オンラインコミュニティ―今、現れつつある新しい可能性

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コミュニケーション世界の急速なグローバル化や人工知能(AI)をはじめとするテクノロジーの発展により、企業で求められる人材の質も大きく変化しています。現在、人間が行う仕事の多くが機械に奪われることが予測され、「人間にしか出来ない、または人間が優位性を発揮出来る仕事はどのようなものか」といった議論も活発に行われています。例えば、様々な文化背景や価値観をもつ国籍を超えた人々と協力しながら、状況・場面に素早く適応し、創造的な発想を持って行動することは、まだまだ人間が優位性を発揮出来るとも考えられ、そのような人材は市場でも求められています。

では、そのような人材が集まり、創造的に何かを作り上げていくプロセスとはどういったものなのか。グローバルに新規事業や新規プロジェクトをマネジメントしていく人にとっては関心のあるテーマかと思います。

今回は、3年間で4,000名を超えるオンラインコミュニティを創り上げ、その中から多くの事業の種を生むことに成功されてきたオンライン教育プロデューサーの田原様に「オンラインコミュニティ」をテーマに記事をご寄稿いただきました。

オンラインコミュニティ―今、現れつつある新しい可能性

サイバティクスの創始者であるノーバート・ウィーナーは、社会的昆虫が作る社会と人間社会とを比較考察し、その根本的な違いは学習の有無であると結論した。

彼は、学習の本質は、メッセージのやりとりに対してフィードバック制御が働き、常に調整され続けることであると考えた。コミュニケーションにより、メッセージをやりとりすることによって学習回路が回り、コミュニケーション自体も変化していく。そのような動的な学習とコミュニケーションの在り方が、社会的昆虫とは異なる人間らしい社会を作っていくのだとウィーナーは考えたのだ。
ウィーナーの「学習を基盤とした社会秩序」という考え方は、インターネットと
いう新しいコミュニケーション技術が生まれ、コュニケーションの在り方に大きな変化が生じている現在、もう一度再考する価値があるのではないかと私は考えている。

オンラインコミュニティというサード・プレイス

レイ・オルデンバーグは、『ザ・グレート・グッド・プレイス』という著書の中で、サード・プレイスという言葉を定義した。ファースト・プレイスは自宅、セカンド・プレイスは職場である。それに対して、サード・プレイスはより創造的な交流が生まれる場所であり、非公式の出会いの場である。オルデンバーグによると、サード・プレイスは、次の特徴を備えている。

・無料あるいは安い
・食事や飲料が提供されている
・アクセスがしやすい、歩いていけるような場所
・習慣的に集まってくる
・フレンドリーで心地良い
・古い友人も新しい友人も見つかるようなところ

私は、2012年に「反転授業」と出会い、自分自身が学ぶために友人たちに声をかけ、オンラインの読書会を始めることにした。Facebookグループを作り、週に1回、Web会議室に集まり、論文を読んだり、議論をしたりということを始めたのだ。20名ほどではじまった活動は、わずか3年後には4000人を超える巨大なオンラインコミュニティになった。

「反転授業の研究」と呼ばれるオンラインコミュニティは、オルデンバーグのサード・プレイスの定義を非常に良く満たしている。食事や飲料は提供されないが、歩いて行かなくてもアクセスすることができる。

私たちは、このオンラインコミュニティで、新しい学習とコミュニケーションの在り方が、組織の在り方にどのように反映していくのかを実験してきた。ここでは、現実社会のしがらみから離れて大胆な実験を行うことができる。その結果、オンラインコミュニティでの体験を実生活に生かしたり、実生活での体験をオンラインでシェアしたりという、オンラインとリアルを行き来する学びの循環が生まれている。

オンラインコミュニティの発達段階

この3年間を振り返ると、オンラインコミュニティには発達段階があるのではないかと思う。これから、オンラインコミュニティを立ち上げていこうという人の参考になるように、私が体験したオンラインコミュニティの発達段階について紹介する。

(1)発芽期

最初は、動画を使った教育に関心がある数名で集まって「反転授業」についての文献などを読みながら議論していた。そこから、次の段階へ進むきっかけは、パワフルな問いが生まれたことだった。
「無料の動画講義が世の中にあふれる時代に、教師が提供する価値は何だろうか?」
「グループで話し合うことは、学びにどのように繋がるのだろうか?」
これらの問いに導かれるように、探求が始まった。

