社長の右腕として戦略人事が果たす真の役割と具体的行動

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戦略人事という言葉は、
1990年代にアメリカのミシガン大学で言われ始めましたが、
日本ではここ数年で、目立って来たキーワードとなっています。

その背景にはおそらく、
多くの日系企業に共通する下記のような特徴と、
人や組織における課題が考えられます。

<特徴>
・日本的経営の3つの特徴(終身雇用、年功序列、企業別組合)
(ジェームズ・C.アベグレンが『日本の経営』(1958年)の中で指摘)
・組織構造がひょうたん型となり、増える名ばかり管理職
・戦略的集中(捨てる覚悟)が持てない経営者

<課題>
・激化するグローバル競争下における顧客ニーズの多様化と
そこに伴う業務の細分化・複雑化への対応と求められる人材の質
・働き方改革による時間あたりの生産性向上
・国籍、雇用形態、性別問わず多様性を活かすマネジメント対応

これらに対し、
経営者は人事に対し、指示を淡々とこなすだけでなく
経営の考えと連動し主体的に動くことを求めるようになり、
求める役割と現状の間に、課題が生まれました。

具体的には、人事自ら経営に参画する意識の低さ、人事施策の戦略性の無さ、
自ら考え動き社内を巻き込むリーダーシップの欠如が挙げられます。

これら課題を解決するため、「戦略人事」が必要とされています。

では、そもそも戦略人事とはどういうものなのでしょうか?
なぜ、戦略と人事を紐づかせる必要があるのでしょうか?
現状からどのように変えていく必要があるのでしょうか。

ひとつひとつ紐解いていきます。

ーー目次ーーーーーーーーーーーーーー

1.戦略人事とは
1-1 戦略人事の定
1-2 戦略人事を理解するための取組み例の確認
1-2-① 経営戦略と連動した評価制度の構築
1-2-② 評価制度を現場レベルに落とし込み浸透させ組織文化を作る
1-2-③ 戦略人事達が持つHRミッション
1-3 日系企業における管理エキスパート人事の理解

2.戦略人事が導入されにくい日系企業の問題と解決策
2-1 トップや管理職の既得権益という問題
2-2 管理職の既得権益問題を理解するための例の確認
2-3 人事戦略を経営戦略の肝に据える
2-4 経営戦略と人事施策が連動せず成果が挙らない例

3.戦略人事が日系企業において最も効果を上げる有効なやり方
3-1 新たな組織文化を生み出す
3-2 新たな組織文化を生み出す意味を理解するための例の確認
3-3 自社の売上に繋げる人事施策のポイント
3-4 人事施策を効果検証・分析する
3-4-① 効果検証モデルを通じて効果レベルを決める
3-4-② イベントスタディというファイナンス手法を用いる

4.戦略人事として価値発揮出来る人の特徴とポイント
4-1 戦略人事として価値発揮出来る人の共通点
4-2 戦略人事として価値発揮出来る人の具体的意識・思考・行動特性

最後に

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

1.戦略人事とは

まず戦略人事とはどういうものなのか?
を見ていきます。

1-1 戦略人事の定義

戦略人事の始まりは、1990年代にデビット・ウルリッチらが定義された考え方と言われています。

下記図にある通り、人事の主な仕事を4つに整理しています。

ひとつひとつ見ていきます。

管理エキスパートとは、
要は、制度の管理や運営を行なう専門家です。
例えば以下のような業務があります。

・給与レベルレビュー
・人材配置結果検討
・応募者選抜/面接
・福祉プログラム実施
・職務再評価/昇進
・データベース管理、インプット処理
・データ報告と分析
・訓練プログラムの実施
・面接処理

従業員チャンピオンとは、
要は、従業員を第一に考え従業員に対する支援者です。
例えば以下のような業務があります。

・自社wayを促進する
・従業員調査を実施とフォローアップ
・参画的経営の促進
・仕事と私生活のバランスを適正に保つ
・マネジメントによるコーチングと従業員とのコミュニケーション
・業績管理レビュー
・従業員と管理者を参画させた是正措置

