日本の常識はアジアの非常識。アジアでの採用がこんなに難しい理由。

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Asian recruitment

海外での人材獲得は難しい。そう感じられている企業人事の皆さんは多いと思います。

ジェイエイシーリクルートメントが行った調査*によると、現地国籍の管理職人材の採用活動を行なっている日系企業の約70%は、その獲得に苦戦していると回答したそうです。

とりわけ、成長が見込める市場での展開には、現地の優秀な人材の確保が重要な戦略となってきます。

しかしながら、アジアにおける日本企業の就職人気は低く、他国のグローバル企業から比べても苦戦を強いられています。2012年にジョブストリートビジネスコンサルティングが行った調査によると、「アジア7カ国における賞賛に値する会社トップ30」のうち、日本企業はたった2社しかランクインしていませんでした。

日本国内では、黙っていても求職者が集まる有名企業でも、現地に来たとたん、人材獲得競争においては負け組みとなってしまうのです。

※『東南アジアにおける日本企業の幹部人材現地採用 [概括](2013年11月発行)』

アジアでの人材獲得が難しい理由

どうしてアジアでの採用は難しいのか。

その背景には“日本の常識はアジアの非常識”と言われるほど、会社や働くことに対する考え方の相違があります。またさらに難しいのは、日本とアジア諸国というわかりやすい相対ではなく、日本も含めて、アジア各国それぞれ違うということです。

2年前、私がシンガポールで参加した「グローバルリクルーティングサミット」では、アジア各国を代表するリクルートエージェントが、それぞれの市場の特徴を紹介し合っていました。各国の採用担当はそうした情報を収集しながら、次に狙うべく人材獲得市場を考えていました。ショックだったのは、そうした場に日本企業は1社も参加していないことでした。

では、アジア各国では、会社や働くことに対する考え方がどのように違うのでしょうか。この辺りを知らずして、採用戦略を練ることはできません。

リクルートワークス研究所が2013年に発行した「アジアの『働く』を解析する※」を参考にご紹介したいと思います。

※調査は、中国、韓国、インド、タイ、マレーシア、インドネシア、ベトナム、アメリカ、日本の20〜39歳の男女を中心に、2012年に行われたものです。

採用担当者が知っておくべき、アジア諸国の「働く」ことに対する意識の違い

例えば、「仕事をする上で大切だと思うもの」と問われると、皆さんは何と答えるでしょうか。

前述のデータによれば、日本人の多くは「良好な職場の人間関係」と挙げたことに対して、他のアジア諸国の回答は「高い賃金・充実した福利厚生」が圧倒的に1位です。“どんな職場で働けるのか”という働き心地を重視する日本人に対して、“その会社がどれだけ与えてくれるのか”を選択するそれ以外のアジア諸国。採用においても、この賃金の魅力づけができないため、人材獲得が困難と感じている日本企業も多いようです。

ただし、「仕事をする上で大切だと思うもの」の2位の項目からアジア諸国にもばらつきが出始めます。中国では「明快なキャリアパス」を重視するのに対して、「教育機会の提供」を求めるのはベトナムです。また、インドやタイ、マレーシアなどでは「雇用の安定性」という項目が挙がってきます。

では、働く上での価値観はどう違っているのだろうか。

「グローバル志向」「人間関係」「働く目的」の3つの観点で比較すると、日本人は、ローカル志向が強く、できれば一人で完結する仕事を好む傾向が強いのに対して、インド人はその対極で、グローバル志向が強く、多くの人を巻き込む仕事を好むようです。また、自分や家族のために働く日本、韓国に比べ、ベトナムやインドでは、国や地域を発展させるために働きたいと考えている人が多いようです。人材募集においても、それぞれの価値観をくすぐるような仕事があるかは重要なポイントになるでしょう。

なぜ、アジア諸国のビジネスパーソンは、転職するのか?

最後に「転職回数」や「転職の理由」について考えてみましょう。

日本と比べ、アジア諸国のビジネスパーソンは、よく転職すると言われます。日本では新卒で入社した企業を一生勤め上げる人が多い中、インドネシアやマレーシアでは、4回以上転職する人が当たり前に存在します。

転職する理由を分析すると、日本人は「労働条件や勤務地への不満」が1位に挙がるのに対して、その他多くのアジア諸国は「賃金への不満」が圧倒的です。まさに、先ほどの「仕事をする上で大切にするもの」の結果が、ここでも影響しています。反対に日本では「賃金への不満」を一番の理由に転職する人は、ほとんどいません。

ここで面白いのは、「転職のきっかけ」です。

マレーシアやタイ、インドなどは転職者の半数近くが「転職活動はしていなかったが、勧誘された」と回答しているのです。その他の国でも、日本と比べるとその割合が高く、転職を本人が希望していなくても、引き抜かれてしまう可能性が高いことを示しています。

しかも、通常そういった「引き抜き」は人材紹介会社のような転職エージェントが行っているだと考えますが、引き抜きの多くは「家族や知人の紹介」です。従業員の親族などが声をかけて、自分の勤める会社へ引っ張るなんてことが普通に行われています。

先日タイにある日系企業の人事の方とお話ししたのですが、工場の1ラインごとゴソッと人材が突如引き抜かれ、なんと、すぐ隣の別の会社の工場で働いていることが判明したそうです。日本ではなかなか気まずくて、できることではありませんが、その時の人事担当の青い顔が想像できます。

現地の優秀な人材を獲得するために

会社や働くことに対する“期待”が日本と全く違うということを前提において、採用やマネジメントを行っていかないと、なかなか現地の優秀な人材に振り向いてもらうことはできません。

こうした雇用者の価値観を理解することと同時に、雇用におけるルールの違いも把握しておきたいところです。特に急速に発展しているアジア市場にいては、この雇用のルールも、めまぐるしく変わっています。常に現地のエージェントやローカルの人脈とも繋がりを持ちながら、その変化にいち早く対応していってほしいと思います。

今後も、アジア市場における雇用や採用に関するテーマを発信していければと思います。読者のみなさまから、「こんなテーマを調べて欲しい」「こんなことに困ってます」「よい事例を紹介して欲しい」といった声を是非編集部までお届けください。

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菊池 龍之
1976年滋賀県生まれ。同志社大学卒業後、人材コンサルティング会社である日本データビジョンへ就職。2011年に「世界の採用を研究し、日本のこれからに活かす」をモットーに株式会社コヨーテを設立。採用研究をベースとして、コンサルティングや各地でのセミナー活動を行う。2016年4月に家族でマレーシアへ移住。日本で働き、マレーシアで暮らす2拠点生活を実験中。グローバルリーダーシップ研究所の研究員も兼務し、現地企業の人・組織をテーマとしたリサーチ活動も行っている。
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