2)学び合い期

探求が始まるとすぐに、アクティブラーニングの実践者と繋がり、Web会議室で100名規模のオンライン勉強会を実施することになった。それをきっかけに、オンラインコミュニティに人が集まり始めた。コミュニティのメンバーがお互いに実践を報告し合う形でオンラインの学び合いが進んでいき、定期的に実施されるオンライン勉強会は、実践意欲を高める場となった。

この段階で気をつけていたのは、外から有名な人を連れてくるのではなく、コミュニティ内部で一歩踏み出した人の話を聞くようにしたこと。この結果、一歩踏み出す人が次々に現れてきた。

コミュニティの人数は500名を超えてきた。メンバーの約50パーセントが教師で、残りが企業人であった。メンバーの多様性を生かして集合知を生み出すために、共有ビジョンの必要性を感じるようになり、次のような問いを立てた。

「反転授業やアクティブラーニングは、知識基盤型社会、参加型社会に必要な21世紀型スキルを身につけることを目標にしているが、教員の多くが伝統的な教育を受けていて、チームによる価値創造を体験したことがないのに、どうやって生徒に伝えられるのだろうか?」

そこから、まずは、自分たちが体験していこうという気運が生まれ、次のような共有ビジョンが生まれた。

「主体的な学びについて学び合うことで、オンラインコミュニティに多様性のある森を育て、多様な収穫を分かち合おう」

(3)社会実験期

メンバー数が増えるにつれ、運営側の負担も増えてきたので、継続的な活動のために収益化を検討することになった。そこで、共有ビジョンに沿った形での収益化を考えることにした。

コミュニティでの学びを深めていくための有料のオンライン講座をスタートし、講座の設計、販売、運営などすべての活動から学びを得て共有していくことにし、メンバー数が1000名を超えた段階で、最初のオンライン講座を実施した。

反転授業に必要なスキルである、動画作成、授業設計、アクティブラーニング、ファシリテーションなどをテーマとしたオンライン講座を行い、講座運営方法のPDCAサイクルを回していった。その中で、講座のメリットを並べ立てて販売するという在り方が、教える側と教わる側という役割の固定に繋がっているのではないかという疑問が生まれ、オンライン講座の受講経験者から運営ボランティアを募集し、10-20名の運営チームを結成して講座を実施するようになった。

運営チームの人数が増えたことで、受講者中心で対話型の学びをオンライン上で行うことができるようになり、脱落者がほとんど現れず、講座修了後は、運営チームと受講者とが一体となった同窓会グループが毎回、結成されるという他に類を見ないオンライン講座を実施できるようになった。

そこで、コミュニティ内の集合知によって誕生したオンライン講座のフレームワークを、外部に提供していき、集合知→価値創造→価値提供の循環を生み出すとともに、オンライン講座運営という仕事を創出していくことを決め、他団体とのコラボレーションを始めた。

(4)事業展開期

2016年に入り、オンライン講座に使用していたWeb会議室Zoomにブレークアウトセッション機能が搭載されたことで、さらに大きな可能性が広がった。オンラインで対話型のワークショップを実施するための技術的なハードルが一気に下がったのだ。

リアルで実施されているワークショップや講座をオンラインで行うためのサポートを事業として展開していくことが可能になった。また、20名のプロジェクトチームを結成し、ホラクラシー1型のチーム運営を完全リモートで行うノウハウ、オンラインでの遠隔研修、Zoomを使った遠隔会議のノウハウ、Zoom運営やテクニカルサポートのノウハウもコミュニティ内に蓄えられているため、それらも事業展開できるようになった。

*1 :ホラクラシーとは、従来の中央集権型・階層型のヒエラルキー組織に相対する新しい組織形態を示す概念で、階級や上司・部下などのヒエラルキーがいっさい存在しない、真にフラットな組織管理体制を表します。(日本の人事部ウェブサイト 人事辞典(https://jinjibu.jp/keyword/detl/725/)より)