戦略パートナーとは、
要は、人材戦略とビジネス戦略を繋ぐ共同経営者です。
例えば以下のような業務があります。

・ビジネス目標に対応する形で人材経営戦略を生み出す
・企業の価値観、ミッション、ビジネスプランを作る際に専門的援助を行なう
・マネジメントチームの一員としてビジネスの意見決定に貢献
・方針プロセスに参画。CEOの進める人材方針プロジェクトを支援
・要員計画、スキル評価、後継者育成など多様な人材の活用、再訓練プログラムマネジメント

変革エージェントとは、
要は、ライン管理者と協力して、変革をリード・促進する代理人です。
例えば以下のような業務があります。

・変革マネジメントの促進
・組織の生産性向上に対する助言(評価と診断、契約、アクションプラン、評価、フォローアップ)
・組織設計
・コンピテンシー分析
・長期的視点にたったチームとマネジメント開発

「戦略人事」の担当する仕事とは、
管理エキスパートや従業員チャンピオンから、
戦略パートナーや変革エージェントの仕事を担い推進することです。

2000年代以降は企業経営の高度化・複雑化、グローバル化に伴い
経営戦略を実現する「戦略パートナー」としての機能がより重要視され今では注目を集めています。

また、企業経営において、
経営戦略と人材マネジメントを連携・連動させることで競争優位を目指そうとする考え方、
およびそれを実現するための人事部門の機能や役割(採用・教育・評価・報酬などを再構築し統合する)を
包括的に示す用語とも言われています。

要は、「社長の右腕」という意味です。
図で示すと下記のようになりますが、

経営からの指示・命令を施策に落とし込む業務遂行や受け身的な行為
(従業員チャンピオンや管理エキスパート)から、
経営に参画し経営戦略を戦略的に実行する業務革新や能動的な行為、
(変革エージェント、戦略パートナー)を果たすことを意味します。

1-2 戦略人事を理解するための取組み例の確認

では戦略人事を理解するための取組み例をご紹介します。
リーダー育成で有名なグローバル企業のゼネラル・エレクトリック(GE)です。

GEでは、戦略パートナーとして、
経営戦略と連動した評価制度を構築し、
変革エージェントとして、HRミッションを持ち、
評価制度を現場へ落とし込み組織文化を作り出しました。

では具体的に見ていきます。

1-2-① 経営戦略と連動した評価制度の構築

米GE社CEO ジェフリー・イメルトはこう語っています。
「…産業の変化に対応するには最適な実行者が不可欠。
同時に、よく素早く、よりインタラクティブな文化を身につける必要がある….」
(出所:日経ビジネス 2016.10.17号 P13)
GEの事業戦略の方向性を一言で言えば、
「インダストリアルインターネット」。

米GE社が掲げる成長のための新構想です。

具体的には、
航空機のジェットエンジンや発電所のタービンシステム、
鉄道車両、建設機械などをネットワークに繋げ、
そこから、生み出されるビックデータを解析し、
オペレーションの効率化や新たな顧客ニーズの発見につなげる取組みです。

IoTビジネスを中心に据えて、
既存事業の変革を図ろうとしています。

そのような考え方に準じて必要となる人材評価の考えが、
これまでの「パフォーマンス・マネジメント」から
「パフォーマンス・ディベロップメント」への転換です。

では、どういう転換を意味しているのか見ていきます。

GEではこれまで上司と部下の接触頻度は、期初に多く、
以降は頻度が下がる傾向にありましたが、

それではもはや既存事業を変革しようという
戦略に追いつきません。

そこで以下のように2点変更しました。

a.期初の上司と部下での「プライオリティの設定」

プライオリティの設定基準については、
会社やビジネスが重視する結果(インパクト)を重視して
いる点が特徴です。

期初に何を(プライオリティ)、
どのように(GE Beliefs)を行うかを擦り合わせる。
*GE Beliefsとは、GE Valuesより落とし込まれた社員に
求められるコンピテンシーです(後ほど記載)

b.上司と部下との「タッチポイント」

「プライオリティの設定」後は、
月2回程度の上司と部下の対話の場があります。

ここでは「タッチポイント」を重視します。

タッチポイントとは、部下の活動の現状把握を行い、課題共有する
上司として、その部下の活動課題の解決に向けてのコーチングを行う
この対話を通じての「インサイト(本質的な洞察)」を
リアルタイムに共有するという意味です。

