてはいかがでしょうか。それは、「評価の対象者を整理する」、「評価しやすい目標を設定する」、「事実に基づいた評価づけを行う」の3点に集約されます。
4-1.評価の対象者を整理する
あなたの会社では全ての社員に対してMBO評価を行っていますか?「目標に向かって頑張るのは良いことだ」という信仰のもと、全社員が目標を立てているケースがあります。しかし、実際はこうしたケースほど、目標が立てられないという悩みが多いのです。
その理由は、MBO評価の対象者を適切に整理できていないことにあると言えます。一般的に、MBO評価に適している/適していないは下記のように切り分けられると言われています。
①MBO評価に適する職種
・非定型業務(業務における裁量・工夫の余地が大きい)
・プロセスよりも最終成果を重視する
・会社はできるだけ高い目標/成果を期待する
②MBO評価に適さない職種
・定型業務の従事者(業務における裁量・工夫の余地が小さい)
・最終成果というよりもプロセスを重視する(決められたことをきちんとやっているか)
・会社は一定レベルの業務品質を期待する
以下、具体的な職種を例にとり説明します。
4-4-1.営業職
営業職の場合は売上目標を設定しやすいため、目標の達成度で成果を測定ことは比較的簡単です。むしろ、期が終わってから「○○円売り上げたから評価はB」と後出しで処遇を提示するよりも、あらかじめ「○○円売り上げられたら評価はA」というように条件を提示したほうが、本人のモチベーションにもつながるでしょう。そのためMBO評価に適していると言えます。
4-4-2.管理職
組織を統率する管理職の場合、仮に定量的な目標を課すことができないとしても、「組織の成果を最大化させる」という非定型のミッションを負うことに変わりはありません。MBO評価によって本人の最終成果としての目標を定義したうえで評価付を行うのが望ましいといえます。
4-4-3.内勤事務職
他社員のサポートとしてファイリング、郵送・宅配、電話応対、顧客情報入力、旅費計算と手配などの補助を行う内勤事務職の場合、積極的に高い目標を掲げることは可能でしょうか?答えはNOです。ルーチンワークなどの定型業務の場合、仕事の裁量が少ないため、仕事の結果(最終成果)で評価することが難しくなります。また、代わりに生産性の向上を目標に掲げるケースがありますが、この場合も限度があるため、ある一定水準を超えると目標として機能させることが難しくなります。そのため、期初に目標を設定するという行為が馴染まないといえるのです。
4-4-4.製造職
工場などの現場において製造の仕事は、内勤事務職と同様に定型業務に該当するため、MBO評価の対象外となります。作業に求められるスキルの獲得を目標に設定するケースがありますが、ここで言うスキルは100%以上の達成(例えば150%達成など)は想定されないため、むしろ減点評価のニュアンスを持ってしまうかもしれません。
上記のように、MBOの導入にあたっては、社内の職種を改めて整理し、それぞれが「目標を掲げて仕事の成果を測ることができる職種かどうか」を確かめる必要があります。上記がYESであればMBOを取り入れることで社員のパフォーマンス向上が期待されますし、NOであればあえてMBOは取り入れずに、職務遂行能力の発揮度合い等の評価を行うのが良いでしょう。
4-2.“評価しやすい”目標を設定する
ミッション確認を行った後には、それを具体的な目標に落とし込んでいきます。目標は、期末に評価しやすいように設定することが重要です。ここでは、ポイントを4点に分けて説明します。
4-2-1.ひとつの目標欄にひとつの目標を設定する
一つの目標欄には原則としてひとつの目標を設定するようにします。これは評価づけの際に達成度を明確にするためです。仮にひとつの欄に2つの目標を設定してしまうと、其の達成度はそれぞれの達成度の組み合わせで決定することになります。組み合わせルールを事前に決めない限り、評価付けの段階になって「私の評価はもっと高くなるはずだ」という議論が発生します。
4-2-2.SMARTを意識する
目標を設定する際に気をつけるべき5点の頭文字を取ったのが、SAMRTです。下記の5つの原則を意識することで、より納得感のある目標を設定することができます。
S(Specific):目標の内容と達成水準を可能な限り具体的であること。「ベストを尽くす」といった曖昧な表現を排除する。
M(Measurable):達成度の測定が可能な目標であること。0か1かの2択ではなく、どのように達成度があげられていくのかを明確にする。
A(Achievable):達成可能なレベルでストレッチした目標であること。高すぎる/低すぎる目標は、逆にモチベーションを低下させてしまう。
R(Relevant):本人のミッション・役割に関連した目標を定める。会社に貢献しない目標は評価に値しない。
T(Time-bound):目標に達成期限を設ける。「いつまでに達成するか」を達成度の判断基準とする。
4-2-3.達成水準を100%, 80%の2つで定義する
達成基準の設定方法のポイントとして、100%水準に加えて、少なくとももうひとつの水準(80%)を設定することをおすすめします。これにより、100%以外の達成水準を相対的に捉えやすくなります。
4-2-4.達成までのプロセスを明確にする
目標を明確に設定することと同じぐらい、その達成までの見通しを立てることは大切です。 本来は目標の内容と達成基準のみを合意することが最低限の要件と言えますが、部下と上司のすり合わせの機会として、”どのように達成していくか”まで踏み込んだ話をしましょう。これにより部下の目標達成を上司が支援できますし、部下の側も上司にサポートされているという安心感を得ることができます。
4-3.事実に基づいた評価づけ行う
期末に評価づけを行う際のポイントは、事実に基づく評価づけを行うことです。目標の達成度は、実際に得られた成果の内容に従い決定されます。もし事実に基づかない恣意的な評価がなされると、せっかく期初に素晴らしい目標を設定しても社員のモチベーションを下げることになりかねません。誰であっても、約束を反故にされると落胆してしまいますよね。
いわゆる日本企業の長期雇用、年功序列が前提の組織であれば、「今年はこの人が昇格する番だから、今年は私の評価が抑えられているのも仕方ない」「評価結果以外の点でポイントを稼ぐことが大切」と、自分を納得させることも可能ではあります。しかし、海外現地法人のような多国籍の組織では、各期のパフォーマンスに従って各期の評価が決定され、報酬で精算されるのが一般的です。組織の中で”空気を読む”という行為は通用せず、むしろアンフェアであるという印象を与えるでしょう。
5.最後に
いかがでしたかでしょうか。上記のように、評価対象者を整理し、評価しやすい目標を設定し、事実に基づいた評価付けを行うことが運用において最も重要なポイントなります。MBO評価は「難しい」というイメージがありますが、運用を上手く行うことで、社員のモチベーションと納得度をより高めることができます。MBO評価を活用して、よりパフォーマンスの高い組織を作っていきましょう。
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