(5)分化期

グループのメンバー数が4,000名を超え、全体で一つのプロジェクトを定期的に実施していくことが、コアチームとその他を分離させる原因になってきているように感じ始めた。その状況を打破するために、2016年8月にオンラインでオープン・スペース・テクノロジー(OST)2を実施した。ここから、様々なアクションプランが立ち上がり、並行していくつものプロジェクトが走るようになることで、各自がコミットすることができる受け皿が増え、また、それぞれが主体的に取り組むことができる土壌が生まれるのではないかと考えている。

*2 : オープン・スペース・テクノロジー(OST)とは、関係者が一堂に会して話し合うホールシステム・アプローチの代表的な手法です。大まかなテーマに沿って、参加者自らが解決したい問題や議論したい課題を提示、進行の段取りも自主的に決めるなど、個人の主体性を重視することで参加者のコミットメントを最大限に引き出すのが特徴です。

(日本の人事部ウェブサイト 人事辞典(https://jinjibu.jp/keyword/detl/473/)より)

サードプレイスから立ち上がる新しい社会の在り方の可能性

サードプレイスでの活動は、各自が別に本業を持っているため、思い切ってリスクを取ることができる。そのため、経験学習サイクルを勢いよく回していくことができ、進化の速度を速めることができる。

また、勢いよく回る学びの渦が多くの人を引きつけ、コミュニティを発展させていく。経験学習サイクルが回る中で自然と共有ビジョンが生まれると、そのビジョンが道を切り開き、必要な情報やリソースが集まってくる。たった20名で行っていた読書会が、3年間で4,000名を超えるオンラインコミュニティに発展し、そこから多くの事業の種が生まれた。この経験は、私たちのマインドセットを大きく変容させた。

このようなことが可能になった背景には、Web会議室の性能が上がり、お互いの顔の表情、声の調子などを含めた非言語情報をストレス無くやりとりできるようになったことがある。スカイプを使っていた頃は、接続トラブルが対話を中断することが多くストレスが多かったが、Zoomを使うようになり、大幅に改善された。そのため、実際に会わなくても信頼関係を結び、ともに活動できるようになってきた。

「実際に会わないと信用できない」という部分を外すことで、人脈ネットワークの広がりは10倍以上の速さになった。私は、この変化が社会の在り方に地殻変動を起こすのではないかと考えている。

その仮説に基づき、現在、私が日常的にやっていることは、以下の3つである。

・想いを発信すること(ブログやFacebookで)
・想いでシンクロする人と対話すること(Zoomで対話する)
・想いを発信する人同士をつなぐこと(Zoomに数名で集まって話す)

この3つを繰り返していると、オンライン上にグループができ、自然発生的にプロジェクトがスタートし、発芽期へ突入する。

同時にいくつものプロジェクトに参画していくと、その中から次の段階へ進むものが現れ、さらには、事業化へと繋がっていくものも現れる。

オンラインコミュニティというサードプレイスは、いくつものコミュニティに重複して所属することが可能であるため、たくさんの種を蒔くことができる。

自然農法家の福岡正信さんは、何種類もの種を粘土団子に混ぜ込んで、大量に粘土団子を撒いた。そのときに必要とされているものが発芽し、循環構造を生み出し、調和へと向かうというのだ。

私たちも、福岡さんに倣って、クラウドに粘土団子を撒いている。
そこからどんな芽が生えてくるかは、宇宙が教えてくれるはずだ。

私は、予想もしなかった人たちとオンラインで繋がり、想いが共鳴してオンラインコミュニティが生まれ、自己組織化が起こり、大きなうねりとなっていく先に、新しいパラダイムが生まれる可能性を感じている。

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田原真人

田原真人

オンライン教育プロデューサー・自己組織化ファシリテーター 早稲田大学理工学研究科博士課程で生命現象の自己組織化について研究後、河合塾の物理講師になる。2005年に物理ネット予備校(フィズヨビ)を立ち上げる。反転授業との出会いをきっかけに、ピラミッド型の社会システムや教育システムに疑問を抱く。オンラインコミュニティに自己組織化を起こすための運営を実践し、コミュニケーション在り方を変えることから組織や社会を変化させることに取り組んでいる。 田原真人公式ブログ http://masatotahara.com  /  反転授業の研究 http://flipped-class.net/wp /  Zoom革命 http://zoom-japan.net

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