「プライオリティ」の変更が必要である場合、
このタッチポイントの場で行います。

つまり、上司は部下を管理するのではなく、
部下の成果に向けての活動をより促進する役割を担う、
「パフォーマンス・ディベロップメント」が求められるのです。

1-2-② 評価制度を現場レベルに落とし込み浸透させ組織文化を作る

GEでは事業戦略に準じた評価制度の運用から報酬決定までを
現場レベルに落とし込み浸透する(組織文化をつくる)まで徹底的に行なっています。
では具体的に見ていきましょう。
評価時において、上司は「タッチポイント・サマリー」のみを使用します。

これは評価期間内に行われた
部下との「タッチポイント」での記録の要約です。
しかも、SABCDなどのレイティングは付しません。

部門での評価会議では、メンバーの顔つきの組織図が広げられ、
該当のメンバーの報酬額を上司間で決定します。

ここにおいて、
あらかじめ定めた正規分布率(ベルカーブ)に収めるのを廃止しています。

では、どのように報酬額が配分されるのでしょうか?

部門に報酬原資が渡され上司間で、
該当のメンバーの「タッチポイント・サマリー」を
共有・議論し、報酬額決定します。

該当メンバーの直属の上司は、
そのメンバーの業績や日々の活動について
「タッチポイント」を通じて理解しているので、
上司間で納得づくの話し合いがなされ、報酬額を決定します。

そのため、上司はタッチポイントを自らの仕事として捉え、
本気でメンバーと向き合うことが求められるのです。

このような取組みの背景には、
先ほど触れた経営理念である“Growth Value”があり、
そこから落とし込まれた行動指針、“GE Beliefs”(下記図参照)があるのです。

つまり、これは会社として社員が成すべきことが明確に、記されているのです。

参照1:Growth Value

Growth Valueとは、GEのすべての社員の人事評価の指標となっている
「社員へ期待する行動であり文化」のことです。

5つのバリューは以下のとおり。

  1. 外部志向(External focus)
  2. 明確でわかりやすい思考(Clear thinker)
  3. 想像力と勇気(Imagination & courage)
  4. 包容力(Inclusiveness)
  5. 専門性(Expertise)

参照2:GE Beliefs

1-2-③ 戦略人事達が持つHRミッション

これまで見てきた人事施策を戦略パートナー、変革エージェントとして
行なうためにGEの人事が果たすべき目標や大切にすべき価値を
明文化し、人事内での共通言語としています。

下記にある通り、
ビジネスのグローバル化を促進し、常にシンプルさを
追究とあり、その上で人事のValueまで落とし込まれています。

このミッションがあることで、
経営理念踏まえ人事として成すべきことが明確に、
記されているため人事施策を人事全員が同じ方向を向きて
推進することができるのです。
このように、
企業の組織文化は経営理念と連動した評価の仕組みを
現場に根付くまで行う人事のミッションを持つGEの仕組みは、
各社から注目されています。

1-3 よくある人事機能例:日系企業・大手メーカー

一方で、別のケースを見てみましょう。

100年を超える日系大手の製造メーカーです。
企業企慕はグループ全体で1万名以上。

海外と日本との売り上げ比率は55:45。
今後更に、グローバルを市場拡大を狙っています。
この企業では人事を、
「企画・運営機能」と位置づけています。

大手の日系企業ではよくあるケースですが、
人事機能のみが事業会社化され
人事の機能サービスを本社ならびにグループ各社に提供しています。

採用や育成など機能別に人事が組織化され
それぞれがそれぞれの目標に向け活動を行なっています。

そこで働く人事からは、

「経営の方針が分からない」
「また上が勝手に言ってきた、
「人手が足りず、回すことで精一杯です」

という声を聞きます。

また、「人事のミッションは?」と聴いても、
「そんなこと、話したこともないです」と答えます。

このような声が出てくる背景には、

人事が、採用、育成、制度、働き方改革、ダイバーシティなど
細分化させた結果、組織が縦割り化し、
「自分の与えられた役割だけ担っていれば良い」
という考え方になります。

そのため戦略に対しての興味が湧きにくくなり、
戦略と関連づけて考えることは困難になります。

2.戦略人事が導入されにくい日系企業の問題と解決策

では、戦略人事がどのようにすれば組織に導入でき業績や社員の育成の面でも
高い効果を得られるのでしょうか。

2-1 トップや管理職の既得権益という問題

戦略人事の導入にあたり、
前提として押さえておく必要があるのが、
トップや管理職の既得権益という問題です。

既得権益とは、
ある社会的集団が歴史的経緯により
維持している権益を意味します。

既得権益の問題点について、
Wikipediaでは下記のように定義しています。

===

社会の中で富(資本)は、集団や個人の実力や正確な評価に対して

適切に分配されなければならないが、一度既得権益が生まれると、

既得権益そのものが、さらなる富を獲得する力となるため、

既得権益の有無や大小だけで富の分配が大きくなされてしまい、

結果として実力や正確な評価に対する富の分配が行われなくなるところにある。

===

2-2 管理職の既得権益問題を理解するための例の確認

では管理職の既得権益問題について実際の事例をお伝えします。

ある大手食品メーカーでは、管理職は、昔ながらの
「俺の背中を見てついてこい」
というやり方で部下やメンバーと接していたため、
部下は育たず、業務は管理職に集中し、「プレイングマネジャー」が多く存在していました。

そのような管理職の元では、部下は上司の顔色ばかりを窺い
自分の意見を言わなくなり上司や会社に諦めていきます。

その会社では、入社3年以内で4割の若手が辞めていました。

実態を調べていくと成果に応じた正当な評価がなされず、
本人にも管理職からきちんとしたフィードバックが出来ていない
という根本課題が浮かび上がってきました。

人事もその実態を知りませんでした。

恐らく、管理職の実態として、既得権益を持ち変化を臨まない管理職が増えています。

このような管理職は過去の成功体験が判断軸となり、
部下やメンバーの主体性を削ぐ可能性が高い同質性のマネジメントが特徴です。

このような会社の管理職へマネジメントプログラムで関わったのですが、
管理職本人はメンバーの主体性を削いでいることに気付いてすらいませんでした。

2-3 人事戦略を経営戦略の肝に据える

このような状況に対し例えば欧米企業ではマネジャーのクビを切って
人の入れ替えをすれば良いという発想になりますが、
日本企業の経営者が考えるべきポイントをお伝えします。

重要なことは、経営者が人材をコストとしてみるのではなく、
「人事戦略が経営戦略の肝である」
という覚悟が持てるかどうかです。

例えば、あるシンガポールに統括機能があるグローバル企業では、
社長、人事、経理のトップ同士で経営戦略会議を行う。

そこでは事業と人の活かし方、お金の使い方が議論され、戦術として現場に落とし込んでいきます。

特に欧米企業の多くでは最高人事責任者
:CHRO(Chief Human Resource Officer)
というポジションを置いています。

その背景には、人事はスペシャリストとして
経営上、重要なポストであり、人事戦略を経営戦略とセットで考えているのです。

実際、そのような人事としてのスキルを高めるため、
アメリカではHRM人事マスター(修士)コース
(Human Resource Management)
や、シンガポールでも人事部専門のマスター(修士)コースがあります。

2-4 経営戦略と人事施策が連動せず成果が挙らない例

経営戦略と人事施策が連動せず狙い通りの効果が得られていない例をご紹介しておきます。

「イノベーションが生まれない」
と真剣に悩んでいる経営者の組織の話しです。

経営方針で「イノベーション」を掲げる
グループ全体で1万名を超える日系企業。

人事に経営方針に対する取り組みを聞いていくと
「コスト削減」や「社内アイディアコンテスト」
など多くの取り組みをされていましたが、

「イノベーションは起きていますか?」
「業績や生産性は上がっていますか?」

と担当者に聴くと「NO」と言います。

狙った通りの業績向上には至っていません。

更に聴いていくと、「イノベーション」という言葉の定義や意味が人事内で統一されていませんでした。

このように経営戦略と具体策を紐付けて考えなければやることが目的となり、非生産的な状況に陥ります。

3.戦略人事が日系企業において最も効果を上げる有効なやり方

ここでは戦略人事が日系企業において最も効果を上げる有効なやり方
として具体的に何をすればよいか見ていきます。

3-1 新たな組織文化を生み出す

社長の右腕として、自社に相応しい組織文化を生み出します。

そのためには組織文化を循環させる仕組みを入れます。

例えば以下アプローチがあります。

1)企業トップの交代
例:外部から経営者をヘッドハンティング、外部取締役

2)抜擢人事と優秀な人材をプール化
例:タレントマネジメント、人材能力の見える化

3)透明性のある成果を評価ある制度構築と運用
例:期待値(役割)を示し期待に応えたかを明確に評価し、
評価に応じて処遇する、キャリアパスに基づくキャリアアップを行なう

3-2 新たな組織文化を生み出す意味を理解する例の確認

では、具体例を見てみましょう。

トップが変わり組織文化を変えたことで有名なのは、サントリーのトップになった元ローソンの新波さんや、
フランスルノーのトップで、日産の経営危機を救ったカルロスゴーンさんです。

サントリーでは、アメリカビーム社の買収後以降、残業削減などの働き方改革に加え、健康経営を謳い組織文化を変えました。

カルロスゴーンさんは、
「コストキラー」
「ミスター調整(FIX IT)」
という異名があり、日産再建に向け社員とともに「日産リバイバルプラン」を作成。

短期間で日産の経営立て直しを果たしています。

2003年にフォーチューン誌では、
彼を「アメリカ国外にいる10人の最強の事業家の一人」
と称しています。

またあるメーカー企業では評価制度をこれまでの日系企業にありがちな上から仕事を与え、
あいまいに評価し、安定的に処遇するやり方から欧米流の成果主義を取り入れました。

制度変更に伴い組織体制も変更され、自社にもともといたラインマネジャー500人を
半分以下に減らしました。

3-3 自社の売上に繋げる人事施策のポイント

人事施策の効果を売上という観点で見るという意味です。

そのためには、人事施策の投資対効果を図る際、効果をどう定義するかが重要になります。

では、具体的にケースを見てみましょう。

ある日系大手製造グループ企業ではこれまで、採用は英語力、出身大学、自社に合うかどうか、
頑張ってくれそうなどといった面接官との相性で決まっていました。

育成は、年次毎に必要な能力の研修を受講させたりトレンドを取り入れていましたが、
人事施策は「ビジネスで活かす」ものへという経営からメッセージが発信され、
抜本的に見直しが行なわれました。初年度は採用と育成に対して

各施策の投資対効果を図り無駄な活動・予算を徹底削減しました。
例えば育成体系・研修体系については、下記の進め方にて行ないました。

1)各事業体別のビジネス戦略ごとに社員に本当に必要な能力の棚卸しを実施
2)必要な能力養成が出来ている育成体系かを検証
3)本当に必要なプログラムのみ再考・実施
4)各研修施策の効果測定は「ビジネスに活かす」=成果のみで図り数値化し各社人事がモニタリング。
5)グループ各社で検討委員会を設置し、次年度の研修体系をブラッシュアップしていく

採用において求める人材も、
「自社のビジネスを成長させることができる人」
として定義が見直されました。
人材像の見直しに伴い、勿論、採用基準、面接官の評価基準も変更されました。

このように、自社の売り上げにつながるものだけに
選択と集中させたことで今ではグローバル競争の中でも
順調に売上を伸ばしています。

3-4 人事施策を効果検証・分析する

戦略人事が果たすべき役割として、
人事施策を効果検証・分析するやり方をご紹介します。

3-4-① 効果検証モデルを通じて効果レベルを決める

効果検証・分析とは、目的ではなく手段です。
自社にとって分析する目的は何なのかを明らかにしておくことが重要です。

参考までに人材育成の効果検証モデルで知られている
フィリップスモデルの考えを記載しておきます。

レベル4もしくは5で、測定するためのやり方を次に紹介します。

3-4-② イベントスタディというファイナンス手法を用いる

イベントスタディとは、企業の何らかの情報の発信が、
その企業の株式価値にどの様な影響を与えるか、という問題を分析する、
ファイナンス論の手法です。

例えば、株式・債券の発行、自社株買い、業績予測修正などの
企業の財務的決定についてのニュースがその企業の
株価に与える影響の分析のためにしばしば用いられます。

人的資源投資があることによって、
その前とその後での株価の反応の差を見ます。

人的資源投資関連記事とは、
給与・福利厚生、採用、人員削減、人事システムなどに
関する記事を指します。

人的資源投資が経営層から発表され、
その情報を投資家・株主が評価することでイベント
(人的資源投資の発表)後の株価がどう変わるか、
ということです。

進め方の具体的ステップを紹介しておきます。

①イベントの定義
(要件に照らし合わせて人的資源投資をピックアップする)

②イベントウィンドウの設定
(人的資源投資関連が株価に与える期間を決める)

③推定ウィンドウの設定
(投資がなされる前までは、人的資源投資とは無関係に株価が動く。その無関係な期間とは一体何日間か決める)

④正常リターンの推定と異常リターンの測定
(人的資源投資が無かった場合の株価がどれほどかをまず推定して、投資がなされた後の株価とどう違うかをチェックする)

⑤異常リターンの分析
(人的資源投資がなされた後の株価について、全体的に何がいえそうかを検討する)

アメリカでは人事戦略の株価への影響について分析が
進んでおり、統計的に分析することで人事戦略が経営戦略に
どのようなインパクトを与えているかの論拠を考えることができます。

4.戦略人事として成果を出す人の特徴とポイント

4-1  戦略人事として成果を出す人の共通点

これまで見てきたような戦略人事を果たせるように
なるには、どのようなことが求められるのでしょうか。

私は、人事コンサルタントとして、1000社以上の人事と接してきました。
その中から、戦略人事を成し遂げる人の共通点を見つけたので記載します。

・自社のビジネスがどうやったら儲かるかを常に考えている
・自社を業界No1にしたいという強い意思がある
・勝ち、負けに拘っている
・人事機能を活かしてビジネスにインパクトを与えるスキル・知識がある
・社内巻き込みが上手い

4-2 戦略人事として成果を出す人の具体的意識・思考・行動特性

ではそれぞれどのような意識、思考、行動なのか。具体的に見ていきましょう。
ご自身あるいは自社の人事がどうなのかチェックしてみてください。

①「自社のビジネスがどうやったら儲かるかを常に考えている」
□経営戦略と人事施策を連動して考えている
□グローバル思考がある
□ビジネスに興味がある/現場に対する問題意識がある

②「自社を業界No1にしたいという強い意思がある」
□競合へのアンテナがある(外を見て内を見る)
□自社へのロイヤリティがある
□健全な危機意識がある(現状に満足はしない)

③「勝ち、負けに拘っている」
□短期・長期視点がある
□競争相手を外に見ている
□自分の存在意味・価値発揮に重きを置いている

④「人事機能を活かしてビジネスにインパクトを与えるスキル・知識がある」
□MBA,マーケティングなどの最低限の知識がある
□投資対効果を常に気にしている
□ビジネスインパクトの意味を自ら考え続けている

⑤「社内における巻き込みが上手い」
□社長に対し提言できる
□社内における他部署や自部署にいつでも相談できる人と関係構築が出来ている
(キーマンを押さえている)

最後に

これまでの人事は戦略の実行のみを果たすオペレーショナルな人事でした。

なぜなら、安定的に売り上げがあがり、終身雇用、年功序列が存在する日系企業では
トップの言うことを実現する役割が求められたからです。

しかし、昨今のビジネス環境は「VUCA」と呼ばれます。
(Volatility(不安定)、Uncertainty(不確実)、Complexity(複雑)、
Ambiguity(曖昧模糊)の4つの頭文字からできています)
そしてグローバル競争下において、
管理エキスパート、従業員チャンピンという役割だけでは
企業は生き残って行けません。

だからこそ、人事の役割を再定義し、戦略人事が機能する組織になることが
自社の売り上げを上げ、ビジネスを拡大させる鍵になるのです。

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和久田 恵太郎

和久田 恵太郎

Chief Operating Officer at beyond global Japan株式会社
大学卒業後、大手外資系メーカーでプロモーションや新規開拓営業を経験。シェアを拡大し販売モデルを構築。5年後、株式会社シェイクに入社し、コンサルティング部門の責任者として企業ごとの経営戦略からあるべき人材育成を描くコンサルティング営業を行う。特に研修設計から組織開発の企画と実行までを担う。得意分野は、ビジョン構築や組織変革デザイン。大手商社、老舗メーカー、金融系など実績手数。同時にファシリテーターとして若手向け研修の登壇や、部長から課長層へのコーチングと行動変容をサポートする。その後、beyond global グループに参画。日本の責任者として日系企業の真のグローバル化支援に奮闘中。主に組織開発、赴任前研修、グローバルマインドセット、修羅場経験のデザインなどプロデュースを行う。
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